【状態異常無効】の俺、呪われた秘境に捨てられたけど、毒沼はただの温泉だし、呪いの果実は極上の美味でした

夏見ナイ

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第19話 エリナの魔法と快適生活の加速

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エリナとの奇妙な共同生活が始まって、数日が過ぎた。
彼女は驚異的なスピードで体力を回復させていた。俺が作る『呪いの料理』の栄養価が異常に高いのか、あるいはエルフという種族が元々持つ生命力の為せる技なのか。最初の頃のおぼつかない足取りはすぐに消え、今では家の中を元気に歩き回っている。

そして、彼女は俺が宣言した通り、甲斐甲斐しく俺の『お世話』を焼こうとした。

「主様、お目覚めですか。朝食の準備ができておりますわ」
「主様、お洗濯物はこちらへ。わたくしが『万溶の沼』で清めてまいります」
「主様、お風呂の時間です。わたくしが背中をお流ししま……」
「それは断る!」

とにかく、朝から晩まで「主様、主様」と、俺の後ろを甲斐甲斐しくついて回るのだ。俺の完璧だったはずのソロライフは、彼女の存在によって、良くも悪くも賑やかなものへと変わっていた。

最初は戸惑いばかりだったが、慣れてくると、誰かがいる生活というのも悪くないと思えるようになってきた。一人で食べる食事よりも、二人で食べる食事の方が、何倍も美味しく感じる。他愛もない会話を交わしながら、暖炉の火を眺める夜も、心地よかった。

エリナは、俺がこの森で作り上げてきた生活のすべてに、純粋な驚きと尊敬の目を向けてくれた。
黒鉄の家具、幻光石の窓、呪いの食材を使った料理。俺にとっては当たり前になっていたそれらが、古代の王族である彼女の目には、神業か魔法のように映るらしかった。

「ルイン様は、本当にすごい方ですわ。まるで、伝説に登場する『森の賢者』のようです」
「賢者だなんて、よせよ。俺はただ、生きるために必死だっただけだ」

そんなある日の午後。
俺は、新しく食器棚を作るために、『黒鉄木』の加工に精を出していた。自作の『断罪草』の鋸で木材を切り出していると、その様子をじっと見ていたエリナが、おずおずと口を開いた。

「あの……ルイン様。もし、よろしければ、わたくしに少しだけお手伝いさせていただけないでしょうか?」
「ん? 手伝い? いいけど、これは力仕事だぞ。エリナにはまだ……」
「腕力ではございません。わたくしにも、少しだけ、使える技がございますので」

そう言うと、エリナは俺が切り出したばかりの、不格好な一枚板の前に立った。そして、彼女は目を閉じ、すぅっと息を吸い込む。その指先から、淡い翠色の光が放たれた。

「『森の囁きよ、その姿を我が望む形へ』――シェイプ・ウッド」

彼女が静かに呪文を唱えると、信じられないことが起こった。
『黒鉄木』の硬い板が、まるで柔らかい粘土のように、ぐにゃりと形を変え始めたのだ。それはひとりでに滑らかな曲線を描き、ささくれ立った断面は磨かれたように滑らかになり、あっという間に、寸分の狂いもない、美しい棚板へと姿を変えた。

「なっ……!?」
俺は、口をあんぐりと開けて、その光景をただ見つめることしかできなかった。
あれだけ苦労して、毒水と呪いの道具を駆使して加工していた『黒鉄木』が、呪文一つで、いともたやすく。

「これが、魔法……」
「はい。古代エルフに伝わる、生活魔法の一つですわ。木材や石材を、自在に加工することができますの」

エリナは、はにかむように微笑んだ。
その日から、俺たちの生活は、劇的に、そして爆発的に快適さを増していくことになった。

俺が素材を集め、エリナが魔法で加工する。
その連携は、まさに完璧だった。

「ルイン様、この『黒鉄木』で、もっと頑丈な扉を作り直しましょう。わたくしの魔法で、蝶番も取っ手も、滑らかに動くようにできますわ」
「この『石化粘土』、素晴らしい素材ですわね。これを使えば、もっと薄くて軽い、美しいデザインの食器が作れます」
「『幻光石』の窓も、もっと大きくして、光をたくさん取り込めるようにしましょう。わたくしが、石の透明度を上げる魔法をかけますわ」

俺のサバイバル知識と、エリナの古代魔法。
その二つが組み合わさった時、俺たちの創造力は、無限に広がった。

食器棚は、もはや家具というより芸術品の域に達した。扉には、森の動物を模した精巧な彫刻が施され、内側の棚は、皿の大きさに合わせて自動でサイズが変わるという、謎の便利機能までついている。

キッチン周りも一新された。『石化粘土』で作った調理台は、エリナの魔法で表面が鏡のように磨き上げられ、汚れ一つ付着しない。水道もできた。エリナが『万溶の沼』と台所を、地下を通る石の管で繋ぎ、水の流れを制御する魔法をかけたのだ。蛇口をひねれば、いつでも好きなだけ、あの極上の温泉水が使えるようになった。

俺の拠点は、もはやただの「家」ではなかった。
それは、呪いの素材と古代魔法が融合した、世界で唯一無二の、究極のスイートホームへと、日々進化を続けていた。

「すごいな、エリナ。君がいると、本当に何でもできる気がしてくる」
俺が心から感嘆の声を漏らすと、エリナは嬉しそうに頬を染めた。

「いいえ、これもすべて、ルイン様が、わたくしには扱えないような危険な素材を集めてきてくださるおかげですわ。わたくしは、ルイン様の手足となって、その望みを形にしているに過ぎません」

彼女の謙虚な言葉が、なんだか無性に嬉しかった。
一人で作り上げた楽園も良かった。だが、誰かと力を合わせ、語り合い、笑い合いながら作り上げるこの場所は、それ以上に、温かくて、かけがえのないものに感じられた。

そんなある夜。
新しくなったキッチンで、エリナが俺の知らない料理を作ってくれた。それは、彼女が故郷で食べていたという、エルフの伝統的な家庭料理だった。『紫怨イモ』を薄くスライスして、『幻覚アブラギリ』の油でカリカリに揚げ、数種類のハーブ(もちろん、この森で見つけた呪いの植物だ)と『絶望の涙塩』で味付けをした、シンプルな料理だ。

「さあ、主様。どうぞ、召し上がれ」
エリナに勧められるまま、俺はそのチップスを一枚、口に運んだ。

サクッ、という軽快な食感。
その後に広がるのは、イモの甘みと、塩の旨味、そして、複雑なハーブの香りが織りなす、完璧なハーモニー。
美味い。とんでもなく、美味い。

「どうです、お口に合いましたか?」
心配そうにこちらを覗き込むエリナに、俺は満面の笑みで答えた。

「ああ、最高だ。こんな美味いものは、初めて食べた」
「! よ、よかったですわ……!」

俺の言葉に、エリナは心の底から嬉しそうに、花が咲くような笑顔を見せた。
その笑顔を見て、俺は思った。
この楽園での生活は、エリナが来てくれたことで、本当の意味で完成したのかもしれない、と。

俺が基礎を作り、エリナが彩りを加える。
俺が素材を見つけ、エリナが命を吹き込む。

二人なら、この森を、世界で一番豊かで、幸せな場所にできる。
そんな確信が、暖炉の炎のように、俺の胸の中で静かに、だが力強く燃え上がっていた。
俺たちの、二人きりの楽園作りは、まだ始まったばかりだ。
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