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出会編
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恩を売りつけるために、まずは何をすべきか。
とにかく情報が足りない。
「父さんは何て言ってるの?」
さすがに領主である父さんに断りなく動いたら、マズイからね。
失敗したら、僕だけじゃなくて父さんも領民も危険だし。物理的な意味で。
「旦那様は、現場に向かわれました」
「もう?」
すごいな。事実確認なんて現場でやってやる精神なのかな。
度胸があるのか、考えなしなのか。
いや、焦るよね、そりゃ。高位貴族ってだけでも関わりたくないのに、泣く子も黙るポルトガー公爵家ときた。
今回に限っては何も考えずに急行したって感じだろう。
貧乏でも、領民を飢え死にさせないよう領地を回せている父さんの能力は、伊達じゃない。
「母さんは?」
「人手の確保に奔走なされております」
あ~、確かに人全然足りないわ。
料理だって間に合わないよ。1人しかいないもん。
中の人が使用人だったら助かるなー。もっと言うと平民の出が嬉しい。
「僕、とりあえず掃除か仕込み手伝うよ」
「では、坊ちゃんには重大な御役目をお願いいたします」
「期待はしないでほしい……」
「王都の方々にお出ししても、差し支えのないデザートをお願いいたします」
無理だ。
王都のレベルだって知らないし、クッキーぐらいしか作れない。
せめて、バターとかアーモンドプードルがあれば高級な味になったかもしれないが、無いものはない。
「シド、正直に言って。僕のクッキーってどう」
「坊ちゃんのクッキーは、世界一です」
「ありがとう。王都の貴族街で売れると思う?」
「……………………………難しい、かと」
ほらね。それが答えだよ。
「ごめん。僕には出来ない」
「マルコは、クッキーすら作れません」
マルコー! 料理人のくせに、何で作れないんだ!
パティシエと同じレベルなんて求めてない。
だけど、分量計ればちゃちゃっと作れるでしょ。
プロなんだから。
「僕のレシピ渡すから、それを改良してもらえば良いんじゃないかな」
「彼はレシピ通りに作れないから、腕は確かなのに王都のレストランを追い出されたんですよ。
お忘れですか」
そうだった。
才能と家柄からすれば、こんな貧乏貴族が雇える人材じゃなかった。
普段のマルコが何故かポンコツなばかりにっ。
「忘れてた。じゃあ、ディナーは問題ないね。
材料は質素でも、味は確かだから」
「ディナーにデザートは付き物ですよ、坊ちゃん」
人間、諦めも肝心だと思う。
「しょぼいの出して怒らせちゃったら、どうしよう」
「坊ちゃんが作ったと言えば問題ございません」
目的はそれか。
領主の子供が作ったって言ったら、微妙でも受け入れるしかないもんねー。
本来、貴族が調理することは褒められたことではない。
だがしかーし! ウチのような貧乏貴族は、それに当てはまらない。
憐れみの対象になるだけさ。
「なるほど。じゃあ仕方ないか。
むしろ僕が適任なわけだ」
「左様でございます」
「……クッキーでいい?」
「可能であれば、見た目にも華やかなものか、斬新なものですと素晴らしいです」
クッキーじゃダメってか。
あと作れるのって何だっけ。
ホットケーキ、蒸しパン………地味だ。
ホイップクリームとか、果物があれば話は違うけど、ウチにそんな余裕はない。
「卵と牛乳、あと砂糖。いっぱい使ってもいい?」
卵と牛乳は領民に無理を言えば、何とかなりそう。
砂糖は高級品だから、本当は使いたくないんだけど。
「やむを得ないでしょう。
旦那様とマルコには、私の方から。
坊ちゃん、明日からのスープ生活頑張りましょう」
ああ、やっぱり。
カツカツな時や、作物が不良だった時に食卓に上がるうっすいスープ。具なんか野菜くずだけの日もあった。
砂糖を使うということは、そういうことだよね。
皆んな、ごめん。
「はーい……プリン、シドたちの分も作るから」
「プリン、初めて聞く名前ですね。
楽しみにしております」
「うん、まかして」
きっと大丈夫。プリンなら作ったことある、前世で二度ほど。
大丈夫だよね?
─────────
─────
───
「ダージル領、領主エオハルト・ダージルと申す!
失礼だが、ポルトガー公爵家の方々とお見受けする! 如何なされたか!」
一定の距離を保ち、エオハルトは馬車に向かって声を張る。
そしてその声に応えたのは、御者でも使用人でもなく、まだ幼い、しかし威圧感のある独特な雰囲気を持つ者だった。
「ダージル殿、貴領で迷惑をかけてすまないが、手を貸してくれないだろうか。
私は、ディオン・ポルトガー。ポルトガー公爵は、私の父だ」
とにかく情報が足りない。
「父さんは何て言ってるの?」
さすがに領主である父さんに断りなく動いたら、マズイからね。
失敗したら、僕だけじゃなくて父さんも領民も危険だし。物理的な意味で。
「旦那様は、現場に向かわれました」
「もう?」
すごいな。事実確認なんて現場でやってやる精神なのかな。
度胸があるのか、考えなしなのか。
いや、焦るよね、そりゃ。高位貴族ってだけでも関わりたくないのに、泣く子も黙るポルトガー公爵家ときた。
今回に限っては何も考えずに急行したって感じだろう。
貧乏でも、領民を飢え死にさせないよう領地を回せている父さんの能力は、伊達じゃない。
「母さんは?」
「人手の確保に奔走なされております」
あ~、確かに人全然足りないわ。
料理だって間に合わないよ。1人しかいないもん。
中の人が使用人だったら助かるなー。もっと言うと平民の出が嬉しい。
「僕、とりあえず掃除か仕込み手伝うよ」
「では、坊ちゃんには重大な御役目をお願いいたします」
「期待はしないでほしい……」
「王都の方々にお出ししても、差し支えのないデザートをお願いいたします」
無理だ。
王都のレベルだって知らないし、クッキーぐらいしか作れない。
せめて、バターとかアーモンドプードルがあれば高級な味になったかもしれないが、無いものはない。
「シド、正直に言って。僕のクッキーってどう」
「坊ちゃんのクッキーは、世界一です」
「ありがとう。王都の貴族街で売れると思う?」
「……………………………難しい、かと」
ほらね。それが答えだよ。
「ごめん。僕には出来ない」
「マルコは、クッキーすら作れません」
マルコー! 料理人のくせに、何で作れないんだ!
パティシエと同じレベルなんて求めてない。
だけど、分量計ればちゃちゃっと作れるでしょ。
プロなんだから。
「僕のレシピ渡すから、それを改良してもらえば良いんじゃないかな」
「彼はレシピ通りに作れないから、腕は確かなのに王都のレストランを追い出されたんですよ。
お忘れですか」
そうだった。
才能と家柄からすれば、こんな貧乏貴族が雇える人材じゃなかった。
普段のマルコが何故かポンコツなばかりにっ。
「忘れてた。じゃあ、ディナーは問題ないね。
材料は質素でも、味は確かだから」
「ディナーにデザートは付き物ですよ、坊ちゃん」
人間、諦めも肝心だと思う。
「しょぼいの出して怒らせちゃったら、どうしよう」
「坊ちゃんが作ったと言えば問題ございません」
目的はそれか。
領主の子供が作ったって言ったら、微妙でも受け入れるしかないもんねー。
本来、貴族が調理することは褒められたことではない。
だがしかーし! ウチのような貧乏貴族は、それに当てはまらない。
憐れみの対象になるだけさ。
「なるほど。じゃあ仕方ないか。
むしろ僕が適任なわけだ」
「左様でございます」
「……クッキーでいい?」
「可能であれば、見た目にも華やかなものか、斬新なものですと素晴らしいです」
クッキーじゃダメってか。
あと作れるのって何だっけ。
ホットケーキ、蒸しパン………地味だ。
ホイップクリームとか、果物があれば話は違うけど、ウチにそんな余裕はない。
「卵と牛乳、あと砂糖。いっぱい使ってもいい?」
卵と牛乳は領民に無理を言えば、何とかなりそう。
砂糖は高級品だから、本当は使いたくないんだけど。
「やむを得ないでしょう。
旦那様とマルコには、私の方から。
坊ちゃん、明日からのスープ生活頑張りましょう」
ああ、やっぱり。
カツカツな時や、作物が不良だった時に食卓に上がるうっすいスープ。具なんか野菜くずだけの日もあった。
砂糖を使うということは、そういうことだよね。
皆んな、ごめん。
「はーい……プリン、シドたちの分も作るから」
「プリン、初めて聞く名前ですね。
楽しみにしております」
「うん、まかして」
きっと大丈夫。プリンなら作ったことある、前世で二度ほど。
大丈夫だよね?
─────────
─────
───
「ダージル領、領主エオハルト・ダージルと申す!
失礼だが、ポルトガー公爵家の方々とお見受けする! 如何なされたか!」
一定の距離を保ち、エオハルトは馬車に向かって声を張る。
そしてその声に応えたのは、御者でも使用人でもなく、まだ幼い、しかし威圧感のある独特な雰囲気を持つ者だった。
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