転生したらモブだったけど、推しの悪役貴族を救いたい!

シマエナガ

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出会編

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 スキップで厨房に戻れば、中は戦場だった。
 さっきまででも十分に、無駄な動きなく調理を進めていたというのに、目にも留まらぬ速さで芸術的な料理が爆誕していっている。
 ここは本当に我が家の厨房か? 
この中に入るの嫌だなー。


「戻ったよ~」
「坊ちゃん!」
「うわ」


 邪魔をしないよう、こっそり入って行ったつもりが、すごい勢いでマルコが歩み寄って来る。


「公子はどんな方でしたか?
魚派ですか、肉派ですか」
「えっと、ごめん。分からない」


 挨拶しただけで、食の好みが分かると思ったのか、マルコさんや。
僕はエスパーじゃない。


「もうっ、何のために挨拶しに行ったんですか」
「礼儀としてですが」
「全く坊ちゃんには困ったものですね」
「え、僕が悪いの?」


 とりあえず、今日の夕食は、転生してから一番豪華だってことが確定した。
公爵家パワーって、すごい。


 さて、湯煎の具合はどうかな。
 竹串を縁に刺して、火の通りを確認してみると、少し卵液が串についてくるぐらいになっていた。


「んー、あと5分くらいでいいかな。
マリアさん、見ててくれてありがとう。
おかげで、表面に気泡も入ってないし、上手くいきそうだよ」
「いえ、私は見ていただけなので」
「プリンの湯煎はね、それが大事なんだ。ありがとう。
よし、そろそろ氷水の準備しよう」
「はい。
────あ、坊ちゃん。公子の瞳が魔眼って、本当ですか?」
「んんっ?」


 その噂って、ダージル領まで届いてるの?
 小説では、そのせいで学園でも遠巻きにされて、孤立しちゃうんだ。
本当は、覚醒遺伝というか、先祖返りみたいなものなのに。
 まあ、ぼっちのディオンもヒロイン(♂)の登場で、変わっていくんだけど。


「だって、漆黒の髪に、真っ赤な瞳なんですよね?
ポルトガー家の特徴と言えば、金髪碧眼じゃないですか」
「マリアさん、詳しいね」
「ええ。いとこが教えてくれたんです」
 

 ああ、2年前に王都に行ったっていう人ね。
ちなみに、ミリーの初恋の人らしい。
 でもそっか。だから、知ってたのか。


「さあ。何も知らないから、僕にはよく分からないけど、とっても整った顔立ちの方だよ」
「そうなんですか。具合とかは、悪くなってませんか?」
「なってないけど」
「そうですか。ならいいんです」


 僕が緊張してたから、心配してくれたのかな。
 むしろ、フル充電出来たって感じだよ、今は!






────────
────


「ミリー、大丈夫か」
「シドさん……すみません。
魔気にあてられてしまって」


 レオルトを応接室まで送り届けたミリーは、彼が挨拶を終え、戻ったことを確認すると、そのまま床にへたり込んでしまった。
 扉の前で待機していたシドは、すぐに状況を察知し、彼女へ医務室に向かうよう促した。


「すでに医者の手配はしてある。次期に来るだろうから、先に休んでいなさい」
「ですが……」
「行ってきなさい。君はどうやら耐性がないようだ。
公子が滞在される間は、なるべく近寄らないように」
「………はい」


 アルーア王国の人口の半数以上は、魔力を有しており、魔法を扱うことが出来る。
特に貴族は、そのほとんどが魔力保持者と言われている。
 ただ、中にはミリーのように魔力が少ない、または持たない者や、極端に多い者もおり、耐性がない者が後者に近付くと、拒絶反応に近い症状が出るのだ。
場合によっては、命に関わる事例も少なくない。

 ポルトガー公爵家は代々、優れた魔力量を誇ることで有名で、尚且つ、公子の桁違いな魔力量はとりわけ有名であった。
 その圧倒的な魔力量と、公爵とも、公爵夫人とも異なる黒と紅の容姿から、畏れを込めて「悪魔公子」と呼ばれるくらいだ。


 エオハルトやシドは、それなりの魔力量を保持するため、少し息が詰まるぐらいの反応だが、ミリーたちのような平民には厳しいだろう。
 客人が公子だと分かった瞬間、シドは慌てて町医者の手配をしたのだ。


「あの、奥様は大丈夫なんでしょうか」
「今のところ、問題はない。
ポルトガー公子には、奥様が身籠っていることを、正直に旦那様がお伝えした。
だから奥様には、部屋から出ないようにしていただいている」
「そうなんですね。良かった───あ、でも公子様は何と? 気を悪くされてないと良いのですが」
「彼の反応は、子供とは思えないほど、落ち着いたものだった。慣れていらっしゃるのだろう。
奥様の身を案じてくださったよ」


 シドの言葉にすっかり安心したミリーは、そのまま医務室へと向かった。

 ダージル領のような田舎では、魔力を有するかは、あまり重要視されていない。
そのため、屋敷で働く者をはじめ、領民のほとんどが魔力検査を受けていないのだ。
 ここにきて、その弊害を受けるとは、とシドはため息を吐いた。


「それはそうと、坊ちゃんの、あのご様子」


 短時間とはいえ、同じ空間で会話し、元気に出て来た姿を思い出し、シドは微笑んだ。


「ふむ。ダージル家の未来は明るいですな。
さすが、我々の坊ちゃん」



 扉の外で、メイドが1人退場したことを知らないエオハルトは、沈黙に耐えかねていた。


「(ウチのバカ息子が、お気に触ったのか?
あれから何やら、考え込んでいるようだ。
レオルトに罰を与えるつもりだったりしないよな)」
「…………ダージル殿」 
「は、はいっ」
「もし良ければ、領地を案内してくれないか」
「それはかまいませんが、楽しんでいただけるような場所はございませんよ」


 畑ばっかりの整備されていない道を歩くのか、貴族の貴方が、とでも言いたげな顔を隠しもせず、面食らったようにエオハルトは答えた。


「ああ。出来れば、案内役はご子息にしてもらいたいのだが、良いだろうか」
「レオルトをですか?」
「ああ」
「(良いも何も、はじめから拒否権なんてないじゃないか)息子は、まだ8歳でして、公子にご無礼を働くやも」
「そうか。私は10歳だから、年も近いな。
ダージル殿も知っての通り、私の魔力量のせいで、なかなか年の近い友人が作れないんだ。
ぜひ、彼と話をさせてほしい」


 年齢で墓穴を掘った上に、魔力量についても先制を打たれ、言い訳に使えなくなってしまったエオハルトは、黙って息子を差し出すことにした。


「(すまん、息子よ!
当分の勉強は免除してやるから、問題だけは起こさないでくれ!)」







「粗熱もとれたね。
あとは冷やして完成だ。マリアさん、お疲れ」
「お疲れ様でした。坊ちゃん」


 自らが望んだ、お友達チャンスが巡ってきたことを、レオルトはまだ知らない。

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