20 / 31
20 私の物を返して (麗奈 視点)
しおりを挟む「莉世は何を考えているのかしら!」
「酷いわ。私から婚約者を奪っただけじゃなく、お父様が遺してくれた百貨店を絹山から奪うなんて!」
リビングのテーブルの上に泣き伏せると、お母様は優しく背中を撫でてくれた。
絹山百貨店を時任グループに奪われたお母様は激怒していた。
「そうね。私もどれだけ、この町で肩身が狭いか。鈴岡が社長だなんて!」
絹山百貨店の名前は残るけど、創業家から余所者が乗っ取ったあげく、成り上がり者に奪われた―――お母様はこの町の奥様集団の底辺にまで落ちた。
私達が持っているのは株が少しとお父様が遺してくれた家くらい。
維持していくだけのお金は入るけど、贅沢はできない。
許せない。
お姉様の勝ち誇った顔が目に浮かぶ。
これで、私に勝ったなんて思わないでよね。
「それにしても、聡さんにはがっかりだわ。優秀だと聞いたから、麗奈の婚約者に相応しいと思ったのにあんな成金に負けて!露原さんも謝りにきたけれど、謝ってすむ問題じゃないわ!」
「ねえ、お母様。私、本当は時任様が好きだったの。でも、言い出せなくて」
「まあ……。どうして?」
「時任様を諦めさせるためにお姉様が聡さんを使って、私から時任様との婚約を破棄させるように仕向けたの。お姉様はわざと聡さんに冷たくして、私に興味が向くようにしていて……辛かったわ」
「まあ!」
泣きながら、お母様の袖を掴んだ。
「お姉様が怖くて、ずっと言えなかったの」
「なんて、娘なの!絹山の家から百貨店を奪っただけじゃなく、妹の婚約者まで!いいでしょう。時任様に一度、話をしに行きましょう」
「ええ、お母様」
私の言葉をすっかり信じたお母様は怒りで目をギラギラさせていた。
これでいいわ。
だいたい時任様は私の婚約者だったんだから!
返してもらっても問題ないわよね?
お姉様だけを幸せなんかにしてやるものですか!
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
運転手を雇えなくなった私とお母様はタクシーを使って、時任グループの本社まできた。
雇えなくなったのは運転手だけじゃなくて、家政婦も雇う余裕はなくなってしまった。
だから、毎日、パンやお弁当でうんざりよ。
ゴミをだすのは聡さんを呼んでやってもらっているけど、掃除はお母様が時間をかけて、なんとかしているみたい。
お嬢様育ちのお母様はかなり苦労していて、そのストレスもあるのか、今までの生活を奪ったお姉様を憎んでいた。
時任の本社は思ったよりも大きくて圧倒されてしまった。
成金のくせに立派な建物ね。
お母様は頭に血が上っていて、少しも物怖じしていない。
「時任社長はいらっしゃる?」
「は、はい。どなたでしょうか」
「絹山と言えば、おわかりになられるわ」
「お待ちください」
受付嬢が慌てていた。
「重役室までご案内します。こちらへ」
エレベーターに乗り、広いフロアに出た。
「重役フロアになります。こちらでお待ちください」
そういうと、逃げるように受付嬢は去っていった。
フロアには若い男の人達が仕事をし、一斉にこちらを見た。
全員、世間一般ではイケメンと呼ばれてもおかしくない。
おじさんばかりだと思っていたのになんてレベルの高い集団だろうと、眺めていると、その中の一人が近づいてきた。
「莉世さんのご家族ですか」
背が高く、眼鏡をかけた男の人で他の人よりは落ち着いた空気がある。
「今日はなんのご用でしょうか」
「それは時任様に話します!早く呼んできてちょうだい!」
お母様がヒステリックに叫ぶと、社長室のドアが開き、ボサボサ頭の男が現れた。
何度見ても、汚ならしい。
まあ、いいわ。
私と結婚したら、綺麗にさせればいいんだし。
「時任様、今日は大切な話があってきたの。社長室にいれてくださらない?」
甘い声で時任様に話しかけた。
「断る」
もっと口の利きようがあるでしょ!?
なんなのこの男!
「何しに来た」
「なんて、挨拶なの!ここで話すような内容じゃありませんよ!それでも、こちらで、お聞きしたいのかしら」
「手短にどうぞ」
最低限の会話しか、するつもりはないのか、業務的に時任様は言った。
「麗奈があなたを好きだったことはご存じね?莉世があなたを好きになって、麗奈から奪ったのよ」
「莉世が?俺を好きになって?」
なに嬉しい顔してるの、この男。
さっきまで無表情だったのに。
「ありえない!」
重役フロアからブーイングが飛んできた。
「社長、いいところだけ、切り抜いてニヤニヤしないでくださいよ」
「いやらしいですねー」
「あんな大人にはなりたくないな」
「お前ら、ちょっと黙ってろ!」
お母様はこほん、と咳ばらいをした。
「だからね、莉世と別れて麗奈と結婚するのが、いいんじゃないかしら」
そうお母様が言った瞬間、時任様は低い声で答えた。
「ふざけるな。誰が別れるか」
まるで、肉食獣のようにこちらを睨みつけた。
髪の隙間からのぞいた目はゾッとするほどに冷たく、鋭い。
私もお母様も声がでなかった。
恐怖で―――
ガタッと椅子から立ち上がり、数人飛び出してきて、お母様と私をエレベーターに押し込み、ボタンを押した。
エレベーターのドアが閉まった。
そのドアを開けようとは私もお母様も思わなかった―――
105
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
大丈夫のその先は…
水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。
新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。
バレないように、バレないように。
「大丈夫だよ」
すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
フッてくれてありがとう
nanahi
恋愛
「子どもができたんだ」
ある冬の25日、突然、彼が私に告げた。
「誰の」
私の短い問いにあなたは、しばらく無言だった。
でも私は知っている。
大学生時代の元カノだ。
「じゃあ。元気で」
彼からは謝罪の一言さえなかった。
下を向き、私はひたすら涙を流した。
それから二年後、私は偶然、元彼と再会する。
過去とは全く変わった私と出会って、元彼はふたたび──
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる