アルファの戦士はオメガにされて愛される~オメガバース・ギリシャ神話~

壱度木里乃(イッチー☆ドッキリーノ)

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第10章 怪異王アウゲイアスと不気味な異母兄弟

3 お会いしたかな?

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(いやな気だ…)

 満面の笑みをたたえ、これ見よがしに両腕を広げて歓迎の意を漂わせながら待つ大男の、その太い黒い眉毛の下の瞳は――ギラギラと野望に満ちた光を宿していて薄気味が悪い。
 加えて全身に滲ませている気もまた不快なのだ。

(邪気…に近いような…)

 オリュンポス神族の血を本当に半分引き継いでいるのか。
 まるで刺激臭の強い香辛料を嗅いだかのように直ちに顔を背けたくなる。
 だがそんな風に肌で強く感じるということはまた、オルフェウスとイオンがいかに闘気アルケーを最低限にしか纏っていないのかを示している。

(大丈夫なんだろうか…)

 今回の使命は巨人族ギガンテスと内通しているとされている場所、家畜小屋などと称される部屋を探し出し、害をなす者を一掃し、王は捕らえて引き渡すこととされている。
 果たしてうまく振る舞えるだろうか。
 一抹の不安を覚えているとピタリとオルフェウスの足が止まった。

「手厚い出迎えに心より感謝し、王に挨拶申し上げる」

 わずかに頭を下げた後にフッと微笑んだ美貌に、オオッとどよめきが起きた。
 ただの商人とは到底思えない態度だ。
 にもかかわらず、声までも美しいとは…と王までもがまんざらではない様子で応じた。

「どうだ、皆の者…このように美麗な顔立ちだけでなく雄偉な体格、毅然とした態度に溢れる威厳…さすがは真実の魔妖石アレーティア・マギアリトスを黄金に輝かせた存在だと思わないか?」

 王の問いかけにその場にいる全ての者が唸るように深く頷いて返した。

「豪胆で知られるアルゴナウテースのようにも見える……あぁ、お会いしたかな?」

 正面からわざわざ横に移動してきたアウゲイアスが舐めるような視線をオルフェウスの足下から背中にまで注ぎながら、ニヤリと笑った。
 
(アルゴナウテースって確か…)

 そんな、どうにもいやらしいとしか思えない笑みを横目に記憶の中を即座に探る。
 けれども知識にたどり着こうとした矢先に、アルゴー船のアルゴナウタイか…とオルフェウスが低くつぶやいた。
 その響きにハッと記憶の中の断片が繋がった。

(そうだ…アルゴー船の乗組員だ…)

 ガンマの戦士族アマゾネスと眠らないドラゴンによって守られるコルキスの地へと。
 巨大な船に乗って、力試しに翼を持つ黄金の羊の毛皮を取りに行ったとされる荒くれ者の名称だ。
 五十人近くいたとされ、その集合がアルゴナウタイであり、一人一人はアルゴナウテースと呼ばれていた。
 だが、なぜその名を今ここで持ち出されたのか。

「お名前がその時とは違ったかもしれませんなぁ…確かにお目にかかったような気がしますが…」

(どういう意味だ…)

 オルフェウスと面識があったとでもいうのか。
 何が言いたいのか。
 奇妙な会話の流れにドクドクと胸が乱れ始める。
 すると大人しく腹の上に乗って丸くなっていたイオンが立ち上がり、顔の方へと近寄ってきた。
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