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第29話 ランド/提案
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「アオくん、一週間で装備が充実しすぎじゃない?」
「すみません、今週は撮影の待ちが多くて、共演者のみんなと盛り上がっちゃって」
一週間ぶりのお家デートでも伊月さんとゲームをした。
伊月さんも俺と会えない間に遊んでいたようだけど、明らかに俺の方がやり込んでいた。
伊月さんが買ってくれたのに他の人と遊んでしまって不機嫌にならないか、少しだけ心配だったけど……
「アオくんが楽しんでくれているならなによりだよ。共演ってfive×tenのフユキくんとか俳優の上川ナツコさん?」
「はい! あと、岩本シュウトくんもよく遊びます」
「いいお友達ができてよかったね。フユキくんのグループはうちのアクセサリー系の子会社のアンバサダーもしてくれていてよく知っているけど、しっかりしていて感じいいよね」
「そうなんです! ゲームをしていてもやり方がすごくしっかりしていて、頼れるお兄ちゃんって感じで。シュウトくんは逆に少し抜けている所もあって、でも素直でかわいくて弟みたいで……」
俺がついつい楽しくて仕方がない笑顔で頷くと、伊月さんは嫉妬するようなことも無く、微笑ましそうに視線を細めてくれる。
あ。俺、友達を褒められるって初めてだな……友達がいなかったから。
「伊月さんが誕生日プレゼントにゲームをくれたおかげです。自分だったら絶対に買わなかったから」
「そう言ってもらえると嬉しいけど……一番は俺がアオくんと遊びたかっただけなんだけどね。あ、アオくん。これの倒し方わかる? 一人だとどうしようもなくて」
「これ、教えてもらいました。二人なら倒せますよ。今からいきましょう!」
教えてもらいながらの協力プレイも楽しいけど、俺が伊月さんに教えることがあるのも楽しい。
こういう遊びをしていると、普段の年上の彼氏ではなく、同い年の友達のような気分にもなって……不思議だな。
遊ぶって……ずっと無駄なことだと思っていたけど、こんなに楽しくて、誰かと一緒の時間が楽しくなるって……無駄じゃないよね?
「……ねぇ、アオくん。このゲームが気に入ったなら『ランド』行かない?」
「え?」
ゲームがひと段落して、電源を落とした瞬間、伊月さんがスマートフォンを取り出して、国内一のアミューズメントパーク「ユニバーサルランド」のHPを表示する。
「今、このゲームとコラボして……ほらこれ、VRで実物大のモンスターが観られるイベントや世界観を再現したアトラクションがあるんだって」
「すごいですね! 面白そう」
「それに、こういう場所は高さを楽しむアトラクションも多くて、高いところが好きなアオくんにはぴったりかなって」
「そうですね! 楽しそう……です、けど……」
こういう場所があることも、ゲームやアニメの世界を再現したものがあることも知ってはいた。
ただ、子供の頃から親は遊びに連れ出してくれなかったし、こういうところで遊ぶのは「時間の無駄」だと言われて……俺もそう思いこんでていた。
なにより、一緒に行く友達や恋人がいなかった。
一回だけ、情報番組の企画で入ったことがあるけど乗り物には乗らず、ショーを観ただけだった。
仕事だったので楽しいもなにもない。「凝ったショーだな。ダンスも上手いな」と思っただけだ。
行けない、行かない、行く必要がない。
そう思っていたけど……
ゲームの面白さを知った今、そういう場所も、少し興味が湧いた。
恋人という一緒に行く人がいるのも、行くハードルが下がる。
ただ……
「でも、俺、一応有名人で……」
人の多いところはパニックになるかもしれない。
変装して、バレなかったとしても、「もし、バレたらどうしよう」と心のどこかには常にあって、気が気ではないと思う。
それに、一緒に行くのが伊月さん……恋人がいるとは公表していない。
二十三歳のイケメンで売っている俳優に恋人が……しかも同性の恋人がいることは仕事にプラスになるとは思えない。
あと、両親も……いい顔をしないと思う。
「それなら大丈夫。今度、うちのグループ社員の福利厚生のために一日貸切る日があるから。その時に『グループのCMに出演しているタレント』として来てもらう……ということにしよう」
「……!」
それは……半分お仕事みたいな感じで、よさそうな気がする。
でも、いくら伊月さんの社員でも、俺と伊月さんの関係が沢山の人にバレていいわけはない。
「心配なら、フユキくんのグループにも来てもらおうか? 俺の秘書の一人が大ファンだから喜ぶだろうな」
「えっ……?」
それはカモフラージュになるかもしれないけど。
「フユキくんたちと堂々と遊ぶなら、思い切り楽しめるよね?」
フユキさんは五人組アイドルグループで、他のメンバーとも仕事で一緒になったことがある。みんなテレビで観るのと同じ、ノリのいい楽しい人だ。きっと、一緒に遊ぶと楽しい。
でも、それって……
「伊月さん、は?」
一緒じゃないってこと?
「俺は別行動で大丈夫だよ。社長だから挨拶の時間は作ってもらうことにして……俺はアオくんの楽しそうな顔が観られて、記念写真が二~三枚撮れたらそれで満足」
「伊月さん……」
……デートしたいってことだと思ったのに。
二人で楽しい時間をすごす提案ではなくて、ただただ俺を楽しませるための提案ってこと?
「アオくん……多分アオくんは俺と同じで、子供の頃にちゃんと遊べていないよね? 今からでもたくさん遊ぼう。あと、俺の分も遊んで? 俺がしたかったことを、アオくんがしてくれると、俺の『したかったなぁ』って気持ちも消化できるから」
「……」
アミューズメントパークなんて、無駄だと思っていた。
一緒に行く人がいないし。
でも、本当は……
「写真、撮りましょうね」
「うん」
俺……本当は、行きたかったんだ。
「すみません、今週は撮影の待ちが多くて、共演者のみんなと盛り上がっちゃって」
一週間ぶりのお家デートでも伊月さんとゲームをした。
伊月さんも俺と会えない間に遊んでいたようだけど、明らかに俺の方がやり込んでいた。
伊月さんが買ってくれたのに他の人と遊んでしまって不機嫌にならないか、少しだけ心配だったけど……
「アオくんが楽しんでくれているならなによりだよ。共演ってfive×tenのフユキくんとか俳優の上川ナツコさん?」
「はい! あと、岩本シュウトくんもよく遊びます」
「いいお友達ができてよかったね。フユキくんのグループはうちのアクセサリー系の子会社のアンバサダーもしてくれていてよく知っているけど、しっかりしていて感じいいよね」
「そうなんです! ゲームをしていてもやり方がすごくしっかりしていて、頼れるお兄ちゃんって感じで。シュウトくんは逆に少し抜けている所もあって、でも素直でかわいくて弟みたいで……」
俺がついつい楽しくて仕方がない笑顔で頷くと、伊月さんは嫉妬するようなことも無く、微笑ましそうに視線を細めてくれる。
あ。俺、友達を褒められるって初めてだな……友達がいなかったから。
「伊月さんが誕生日プレゼントにゲームをくれたおかげです。自分だったら絶対に買わなかったから」
「そう言ってもらえると嬉しいけど……一番は俺がアオくんと遊びたかっただけなんだけどね。あ、アオくん。これの倒し方わかる? 一人だとどうしようもなくて」
「これ、教えてもらいました。二人なら倒せますよ。今からいきましょう!」
教えてもらいながらの協力プレイも楽しいけど、俺が伊月さんに教えることがあるのも楽しい。
こういう遊びをしていると、普段の年上の彼氏ではなく、同い年の友達のような気分にもなって……不思議だな。
遊ぶって……ずっと無駄なことだと思っていたけど、こんなに楽しくて、誰かと一緒の時間が楽しくなるって……無駄じゃないよね?
「……ねぇ、アオくん。このゲームが気に入ったなら『ランド』行かない?」
「え?」
ゲームがひと段落して、電源を落とした瞬間、伊月さんがスマートフォンを取り出して、国内一のアミューズメントパーク「ユニバーサルランド」のHPを表示する。
「今、このゲームとコラボして……ほらこれ、VRで実物大のモンスターが観られるイベントや世界観を再現したアトラクションがあるんだって」
「すごいですね! 面白そう」
「それに、こういう場所は高さを楽しむアトラクションも多くて、高いところが好きなアオくんにはぴったりかなって」
「そうですね! 楽しそう……です、けど……」
こういう場所があることも、ゲームやアニメの世界を再現したものがあることも知ってはいた。
ただ、子供の頃から親は遊びに連れ出してくれなかったし、こういうところで遊ぶのは「時間の無駄」だと言われて……俺もそう思いこんでていた。
なにより、一緒に行く友達や恋人がいなかった。
一回だけ、情報番組の企画で入ったことがあるけど乗り物には乗らず、ショーを観ただけだった。
仕事だったので楽しいもなにもない。「凝ったショーだな。ダンスも上手いな」と思っただけだ。
行けない、行かない、行く必要がない。
そう思っていたけど……
ゲームの面白さを知った今、そういう場所も、少し興味が湧いた。
恋人という一緒に行く人がいるのも、行くハードルが下がる。
ただ……
「でも、俺、一応有名人で……」
人の多いところはパニックになるかもしれない。
変装して、バレなかったとしても、「もし、バレたらどうしよう」と心のどこかには常にあって、気が気ではないと思う。
それに、一緒に行くのが伊月さん……恋人がいるとは公表していない。
二十三歳のイケメンで売っている俳優に恋人が……しかも同性の恋人がいることは仕事にプラスになるとは思えない。
あと、両親も……いい顔をしないと思う。
「それなら大丈夫。今度、うちのグループ社員の福利厚生のために一日貸切る日があるから。その時に『グループのCMに出演しているタレント』として来てもらう……ということにしよう」
「……!」
それは……半分お仕事みたいな感じで、よさそうな気がする。
でも、いくら伊月さんの社員でも、俺と伊月さんの関係が沢山の人にバレていいわけはない。
「心配なら、フユキくんのグループにも来てもらおうか? 俺の秘書の一人が大ファンだから喜ぶだろうな」
「えっ……?」
それはカモフラージュになるかもしれないけど。
「フユキくんたちと堂々と遊ぶなら、思い切り楽しめるよね?」
フユキさんは五人組アイドルグループで、他のメンバーとも仕事で一緒になったことがある。みんなテレビで観るのと同じ、ノリのいい楽しい人だ。きっと、一緒に遊ぶと楽しい。
でも、それって……
「伊月さん、は?」
一緒じゃないってこと?
「俺は別行動で大丈夫だよ。社長だから挨拶の時間は作ってもらうことにして……俺はアオくんの楽しそうな顔が観られて、記念写真が二~三枚撮れたらそれで満足」
「伊月さん……」
……デートしたいってことだと思ったのに。
二人で楽しい時間をすごす提案ではなくて、ただただ俺を楽しませるための提案ってこと?
「アオくん……多分アオくんは俺と同じで、子供の頃にちゃんと遊べていないよね? 今からでもたくさん遊ぼう。あと、俺の分も遊んで? 俺がしたかったことを、アオくんがしてくれると、俺の『したかったなぁ』って気持ちも消化できるから」
「……」
アミューズメントパークなんて、無駄だと思っていた。
一緒に行く人がいないし。
でも、本当は……
「写真、撮りましょうね」
「うん」
俺……本当は、行きたかったんだ。
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