EDC(Every Day Carry:常時携帯)マニアの元ガンオタが異世界に飛ばされたら

タカ61(ローンレンジャー)

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俺は前世でバイクを持っていた。原付だけど昔のツーストのバイクで7.2馬力あり、リミッターも解除してあったから3桁のスピードを出すことができた。

剥き出しの体で風を切る感覚というのは、実際に体験しないと分からない。逆に言えば、俺はバイクで体験済みなので多少のスピードなら問題ないとタカをくくっていたのだ。

しかしそれは大きな間違いだった。渓谷の上をまるで空を飛ぶかのように3桁オーバーのスピードで駆け抜けていくのだ。ジェットコースターなんか目じゃない。

周囲の景色が流れて行くのに目がついていかない。絶叫マシーンなんて足元にも及ばないスリルだろう。

振り落とされずに済んでいるのは身体強化の賜物か。いくら握力に自信があっても、掴まり続けるのは無理だったはずだ。

さらに「全状態異常完全無効」の異能力があるので乗り物酔いなどはしないが、普通なら間違いなくリバースするだろうな。ルーテミス様、ありがとうございます。

30分もかからずに突然森が開けた。草原が広がり、大きな湖が見えてきた。巨大な湖だ。

だが、何だか違和感を感じた。まるで人工的に作られた湖、いや、巨大な池のように感じたのだ。

湖を囲む様に一定の範囲で開けた草原が広がっているのも不思議だ。開拓で切り拓いたわけでもないし、川の流れや地殻変動でできた物でもないような気がする。

今までの森の状態から考えて、湖も草原もあまりに異質なのだ。まるでここら一体だけスポンと切り抜いて作られたような印象だった。

湖と繋がる河口は恐らく数キロはあるだろう。今更だがよく見ると、川の対岸に渡ろうにも、川幅が数百メートルほどに広がっていた。

さすがにどちらも飛び越えるのは無理そうなので、湖のほとりをぐるりと回る形で川下を目指す。

「人間達はこの湖の川下側の畔に住んでいます。森で獲物を狩る者、草木や木の実を集める者、湖で魚を獲る者、色々います。

ここから奥、我々が来た場所の方は森が濃くなるせいか、こちら側の奥へは入って来ません。大型の動物や魔獣達もそれを知っているので、ここより上流側の深い森の中で暮らしています。

この辺に暮らすのはリスやウサギ、狐や狸、せいぜいが鹿くらいで、熊がたまに降りてくるくらいです。魔獣はネズミやウサギ、キツネなどの小動物が変わった低級魔獣がたまに出るくらいですね。」

なるほど、とウォルターの説明に頷いていると神眼さんが仕事を始めた。

「ポルカ湖。昔、隕石が落下したことにより直径30キロほどのクレーターができ、川と繋がって湖になった。
湖の周辺が草原として開けているのは、隕石落下時の衝撃波で樹木が吹き飛ばされたため。

川の流れにより堆積した砂浜もあり、ポルカ村は砂浜付近に作られている。

湖の名前はこの湖を発見した猟師ポルカの名前から取られており、村の名前は湖の名前から付けられた。」

だから人工的な感じがしたのか。偶然とはいえ隕石によって作られたクレーターが湖になり、その周辺が草原になったわけだ。

「衝突した隕石により深い地層の土砂が大量に周囲に撒き散らされたため、場所によっては通常はドワーフが坑道でも掘らない限り採掘できないような、貴重な鉱石が地面に露出したりしている。

またその影響か、他の森とは明らかに違う植生をしており、薬草の産地としても知られている。」

これは興味深い情報だ。薬草の種類と調合の仕方を教えて貰えば、ポーションを調合して作ったということにして売りさばけるかもしれん。

そんなことを考えている間も、ウォルターはとんでもない勢いで走り続けている。今更だが、こんなスピードで走ったら風圧がすごいはずなのに?と疑問に思っていると、またも神眼さん登場。

「ウォルターが風魔法でシールドを展開しています。これにより風圧を直接受けることなく済んでいます。」

ウォルターのおかげだったか。

「ウォルター、風魔法でシールドを展開してくれているようだが、魔力は大丈夫か?」

と尋ねると、

「ご心配には及びません。この状態で一日中走っても大丈夫ですよ。」

と答えが返ってきた。頼りになるなぁ。

ピロン

突然頭の中で効果音が鳴り響く。

収納を意識すると「SMG」「SG」「AR」のフォルダーが点滅していた。カイルさんが武器を送ってくれたのだろう。これは村に着いてから確認しよう。

草原に入ってから20分ほどで物見櫓のような物が見えてきた。櫓の下には柵も見える。大型の動物や魔獣を警戒して見張っているのだろう。

「ウォルター、スピードを落として普通に歩いて。」

ウォルターに指示を出す。スピードを落とし、馬でいう常歩(なみあし)でゆったりと歩かせる。

「ピュイィィィィィィィィィィィィィィィィ!」

突然甲高い音が鳴り響いた。物見櫓の見張りが嚆矢(こうし)を放ったのだろう。俺たちの姿を認めたか。
ビクリと体を震わせたウォルターが慌てた様子で話しかけてくる。

「主!今のは鳥や獣、魔獣の声ではありません!もしや危険なのでは⁈」

「ウォルター、このままあのポツンとある背の高い物の方へ歩いて近づいてくれ。大丈夫だ、心配するな。」

ウォルターを宥めて物見櫓に向かわせる。

「おーーーーい!おーーーーーーい!」

と大声を上げながら櫓に向かって大きく手を振る。櫓まで500m程まで迫った所で大きな声が聞こえた。

「何者かーーー!そこで止まれーーー!」

「ウォルター、ここで止まってくれ。」

そう告げるとピタリと足を止め、地面に伏せた。俺はウォルターから降りると横に立った。収納からリュックを出して、さもたった今肩から降ろしたかのように見せながら足元に置く。

櫓から1人転げ落ちるような勢いで梯子を下りてくる。

櫓の上では1人が弓を引き絞りこちらに狙いをつけ、もう1人はいつでも引けるように矢を番えて待機している。この距離で当てる自信があるのか。優秀な弓師だな。

櫓から下りてきた人物は柵を乗り越えると勢いよく走ってくる。が、やはりいつでも矢を射れるように弓を手にしている。

あら、ポルカ村の人たち、めっちゃ有能?いや、有能な人が見張りに選ばれてる?いずれにせよ、かなりの腕前なのは間違いないだろう。

見張りはそのまま10m程まで近づいてきた。いや、せっかく弓を持ってるんだから、もう少し距離を取ろうよ。

「お主、何者か?一体どうやってこの村まで来た?お主が乗ってきたのはもしや魔獣ではないのか?」

キツい口調ながらもこちらを下に見るような感じではない。俺たちが向こう岸からやってきたのが信じられないという口ぶりだ。

「私は猟師です。行方不明の父を探しながら上流側からやってきました。物見櫓があるという事は、ここには町か村があるのでしょうか?できれば一晩厄介になりたいのですが。」

俺は落ち着いて話しかける。

「上流側から来ただと?ありえん話だ。上流側の森へは、我がポルカ村を通らなければ行く事は叶わぬ。

川イルカを使って川を遡ろうにも、ここから上流は流れが急で不可能だ。もう一度聞く。お主は何処からどうやってここへ来た?」

ふむ、このポルカ村が辺境、フロントラインという事か。

「私は物心ついた時から父と2人で森で暮らしていました。
いえ、このウォルターと3人で、ですね。

父は狩りの最中にまだ小さかったウォルターを森で見つけ、育ててきたと言っていました。ウォルターは私にとって兄弟のようなもので、物心ついた頃からずっと一緒に育ってきました。

母は私を産んですぐに死んだと聞かされました。顔も覚えていません。

ずっと3人で暮らしていたのですが、父が狩りの最中に足を滑らせて川へ落ち、そのまま帰ってきませんでした。父の姿を探しながら、川下へと山を下ってここまでやって来ました。

街や村に降りる事があったら使う物だ、と父に教えられていた銅貨と銀貨という物を持って来ました。もしかしたら命を永らえた父が流れ着いてお世話になっているかもしれません。どうか村に入らせてください。」

深々と頭を下げる。あ、もう1人きた。50m程離れた所から狙ってる。良い連携だな。

「お前の話、すぐに信じてやる事はできぬ。上流側の森は雷神様の森だ。雷神様がお認めになった者以外は森に入る事は許されぬ。

もし許しなく森に立ち入り森の恵みを手にすれば、神罰が下り稲妻に焼かれると言われている。そんな森で育ったなど、到底信じられぬ。」

雷神?稲妻?あれ、これ、もしかしたら上手いこと言いくるめられるかも。

「もしかすると父は雷神様のお許しを得た狩人だったのかもしれません。

その証拠に、稲妻を操って狩りをしていました。これが父の形見の狩りの道具です。川に落ちる寸前に私に投げてよこしました。

使い方は父が生前に教えてもらっています。」

そう言いながらレミントンM870MCSブリーチャーを見せる。

ショートバレルのショットガンをぶっ放せば、とんでもない大きな音と派手なマズルフラッシュ(発火炎)が出るはずだ。銃を見たことのないこの世界の人間なら誤魔化せるはずだ。

「見たこともない道具だ。魔道具か?これで稲妻を放てると?」

男が聞いてくる。あ、馬が三頭も走ってきた。結構な長さの槍を持ってるな。ちと厄介だ。

「主、どうしますか?こいつらを蹴散らして村を一気に突っ切りますか?」

ウォルターから念話が来た。

「ダメだよウォルター。これからは人間と仲良くしないと。俺だって人間なんだし、人間の仲間だって欲しいからさ。」

「私は主さえ一緒にいてくれればそれで良いのですが」

泣かせるじゃねえか。

「ありがとうウォルター。でも、今朝も言っただろ?人間は獲ってから時間を置いた肉しか食べられない。

それに、肉以外にも色々な物を食べないと生きて行けないんだ。沢山の人と仲間になって、獲った獲物をあげる代わりに俺が欲しい物をもらったりする必要があるんだよ。」

「主と共に生きられるのなら、生きる場所は気にしません。」

「俺もだよウォルター。もう少しこの人間達と話をするからね。」

ウォルターと話している間に馬に乗った槍持ちが一人近づいてきて、俺と話をしていた見張りと話を始めた。残る2人はゆっくりと森側へ馬を回す。こちらの逃げ道を塞ぐつもりだろう。逃げる気なんか無いのに。 

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