リスタート 〜嫌いな隣人に構われています〜

黒崎サトウ

文字の大きさ
40 / 75

それは単純で特別な(6)

しおりを挟む

 言ってしまった後、千秋は数秒遅れて顔をかあっと赤くした。

 しまった。もう少し段階を踏んで言うつもりだったのに。こんなド直球に、俺……う、嘘だろ、俺!しかもこんな堂々と、めちゃくちゃ自信ありますみたいな。ていうか、正式って、正式って……。

 思えば思うほど恥ずかしい点が出てきて、今すぐ病室を逃げ出したい心境に駆られた。

 すると、それを読まれたかのように、先ほど繋がれた片手に力がこもる。

「……俺が付き合おうって言わなかったからだよな」

「う……」

 英司が納得するように呟いた。

 ああ、次なんて言われるんだろう。さっきまで色々考えてたけど、ここで断られたらもう何もかもおしまいじゃないか。

 それはつまり、柳瀬さんにフラれる可能性……。……うわ、だめだ、改めて俺はなんてことを口走ったんだ。

 全く自慢ではないけど、こういうことを言ったのは人生で初めてなのだ。

 顔を見れずにいると、英司が少し体を起こしたのがわかった。相変わらず手は繋がれたままだ。

 よし、覚悟を決めよう。

「千秋……」

「……はい」

「俺、お前に色々悩ませてたのに、悪い……今めちゃくちゃ喜んでる」

「はい?」

 意味がわからなくてぱっと英司の方を見てみると、顔をそらした彼はたしかに頬を少し染めて、口角が上がるのを抑えられていないようだった。空いている方の手で口元を覆っていてもわかる。

 な、な…なんだその反応。

 つられるように千秋の体が、ぼんと熱くなる。

 英司はこほんとわざとらしい咳をすると、落ち着きを取り戻すように千秋に向き直る。

「俺が今日言わなかったのは、千秋をどうでもいいって思ってるわけじゃなくて、ただ心配をかけたくなかっただけなんだけど、それが蚊帳の外みたいで千秋は嫌だったんだな」

「か、蚊帳の外って」

 そんな簡潔にまとめられると、俺が仲間外れにされて拗ねてるみたいじゃないか。いや、雰囲気はそれで間違っていないのかもしれないけど。

「でも、俺はそうしたつもりはないからな」

「……はい、変なこと言ってすいません」

 強調するように言う英司が、繋いだ手を引いて千秋をベッドの端に座らせた。

 後ろには英司のかけている布団があって、横に向くと目が合う。

 抱き着けるほど近い距離で、千秋は数日ぶりの英司のにおいにどきりとした。

 英司はそのまま千秋の頭を引き寄せて撫で始めると、

「あーあ、お前の警戒が解けたら俺から付き合ってくれって頼もうとしてたのに」

 と、さらりと言った。

「え……えっ」

「まさか千秋が言うなんて、聞き間違いかと思った」

 もう千秋はぱくぱくと声が出なくなって、ようやく赤面も収まってきたのに、再び首まで赤くなった。

 なにそれ……じゃ、じゃあ俺、早まって勢いで言わなくてよかったんじゃ……。と思うのもすでに遅く、千秋は言い返す言葉もなく黙りこくった。

「千秋、恥ずかしがってんの?」

「ちが……っ、もう、放っておいてください」

 色々ともう混乱中なのだ。言い始めたのは俺だけど、これ以上何も突っ込まないでほしい。

 英司はニヤニヤと嬉しそうにしながら、千秋の赤い頬をつついている。

「はあー……かわいいな本当」

 ぐるぐるとこの状況を回避する方法考えている千秋の頬をつついたり、むにむにと摘んだり、やり放題だ。もう完全に面白がられている。

 くそ、回避は無理だ、ならもう、ここは強行突破だ。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

ふつつかものですが鬼上司に溺愛されてます

松本尚生
BL
「お早うございます!」 「何だ、その斬新な髪型は!」 翔太の席の向こうから鋭い声が飛んできた。係長の西川行人だ。 慌てん坊でうっかりミスの多い「俺」は、今日も時間ギリギリに職場に滑り込むと、寝グセが跳ねているのを鬼上司に厳しく叱責されてーー。新人営業をビシビシしごき倒す係長は、ひと足先に事務所を出ると、俺の部屋で飯を作って俺の帰りを待っている。鬼上司に甘々に溺愛される日々。「俺」は幸せになれるのか!? 俺―翔太と、鬼上司―ユキさんと、彼らを取り巻くクセの強い面々。斜陽企業の生き残りを賭けて駆け回る、「俺」たちの働きぶりにも注目してください。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

恋なし、風呂付き、2LDK

蒼衣梅
BL
星座占いワースト一位だった。 面接落ちたっぽい。 彼氏に二股をかけられてた。しかも相手は女。でき婚するんだって。 占い通りワーストワンな一日の終わり。 「恋人のフリをして欲しい」 と、イケメンに攫われた。痴話喧嘩の最中、トイレから颯爽と、さらわれた。 「女ったらしエリート男」と「フラれたばっかの捨てられネコ」が始める偽同棲生活のお話。

【BL】捨てられたSubが甘やかされる話

橘スミレ
BL
 渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。  もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。  オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。  ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。  特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。  でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。  理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。  そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!  アルファポリス限定で連載中  二日に一度を目安に更新しております

甘々彼氏

すずかけあおい
BL
15歳の年の差のせいか、敦朗さんは俺をやたら甘やかす。 攻めに甘やかされる受けの話です。 〔攻め〕敦朗(あつろう)34歳・社会人 〔受け〕多希(たき)19歳・大学一年

ヴァレンツィア家だけ、形勢が逆転している

狼蝶
BL
美醜逆転世界で”悪食伯爵”と呼ばれる男の話。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

処理中です...