【状態異常無効】の俺、呪われた秘境に捨てられたけど、毒沼はただの温泉だし、呪いの果実は極上の美味でした

夏見ナイ

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第48話 頑固な鍛冶師と呪いの鉱床

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「もっと、面白いものを、たくさん、見せてやる」

俺の、その言葉は、頑固なドワーフ、グレンの、鍛冶師としての、魂を、鷲掴みにするには、十分すぎたらしい。
彼は、しばらく、俺の手と、俺の顔を、交互に、見比べていたが、やがて、その、岩のように、ごつごつした手を、俺の手に、重ねてきた。

「……世話に、なる」
ぼそり、と、呟かれた言葉は、ぶっきらぼうだったが、その瞳の奥には、抑えきれない、好奇の色が、揺らめいていた。

こうして、俺たちは、グレンを、三人目の、客人として、『安らぎの庭』へと、招き入れることになった。
そして、彼が、俺たちの、黒鉄のログハウスを、目にした時の反応は、やはり、バッカスの時と、寸分、違わぬものだった。

「…………」

彼は、その、巨躯を、微動だにさせず、ただ、目の前の、ありえない建築物を、食い入るように、見つめていた。
だが、彼が、驚愕していたのは、その、豪華さや、壮麗さでは、なかった。
ドワーフである彼は、その、建築物の、本質を、一目で見抜いていたのだ。

「……この、柱……。この、壁……。馬鹿な……。これは、まさか、すべて、『黒鉄木』で、作られておるのか……?」
その声は、震えていた。
「鋼鉄以上の、硬度を持つ、この、伝説の木材を……。どうやって、これほど、精密に、加工したというのじゃ……? まるで、一本の木から、削り出したかのような、この、完璧な、木組みは……」

彼の、専門家としての、視点は、バッカスとは、全く違う、次元で、俺たちの仕事の、異常さを、捉えていた。

「まあ、入れよ。話は、中で聞く」

俺たちが、グレンを、リビングへと、通すと、彼は、さらに、言葉を、失った。
黒鉄の、家具。
幻光石の、窓。
そして、エリナが、魔法で作り上げた、石化粘土の、食器棚。

「……信じられん……。呪われた、素材ばかりを、使って……これほど、調和の取れた、美しい、空間を、作り上げるとは……。これは、もはや、人間の、技ではない……。神々の、気まぐれか、悪魔の、悪戯か……」

彼は、一つ一つの家具に、専門家の、厳しい目で、触れ、叩き、その、完璧な、仕事ぶりに、ただただ、感嘆の、ため息を、漏らすばかりだった。

その夜。
俺たちは、グレンを、歓迎するための、宴を、開いた。
メニューは、ドワーフの、屈強な、胃袋を、満たすべく、フェンが、狩ってきた、巨大な猪の魔物(の石像)の、丸焼きだ。
新しいスパイスを、たっぷりと、擦り込み、石窯で、じっくりと、焼き上げた、その肉は、ナイフを入れると、肉汁が、滝のように、溢れ出した。

そして、酒は、もちろん、『紫怨の魂』だ。

「……う、美味い……!」
グレンは、最初は、警戒していたが、一度、その肉と、酒を、口にした瞬間、その、頑固な、表情は、完全に、崩壊した。
「なんじゃ、この肉は!? 獣の、力強い、旨味と、森の、豊かな、香りが、口の中で、踊り狂うわ! そして、この酒! 喉を、焼く、情熱の、後に、魂を、慰める、優しさが、追いかけてきおる! こんな、酒は、生まれて、この方、飲んだことがないわい!」

彼は、まるで、子供のように、目を輝かせ、巨大な、肉の塊に、かぶりつき、ジョッキに、なみなみと注がれた『紫怨の魂』を、水のように、呷った。
その、豪快な、飲みっぷりと、食べっぷりは、見ていて、実に、気持ちが良かった。

すっかり、上機嫌になった、グレンは、酒が進むにつれて、自分のことを、少しずつ、語り始めた。
彼は、ドワーフの国でも、指折りの、腕を持つ、鍛冶師だったこと。
だが、伝統と、格式を、重んじる、国のやり方に、嫌気がさし、自分の、本当に、打ちたいものを、打つために、国を、飛び出してきたこと。
そして、生涯の、夢である、オリハルコンを、求めて、何十年も、世界中を、放浪してきたこと。

その話は、無骨で、不器用で、だが、一本の、太い、信念の、芯が、通っていた。
俺は、彼の、その、生き様に、強く、惹きつけられた。

「……それで、小僧」
すっかり、酔いが回ったグレンが、赤ら顔で、俺に、尋ねた。
「お主は、一体、何者なんじゃ? エルフの、姫君と、神獣を、従え、こんな、規格外の、代物を、次々と、作り上げる……。ただの、人間には、到底、思えん」

「言ったろ。俺は、ただの、隠居人だ」
俺は、笑って、答えた。
「まあ、少しだけ、モノづくりが、好きな、ただの、男だよ」

俺の、答えに、グレンは、納得していないようだったが、それ以上は、聞いてこなかった。
彼は、ジョッキの、最後の、一滴を、飲み干すと、決意を、固めたような、目で、俺を、見つめた。

「……ルイン、と、言ったか」
彼は、初めて、俺を、名前で、呼んだ。
「わしに、お主の、庭の、鉱石を、見せては、くれまいか。わしは、この目で、確かめたい。この森に、わしの、魂を、揺さぶる、未知の、金属が、眠っているのかどうかを」

その、真摯な、申し出を、俺が、断る、理由はなかった。

翌日。
俺は、グレンを、俺が『素材置き場』と呼んでいる、岩山の、一角へと、案内した。
そこには、俺が、今までに、採掘してきた、様々な、呪いの鉱石が、無造作に、山と、積まれていた。

熱を奪う、『凍てつく銅』。
触れたものを、石化させる、『石化粘土』。
魂を削る、『削魂砂岩』。
そして、まだ、用途を見出せずにいる、光を、吸収して、闇を生み出す、『吸光石』や、常に、微弱な、雷を、放ち続ける、『帯電石』など。

それらの、鉱石の山を、目にした瞬間。
グレンは、その場に、立ち尽くし、わなわなと、その、巨躯を、震わせ始めた。
彼の、鍛冶師としての、長い、人生の中で、一度も、見たことのない、未知の、素材。
その、一つ一つが、強力な、魔力と、個性的な、呪いを、秘めている。

「……神よ……。オリハルコンなど、どうでも、よくなってきたわい……」
彼は、恍惚とした、表情で、呟いた。
その瞳は、まるで、宝の山を、目の前にした、子供のように、きらきらと、輝いていた。

「どうだ、グレン。面白いものが、あったか?」
俺が、にやりと笑って、尋ねる。

「面白い、どころの、騒ぎではないわ!」
彼は、叫んだ。
「これは、奇跡じゃ! わしの、鍛冶師としての、魂が、打て、と、叫んでおる! これらの、素材を、使えば、きっと、わしの、生涯の、傑作が、生まれるに、違いない!」

彼は、鉱石の山に、駆け寄ると、一つ一つの石を、手に取り、その、感触を、確かめ、匂いを嗅ぎ、時には、舐めさえして、その、性質を、確かめ始めた。
その姿は、もはや、求道者の、それだった。

「ルインよ!」
やがて、彼は、興奮した様子で、振り返った。
「頼みが、ある! どうか、この、わしを、しばらく、この庭に、置いては、くれまいか! そして、この、素晴らしい、素材を、わしに、使わせて、欲しい!」
「その代わり」と、彼は、続けた。

「わしの、持つ、ドワーフの、鍛冶の、技術の、全てを、お主に、授けよう。お主となら、きっと、神々すら、嫉妬するような、究極の、逸品を、作り出すことが、できるはずじゃ!」

その、申し出は、俺にとって、まさに、渡りに船だった。
俺が、今、最も、欲していたもの。
それが、向こうから、歩いて、やってきてくれたのだ。

「……決まりだな」
俺は、グレンの、ごつごつした、大きな手を、力強く、握り返した。
「よろしく頼むぜ、師匠」

こうして、『安らぎの庭』に、四人目の、家族が、加わった。
頑固で、無愛想で、だが、誰よりも、熱い、職人の魂を持つ、ドワーフの、鍛冶師。
彼の、加入は、俺たちの、モノづくりを、新たな、次元へと、引き上げることになるだろう。

俺たちの、楽園は、今日もまた、新しい、出会いによって、さらに、豊かに、そして、面白く、なっていく。
俺と、グレン。二人の、クラフトマンの、魂が、どんな、化学反応を、起こすのか。
俺は、これから始まる、新しい、創造の日々に、胸を、高鳴らせていた。
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