51 / 60
余談
友達(1)
しおりを挟む
十七歳の時に五人組アイドルグループ「five×ten」のリーダー「フユキ」としてデビューした。
事務所は最大手ではないけど大手。メンバーは個性的で歌、ダンス、お笑いなど特化型。
俺は学歴と、黒髪クール系の容姿を生かして「インテリアイドル」のポジションについた。
日本一人気のアイドルではないけど、露出もファンも多く、十年近く安定して活動を続けてきた。
続けていたのに……
「は? 倒産?」
ある日、メンバー全員で事務所に呼び出されたと思うと、会議室で社長に頭を下げられた。
「数年前に始めた動画配信関連の事業が赤字で……本業の利益でも賄えなくなった。すまない!」
まだ四十代半ばで先代から事務所を引き継いで五年程の社長が、土下座する勢いだった。
でも、いくら謝られても……
「え、じゃあ俺たちは……」
「お前たちは人気グループだから、いくつか移籍のオファーがきている! きっと、移籍しても上手くやれる! 大丈夫だ! 応援している!」
社長はそう言ってくれたし、他のメンバーも「オファーがあるなら安心かな?」と言っていた。
でも、俺は……嫌な予感がしていた。
◆
新しく所属した事務所は、業界最大手の事務所だった。
俺たちのようなイケメンの五~六人組のアイドルが沢山所属していて、ほとんどのグループが俺たちよりも人気のグループだ。
「えぇ!? ここに所属できるの!? やった!」
「俺たち、ますます人気出ちゃうよ!」
最初こそ、メンバーは喜んだ。
俺だって嬉しかった。
この事務所のバックアップがあれば、今までよりも沢山仕事がもらえて、コンサートも大きな会場でできて、楽曲の売り上げも二位までしかとったことがないけど一位になれるかも!? ……なんてことを考えた。
現実は、違った。
仕事は確かに増えた。
メンバーの個性をきちんと理解してくれていて、個々に合わせた仕事を取ってきてくれた。
俺はちょっと自慢できる大学の出身でインテリ・頭脳派で売っているということもあり、情報番組のコメンテーターや歴史番組の司会、教材のCMといった仕事がもらえた。
演技が上手いメンバーは、映画の主演の仕事がもらえた。
歌が上手いメンバーは、バラエティ番組の歌の企画のメンバーに選ばれて、ゴールデンタイムのバラエティのレギュラーになれた。
お笑いが得意なメンバーとダンスが得意なメンバーは、プロのサポートをうけながら日本最高峰のコンテスト優勝を目指すことになった。
一見するとみんな活躍しているし、輝いている。人気も上がった気がする。
でも……
気づけば、五人一緒のCMもレギュラーも無くなって、新曲の予定もコンサートの予定も無くなった。
俺たちは「アイドルグループ」ではなく「個々の才能を生かしたタレント」になっていた。
この状況はマズイ。
「……俺、みんなと曲出してコンサートしたい」
「俺も。毎日大好きなダンスができて幸せだけど、みんなと踊りたい」
「演技の仕事はやりがいがあるけど、俺、このメンバーと一緒の時間が欲しい」
「俺も」
「俺も」
久しぶりに、なんとか予定を合わせて、仕事終わりのメンバーを家に呼んだ。全員が暗い顔をしていた。
他のメンバーも同じように危機感を覚えていたようだ。
元々養成所の仲良し五人で組んだ俺たちは、ビジネスではなく本気で仲がよくて、みんなでわいわい盛り上がるのが好きで、だから今日まで頑張って来られたのに。
「……俺、ダンスの先生からこっそり聞いちゃったんだけど」
ダンスが得意なツキトが声を震わせながら呟いた。
「今の事務所、俺たちが邪魔だったから、引き抜いてくれたんだって」
「邪魔?」
「そう。自社のアイドルと競合するから、自社のアイドルの曲の方が売れるように、コンサートで大きなハコを取られないように、アイドルグループとしての人気を……維持できないように」
「なっ……」
「飼い殺し、するためだって」
証拠はない。
でも、今の状況はまさにそうだ。
仕事は沢山もらえて、個人であれば露出も人気も上がっているから「あの事務所の所属のアイドルが活躍している」とみられるけど、元々この大手事務所に所属しているアイドルグループたちがしないような仕事ばかりで、アイドルらしいことはしない……競合しない。
「……個人には、大きな仕事がもらえているから」
「……文句言いにくいよね」
「でも……」
「うん……」
「「「「「やっぱりみんなで仕事がしたい!」」」」」
全員で円陣を組むように抱き合った。
よかった。みんな同じ気持ちだ。
でも、状況はよく無いか……
「また事務所変わる?」
「そうするのが話が早いけど、短期間で二回も事務所を変わるのはイメージ悪いか」
「問題児に見えるよね」
「俺たち、なんにも悪いことしていないのに」
「……」
事務所を変わるのは難しい。
事務所を変わらずに、事務所に邪魔されず希望の仕事をとるには……
「……ちょっと業界の人に相談してみる」
「あぁ、フユキは真面目な番組にも出て顔が広いもんね?」
「なにかわかったらすぐに相談してくれよ?」
「フユキ、リーダーだからって抱え込むなよ?」
「あぁ」
メンバーはみんな優しい。
性格がいい。
だからこそ……俺が頑張らないといけないな。
このグループで一番頭が良くて、狡賢くて、効率厨で……仕事のためなら、何でも割り切れるのは、俺しかいないから。
「えっと……確か名刺……」
みんなが帰ったあと、一件電話をかけた。
「あぁ、岡本さんですか? フユキです」
岡本さんはとあるテレビ局の制作部の人だ。
そして……
「以前、お話されていたパーティーって、参加できますか?」
俺に「フユキくんなら、コネが作れる場所を紹介できるから、困ったら言ってね?」と声をかけて来た人だ。
業界では有名。
枕営業の斡旋をする人だ。
事務所は最大手ではないけど大手。メンバーは個性的で歌、ダンス、お笑いなど特化型。
俺は学歴と、黒髪クール系の容姿を生かして「インテリアイドル」のポジションについた。
日本一人気のアイドルではないけど、露出もファンも多く、十年近く安定して活動を続けてきた。
続けていたのに……
「は? 倒産?」
ある日、メンバー全員で事務所に呼び出されたと思うと、会議室で社長に頭を下げられた。
「数年前に始めた動画配信関連の事業が赤字で……本業の利益でも賄えなくなった。すまない!」
まだ四十代半ばで先代から事務所を引き継いで五年程の社長が、土下座する勢いだった。
でも、いくら謝られても……
「え、じゃあ俺たちは……」
「お前たちは人気グループだから、いくつか移籍のオファーがきている! きっと、移籍しても上手くやれる! 大丈夫だ! 応援している!」
社長はそう言ってくれたし、他のメンバーも「オファーがあるなら安心かな?」と言っていた。
でも、俺は……嫌な予感がしていた。
◆
新しく所属した事務所は、業界最大手の事務所だった。
俺たちのようなイケメンの五~六人組のアイドルが沢山所属していて、ほとんどのグループが俺たちよりも人気のグループだ。
「えぇ!? ここに所属できるの!? やった!」
「俺たち、ますます人気出ちゃうよ!」
最初こそ、メンバーは喜んだ。
俺だって嬉しかった。
この事務所のバックアップがあれば、今までよりも沢山仕事がもらえて、コンサートも大きな会場でできて、楽曲の売り上げも二位までしかとったことがないけど一位になれるかも!? ……なんてことを考えた。
現実は、違った。
仕事は確かに増えた。
メンバーの個性をきちんと理解してくれていて、個々に合わせた仕事を取ってきてくれた。
俺はちょっと自慢できる大学の出身でインテリ・頭脳派で売っているということもあり、情報番組のコメンテーターや歴史番組の司会、教材のCMといった仕事がもらえた。
演技が上手いメンバーは、映画の主演の仕事がもらえた。
歌が上手いメンバーは、バラエティ番組の歌の企画のメンバーに選ばれて、ゴールデンタイムのバラエティのレギュラーになれた。
お笑いが得意なメンバーとダンスが得意なメンバーは、プロのサポートをうけながら日本最高峰のコンテスト優勝を目指すことになった。
一見するとみんな活躍しているし、輝いている。人気も上がった気がする。
でも……
気づけば、五人一緒のCMもレギュラーも無くなって、新曲の予定もコンサートの予定も無くなった。
俺たちは「アイドルグループ」ではなく「個々の才能を生かしたタレント」になっていた。
この状況はマズイ。
「……俺、みんなと曲出してコンサートしたい」
「俺も。毎日大好きなダンスができて幸せだけど、みんなと踊りたい」
「演技の仕事はやりがいがあるけど、俺、このメンバーと一緒の時間が欲しい」
「俺も」
「俺も」
久しぶりに、なんとか予定を合わせて、仕事終わりのメンバーを家に呼んだ。全員が暗い顔をしていた。
他のメンバーも同じように危機感を覚えていたようだ。
元々養成所の仲良し五人で組んだ俺たちは、ビジネスではなく本気で仲がよくて、みんなでわいわい盛り上がるのが好きで、だから今日まで頑張って来られたのに。
「……俺、ダンスの先生からこっそり聞いちゃったんだけど」
ダンスが得意なツキトが声を震わせながら呟いた。
「今の事務所、俺たちが邪魔だったから、引き抜いてくれたんだって」
「邪魔?」
「そう。自社のアイドルと競合するから、自社のアイドルの曲の方が売れるように、コンサートで大きなハコを取られないように、アイドルグループとしての人気を……維持できないように」
「なっ……」
「飼い殺し、するためだって」
証拠はない。
でも、今の状況はまさにそうだ。
仕事は沢山もらえて、個人であれば露出も人気も上がっているから「あの事務所の所属のアイドルが活躍している」とみられるけど、元々この大手事務所に所属しているアイドルグループたちがしないような仕事ばかりで、アイドルらしいことはしない……競合しない。
「……個人には、大きな仕事がもらえているから」
「……文句言いにくいよね」
「でも……」
「うん……」
「「「「「やっぱりみんなで仕事がしたい!」」」」」
全員で円陣を組むように抱き合った。
よかった。みんな同じ気持ちだ。
でも、状況はよく無いか……
「また事務所変わる?」
「そうするのが話が早いけど、短期間で二回も事務所を変わるのはイメージ悪いか」
「問題児に見えるよね」
「俺たち、なんにも悪いことしていないのに」
「……」
事務所を変わるのは難しい。
事務所を変わらずに、事務所に邪魔されず希望の仕事をとるには……
「……ちょっと業界の人に相談してみる」
「あぁ、フユキは真面目な番組にも出て顔が広いもんね?」
「なにかわかったらすぐに相談してくれよ?」
「フユキ、リーダーだからって抱え込むなよ?」
「あぁ」
メンバーはみんな優しい。
性格がいい。
だからこそ……俺が頑張らないといけないな。
このグループで一番頭が良くて、狡賢くて、効率厨で……仕事のためなら、何でも割り切れるのは、俺しかいないから。
「えっと……確か名刺……」
みんなが帰ったあと、一件電話をかけた。
「あぁ、岡本さんですか? フユキです」
岡本さんはとあるテレビ局の制作部の人だ。
そして……
「以前、お話されていたパーティーって、参加できますか?」
俺に「フユキくんなら、コネが作れる場所を紹介できるから、困ったら言ってね?」と声をかけて来た人だ。
業界では有名。
枕営業の斡旋をする人だ。
464
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。
陽七 葵
BL
主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。
しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。
蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。
だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。
そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。
そこから物語は始まるのだが——。
実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。
素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪
男子寮のベットの軋む音
なる
BL
ある大学に男子寮が存在した。
そこでは、思春期の男達が住んでおり先輩と後輩からなる相部屋制度。
ある一室からは夜な夜なベットの軋む音が聞こえる。
女子禁制の禁断の場所。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
こわがりオメガは溺愛アルファ様と毎日おいかけっこ♡
なお
BL
政略結婚(?)したアルファの旦那様をこわがってるオメガ。
あまり近付かないようにしようと逃げ回っている。発情期も結婚してから来ないし、番になってない。このままじゃ離婚になるかもしれない…。
♡♡♡
恐いけど、きっと旦那様のことは好いてるのかな?なオメガ受けちゃん。ちゃんとアルファ旦那攻め様に甘々どろどろに溺愛されて、たまに垣間見えるアルファの執着も楽しめるように書きたいところだけ書くみたいになるかもしれないのでストーリーは面白くないかもです!!!ごめんなさい!!!
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる