評判が悪い妹の婚約者と私が結婚!?【時任シリーズ①】

椿蛍

文字の大きさ
9 / 31

9 出社

しおりを挟む

「行くぞ」
「もう用意できたんですか!?」
早すぎると思いながら、バッグを手に玄関に行くと、ゆったりした白のTシャツに黒のショートパンツ、ぼさぼさの髪と眼鏡、手ぶらで黒のサンダルをはいていた。
「仕事に行くんですよね」
確認してみた。
「ああ」
当たり前だろ?という顔で見られた。
私はもちろん、スーツを着ている。
髪をきっちりアップにし、シャツには皺一つない。
いいのかなと思いながら、マンションから出ると運転手さんが待っており、一緒に車に乗った。
「時任社長、今日はいつもより、きちんとされてますね」
「まあな」
きちんと?
思わず、二度見した。
むしろ、運転手さんの方が、スーツを着て、きちんとしている。
こつ、と窓に頭があたる音がしたかと思うと、また眠っていた。
会話もなく、静かな車内が気まずい。
なにか話したほうがいいのか、どうか迷ったけれど、朗久さんにうるさく思われても嫌だったため、何も言わずに窓の外をずっと見ていた。
本社ビルはオフィス街にあり、時任グループのビルは周囲のビルよりも一際高く、窓は青空を映していた。
まさか、こんな大きい会社とはおもわず、あっけにとられていると、腕をつかまれた。
「遅れるぞ」
「そ、そうですね」
中に入ると服装は自由らしく、スーツを着ている人もいるけど、どちらかというと、社員はスーツに準ずる服を着ていた。
朗久さんのようなサンダルにショートパンツ姿の人はいなかった。
オフィス街だから、スーツの人ばかりで朗久さんはかなり目立っていたけれど、本人は顔色一つ変えずに受付前を通り過ぎた。
「社長、おはようございます」
「おはようございます」
社長と呼ばれているから、社長であることは間違いない。
「社長、今日はジャージじゃないんですね」
「お隣の女性はどなたですか?」
「新しい社員ですか?」
女子社員が気軽に話しかけてきた。
「妻だ」
「えー!」
「うそー!」
「ショック―!」
無駄に広い会社のエントランスに声が反響した。
ショックって。
隣にいるのに言われるとなんだか、複雑な心境よね。
エレベーターに乗り、最上階フロアに行くと、私の姿を見つけた重役の人達が大騒ぎした。
重役の人達はジャケットを着ていたけど、ネクタイは誰もつけてなかった。
どちらかというと、朗久さんの服装に近い人が多い。
「社長!?どうして絹山きぬやまのお嬢様を連れてきたんですか?」
「秘書にするためだ」
「働かせるつもりかっ!」
結婚式に見かけた顔が何人かいて、会釈すると慌てふためいていた。
「社長が何を言ったか、わかりませんが、奥様が働かなくても大丈夫ですよ!」
「いいえ。私から働かせて頂けないかと、お願いしました」
「こんな奴と働きたいなんて、酔狂な」
「やめておいたほうがいいですよ。あまりのいい加減さに辞める方も大勢いますから」
「まあな」
あっさりと認めた。
「反論したほうがいいぞ」
「そうですよ」
「さー、仕事するかー」
社長室に入っていってしまった。
「本当にすみません。あんな適当な社長ですけど、いいところもあるんです!たぶん」
「どうだか。別れたくなったら、言ってください。いい弁護士を紹介しますから」
散々な言われようだった。
苦笑し、社長室に入ると、そこは子供部屋みたいにごちゃっとしていた。
「えっ!?」
パソコンのディスプレイは五台あり、日本のニュースだけでなく、海外のニュース、市場、そして、自分の仕事をしているようだった。
本やファイルが床に無造作に山積みになり、カップ麺が入った段ボールに毛布、冷蔵庫とミニキッチン、シャワー室まであり、立派な社長室は学生の部屋みたいになっていた。
「好きなとこで仕事すればいい。雑用は外にいた連中に任せてあるから、やりたい仕事があれば、もらえ」
「はあ」
それだけ言うと、黙ってしまった。
キッチンを掃除し、カップを洗い、毛布は今日の帰りにクリーニングにだして、本とファイルはあまり触るとわからなくなるかもししれないので、崩れた山だけを直した。
「お茶どうぞ」
「あ、悪いな」
お茶と一緒におにぎりを置いた。
「これ」
「朗久さん。朝御飯、召し上がらなかったでしょう?」
朝の食事を食べる暇がないようだったので作っておいた。
「久しぶりにコンビニじゃないおにぎりを食べるな」
わずかに見えた目が優しげに私を見ていたので、迷惑ではなかったようだった。
ホッとして、離れようとすると腕をつかまれた。
「ありがとう」
「は、はい」
ぱ、と手を離されたけど、つかまれた感触はなかなか消えず、なぜか胸が苦しく感じた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

元彼にハメ婚させられちゃいました

鳴宮鶉子
恋愛
元彼にハメ婚させられちゃいました

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

ハメられ婚〜最低な元彼とでき婚しますか?〜

鳴宮鶉子
恋愛
久しぶりに会った元彼のアイツと一夜の過ちで赤ちゃんができてしまった。どうしよう……。

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

辣腕同期が終業後に淫獣になって襲ってきます

鳴宮鶉子
恋愛
辣腕同期が終業後に淫獣になって襲ってきます

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

処理中です...