アルファの戦士はオメガにされて愛される~オメガバース・ギリシャ神話~

壱度木里乃(イッチー☆ドッキリーノ)

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第10章 怪異王アウゲイアスと不気味な異母兄弟

4 我が城に不服でも?

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 スリスリッと柔らかい翼を首に寄せられたと感じるや否や――

「聖域デルポイを冒涜し、焼け野原にした野蛮人プレギュアス…その悪党プレギュアスを征伐したのが後にテーバイの王となった武人リュコス。賢者でもよく知られるリュコス王の、熱烈な歓迎を得たアルゴナウタイだったが、不運なことに予言者イドモーンと舵手だしゅティーピュスを立て続けに失った」

 オルフェウスが唐突にあたかも神託でも告げるかのように話し始めた。

(えっ…)

 何を言い始めたのかと誰もが息をのんで凝視する。
 滔々とうとうとして淀みのない、その語り口はただの知識者には思えない。
 
「勇猛果敢なアンカイオスがティーピュスの代わりに舵を取り、北風ボレアースに祝福されたリュキアの地を目指す悪天候の中……そうだな、それはテューニアス島に近い海域だったか…」

 ん? とオルフェウスが問いかけるように王に向かって小首を傾げると、おぉ、やはり…とアウゲイアスが目を輝かせた。
 王との間に含みがあるような、このやりとりはなんだろうか。
 二人の間にはかつて親交でもあったのか。
 訝しく感じた次の瞬間、バサッとイオンが耳元で翼を広げた。

「××××…と名乗る者が現れた」

 それは眼前で語られた言葉であるはずが、どういうわけだか小さな羽の音に阻まれて聞こえない。
 誰が現れただって…と心の中でつい尋ねた。
 だが、すぐにその名が明らかになった。
 ヘリオスですか?とアウゲイアス王がオルフェウスに尋ねたのだ。

「そう…ヘリオス。おぼろげでも仕方がない、ありふれた響きだからな」

 ふふっと自らの発言になぜだかこの上なく愉快げに、そして艶然と笑った美貌に、ほぅ…と王を含む一同が引きこまれる。

「あぁ…ここではオルフェウスと気楽に呼んでもらいたい」

 まるでねだるかのように、どうだろうかと。
 オルフェウスがアウゲイアス王に壮絶な流し目を送った。
 魅入られたかのようにボーッと立ったままでいる王に、陛下、陛下…と家臣が見かねて背後から小声で声をかけた。

「ンンッ、コホン…そ、そうだな、ではオルフェウス殿、早速城へ…」

 咳払いをして気を取り戻したアウゲイアスが手で誘導しようとすると、歓待は大変ありがたいのだが…とオルフェウスが遮った。

「元々は街外れの宿でも探して泊まる予定であり、そして今もそれを望んでいる」
「街外れの…それはまたどうして?」

 ここに来て入城を拒むような姿勢を取られるとは思わなかったのだろう。
 アウゲイアス王が眉をひそめ、ざわざわと周りも落ち着かない様子を見せ始めた。

(な、なぜだ…)

 理解は追いついていないが、どうやらアルゴナウタイと関わった者として認識され、丁重に招き入れようとしてくれていたのではないのか。
 そんな王にどうして素直に従わないのか。
 場の空気を読めないとも、不遜だと見なされていても当然だ。
 せっかくの友好的な雰囲気を不穏なものに変えてしまったのだ。
 大丈夫なのかと見つめていると青灰色の瞳ににっこりと微笑まれた。
 そして、あぁ妻よ、待たせてすまないと。
 今すぐに部屋を探すから、もう少し待ってくれと請われた。

「どういうことですかな、オルフェウス殿……我が城に不服でも?」
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