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第9章 ハデス神殿での求愛
8 蜜月旅行中の新妻
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「なんてすばらしい!! ぜひとも、お二人を王の晩餐会にお招きしたい!!」
興奮を隠しきれない顔で提案したのは、おそらくそれなりの決定権を持った身分の者なのだろう。
場をしきっていた太った黒い髭の男が高らかにそう告げると、オオーーッとその場にいた守衛や軍団兵たちもまた一斉に歓声を上げた。
けれども当の招かれた側はというと実にしらけている。
「せっかくだが遠慮する。妻との新婚旅行を誰にも邪魔されたくない」
にべもないとはまさにこういった返答を示すのだろう。
興ざめこの上ない。
だが、それでもその冷ややかな内面までは浮上させることなく美声が応じると、ええぇーっと非難めいた声もまた波のように上がるが、さすがに反論は出ない。
(すごいよなぁ…)
王の名の下に開かれる夕食会への誘いを即座に断る不遜さだというのに、それを補い、むしろ共感できる事情を持ち出して断った手腕は実に見事だ。
だが、やはりこの場合は新婚旅行という響きだけが説得力をもたらしたのではないだろう。
発言者のただ者ではない雰囲気と美貌によるところが大きいはずだと秘かに感じ入る。
(でも…妻って…)
自分はいつから蜜月旅行中の新妻になったのだろうか。
何を言ってくれるのかと無性に恥ずかしい。
加えて、せめて事前の打ち合わせがあったのならば、多少は心構えもできただろうが、思わぬ形で視線を集中砲火される身にもなっていたたまれない。
それこそ今この場に流れる空気は手に取るようにわかる。
あれがこの男の相手かと。
あれがこの男の妻なのかと。
見るからにアルファ属性の男のつれとしては至らないと思われていることは間違いない。
「妻を不躾に眺めるのはやめてくれないか」
スッと前に立って遮ったオルフェウスが不機嫌な声で周りを見渡した。
囲んでいた兵士たちが慌てて視線をそらし、途端に気まずい沈黙が漂った。
(ほんと…たいしたものだよな…)
闘気をほとんど出していない状態でいて、この威力なのだから全く恐れ入る。
東西南北どこであろうと、文句なしに通用する美しさと自然体であることが実証されたようなものだ。
(でも…招待を受けた方が楽なんじゃないのか…)
まだ何か用があるのかと、門番に詰め寄っている美形の背中に心の中で問いかけた。
少しやっかいな場所だと口にしていたのもオルフェウスだ。
チラリと机の上に置かれている術具に視線を注いだ。
(魔妖石か…)
入国者が疫病にかかっていないかを調べるためだと説明されたその石は、一見するとただの水晶の球だ。
けれども手をのせると気が吸い取られるような感覚がした。
潜在感染の検査とはあくまでも建前だろう。
何かが仕掛けられているに違いない。
現にオルフェウスの時には金色に、自分の時には薄緑色に光ったのだから。
「なんてすばらしい!! ぜひとも、お二人を王の晩餐会にお招きしたい!!」
興奮を隠しきれない顔で提案したのは、おそらくそれなりの決定権を持った身分の者なのだろう。
場をしきっていた太った黒い髭の男が高らかにそう告げると、オオーーッとその場にいた守衛や軍団兵たちもまた一斉に歓声を上げた。
けれども当の招かれた側はというと実にしらけている。
「せっかくだが遠慮する。妻との新婚旅行を誰にも邪魔されたくない」
にべもないとはまさにこういった返答を示すのだろう。
興ざめこの上ない。
だが、それでもその冷ややかな内面までは浮上させることなく美声が応じると、ええぇーっと非難めいた声もまた波のように上がるが、さすがに反論は出ない。
(すごいよなぁ…)
王の名の下に開かれる夕食会への誘いを即座に断る不遜さだというのに、それを補い、むしろ共感できる事情を持ち出して断った手腕は実に見事だ。
だが、やはりこの場合は新婚旅行という響きだけが説得力をもたらしたのではないだろう。
発言者のただ者ではない雰囲気と美貌によるところが大きいはずだと秘かに感じ入る。
(でも…妻って…)
自分はいつから蜜月旅行中の新妻になったのだろうか。
何を言ってくれるのかと無性に恥ずかしい。
加えて、せめて事前の打ち合わせがあったのならば、多少は心構えもできただろうが、思わぬ形で視線を集中砲火される身にもなっていたたまれない。
それこそ今この場に流れる空気は手に取るようにわかる。
あれがこの男の相手かと。
あれがこの男の妻なのかと。
見るからにアルファ属性の男のつれとしては至らないと思われていることは間違いない。
「妻を不躾に眺めるのはやめてくれないか」
スッと前に立って遮ったオルフェウスが不機嫌な声で周りを見渡した。
囲んでいた兵士たちが慌てて視線をそらし、途端に気まずい沈黙が漂った。
(ほんと…たいしたものだよな…)
闘気をほとんど出していない状態でいて、この威力なのだから全く恐れ入る。
東西南北どこであろうと、文句なしに通用する美しさと自然体であることが実証されたようなものだ。
(でも…招待を受けた方が楽なんじゃないのか…)
まだ何か用があるのかと、門番に詰め寄っている美形の背中に心の中で問いかけた。
少しやっかいな場所だと口にしていたのもオルフェウスだ。
チラリと机の上に置かれている術具に視線を注いだ。
(魔妖石か…)
入国者が疫病にかかっていないかを調べるためだと説明されたその石は、一見するとただの水晶の球だ。
けれども手をのせると気が吸い取られるような感覚がした。
潜在感染の検査とはあくまでも建前だろう。
何かが仕掛けられているに違いない。
現にオルフェウスの時には金色に、自分の時には薄緑色に光ったのだから。
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