【状態異常無効】の俺、呪われた秘境に捨てられたけど、毒沼はただの温泉だし、呪いの果実は極上の美味でした

夏見ナイ

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第25話 エリナの古代魔法とログハウスの誕生

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三人(二人と一匹)での生活が始まってから、俺たちの『安らぎの庭』は、ますます活気に満ち溢れていた。
朝は、フェンが俺の顔をぺろぺろと舐めて起こしに来ることから始まる。俺がキッチンで朝食の準備を始めると、エリナが魔法で石窯に火を入れ、昨日仕込んでおいたパン生地を焼き上げてくれる。そして、黒鉄の食卓を三人で囲み、他愛もない会話を交わしながら、温かい食事をとる。

日中は、俺とエリナが畑仕事や家の拡張作業に精を出し、その周りをフェンが元気に駆け回る。疲れたら木陰で休み、冷やした『呪晶果』を分け合って食べる。
夜は、暖炉の火を囲んで、エリナが語る古代の物語に耳を傾けたり、俺が新しく考案したボードゲーム(盤も駒ももちろん黒鉄製だ)に興じたりする。

それは、俺が追放された時には想像もできなかったほど、温かく、充実した、完璧な『家族』の時間だった。

「ルイン様、最近、少し冷える夜が増えてきたように感じませんか?」
そんなある日、エリナが心配そうに言った。
確かに、彼女の言う通り、朝晩の冷え込みが、以前よりも少しだけ厳しくなっている気がする。石造りの家は頑丈だが、壁から伝わる冷気は、完全には防ぎきれない。

「そうだな。暖炉の火を大きくすれば問題ないが……。壁の内側にもう一枚、断熱材になるような板でも張るか」
俺がそう提案すると、エリナは少し考え込んだ後、一つの提案をしてきた。

「いっそ、この家を建て替えるというのは、いかがでしょう?」
「建て替え!? いや、さすがにそれは大掛かりすぎるだろ」

俺は驚いて聞き返した。今の家には愛着もあるし、特に不満もない。

「ですが、この石造りの家は、元々人間が住んでいたものでしょう? 我々エルフは、石よりも、木の温もりを好みます。それに、ルイン様の素晴らしい木工技術と、わたくしの魔法を合わせれば、きっと、今よりもっと快適で、美しい家が作れるはずですわ」

彼女は、目を輝かせながらそう言った。
その瞳には、新しい創造への期待が満ち溢れている。どうやら、彼女も、この『安らぎの庭』でのモノづくりが、すっかり楽しくなっているらしい。

「それに、フェンも大きくなってきましたし、もっと走り回れる、広い空間があった方が、あの子のためにもなるかと」
エリナの視線の先では、フェンが、俺が作った『黒鉄木』のボールを追いかけて、部屋の中を元気に走り回っていた。確かに、神獣である彼の成長速度は著しく、初めて会った頃の倍近くの大きさになっている。このままでは、この家も手狭になるかもしれない。

「……わかった。やろうか、俺たちの、新しい家作りを」
エリナの熱意に押され、俺はついに頷いた。
目指すは、木の温もりと、呪いの素材、そして古代魔法が融合した、究極のログハウスだ。

その日から、俺たちの過去最大規模のプロジェクトが始動した。
まずは、材料の確保だ。家の骨格となる、大量の『黒鉄木』が必要になる。俺は、今までで一番大きな『断罪草』の鋸を手に、森の奥深くへと向かった。エリナも、フェンを連れて手伝いに来てくれる。

俺が木を切り倒すと、エリナが魔法でそれを運びやすいサイズに加工し、フェンがその巨体(もはや子犬とは呼べない)で、丸太を拠点まで運んでくれる。その連携は、もはや熟練の建築チームのようだった。

数日間かけて、家一軒を建てるには十分すぎるほどの『黒鉄木』を集め終えた。
次に、設計だ。俺とエリナは、夜な夜な食卓で、ああでもないこうでもないと、理想の家の間取りについて語り合った。

「リビングは、吹き抜けにして、開放感を出したいですわね」
「いいな。暖炉は、部屋の中央に置いて、それを囲むようにソファを配置しよう」
「フェンのための、日当たりの良いお昼寝スペースも必要ですわ」
「俺の書斎も欲しいな。新しい酒のレシピを考えたり、ゆっくり本を読んだりする場所が」

夢は、無限に広がっていく。
俺はエリナの希望を取り入れながら、設計図を木の板に描き出していった。完成したのは、二階建てで、広々としたリビングダイニングに、それぞれの個室、そして、森を一望できる大きなバルコニーまで備えた、壮大なログハウスの設計図だった。

いよいよ、建築開始だ。
まずは、エリナが魔法で、古い石造りの家を、基礎を残して綺麗に解体してくれた。長年お世話になった我が家との別れは少し寂しかったが、感傷に浸っている暇はない。

エリナは、解体で出た石材を再利用し、魔法でさらに強固な基礎を組み上げた。その上に、俺たちが切り出してきた『黒鉄木』の丸太を、一本一本、丁寧に組み上げていく。

俺が丸太を運び、位置を合わせる。
すると、エリナが呪文を唱える。
「『森の絆よ、固く結びつけ』――ウッド・ジョイント」

彼女の魔法によって、丸太同士は、まるで元から一本の木であったかのように、隙間なく、そして強力に接合されていく。釘も、接着剤も、何もいらない。ただ、魔法の力が、巨大なログハウスを、着実に組み上げていくのだ。

壁ができ、屋根が架かり、床が張られていく。
その光景は、圧巻の一言だった。俺一人では、何年かかっても不可能だっただろう。だが、エリナの魔法と、フェンの力があれば、巨大な建築物ですら、数日のうちにその姿を現す。

「すごいな……本当に、家ができていく……」
俺は、自分の目の前で繰り広げられる奇跡に、ただただ感嘆の声を漏らすしかなかった。

そして、建築開始から、およそ一週間後。
ついに、俺たちの新しい家が、完成した。

目の前には、黒鉄の木肌が重厚な輝きを放つ、壮麗なログハウスがそびえ立っていた。幻光石をふんだんに使った大きな窓からは、暖かな光が漏れている。屋根からは、石化粘土で作った立派な煙突が伸び、バルコニーの手すりには、エリナが魔法で施した、美しい蔦の模様の彫刻が見える。

それは、もはやただの家ではなかった。
自然と調和し、力強さと優雅さを兼ね備えた、生きた芸術品。
俺たちの、新しい『安らぎの庭』のシンボルが、今、ここに誕生したのだ。

「……できたな」
「……はい、できましたわね、主様」

俺とエリナは、隣に立つフェンの大きな体を撫でながら、完成したばかりの我が家を、満足げに見上げていた。
中に入るのが、楽しみでたまらない。
この家で、これからどんな新しい物語が紡がれていくのだろう。

俺たちの楽園は、また一つ、その形を変えた。
だが、その中心にある、温かくて穏やかな空気は、何も変わらない。
俺は、新しい家の扉に、そっと手をかけた。これから始まる、さらに快適で、幸せな日々に、胸を膨らませながら。
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