101 / 153
第10章 怪異王アウゲイアスと不気味な異母兄弟
4 我が城に不服でも?
しおりを挟む
スリスリッと柔らかい翼を首に寄せられたと感じるや否や――
「聖域デルポイを冒涜し、焼け野原にした野蛮人プレギュアス…その悪党プレギュアスを征伐したのが後にテーバイの王となった武人リュコス。賢者でもよく知られるリュコス王の、熱烈な歓迎を得たアルゴナウタイだったが、不運なことに予言者イドモーンと舵手ティーピュスを立て続けに失った」
オルフェウスが唐突にあたかも神託でも告げるかのように話し始めた。
(えっ…)
何を言い始めたのかと誰もが息をのんで凝視する。
滔々として淀みのない、その語り口はただの知識者には思えない。
「勇猛果敢なアンカイオスがティーピュスの代わりに舵を取り、北風に祝福されたリュキアの地を目指す悪天候の中……そうだな、それはテューニアス島に近い海域だったか…」
ん? とオルフェウスが問いかけるように王に向かって小首を傾げると、おぉ、やはり…とアウゲイアスが目を輝かせた。
王との間に含みがあるような、このやりとりはなんだろうか。
二人の間にはかつて親交でもあったのか。
訝しく感じた次の瞬間、バサッとイオンが耳元で翼を広げた。
「××××…と名乗る者が現れた」
それは眼前で語られた言葉であるはずが、どういうわけだか小さな羽の音に阻まれて聞こえない。
誰が現れただって…と心の中でつい尋ねた。
だが、すぐにその名が明らかになった。
ヘリオスですか?とアウゲイアス王がオルフェウスに尋ねたのだ。
「そう…ヘリオス。おぼろげでも仕方がない、ありふれた響きだからな」
ふふっと自らの発言になぜだかこの上なく愉快げに、そして艶然と笑った美貌に、ほぅ…と王を含む一同が引きこまれる。
「あぁ…ここではオルフェウスと気楽に呼んでもらいたい」
まるでねだるかのように、どうだろうかと。
オルフェウスがアウゲイアス王に壮絶な流し目を送った。
魅入られたかのようにボーッと立ったままでいる王に、陛下、陛下…と家臣が見かねて背後から小声で声をかけた。
「ンンッ、コホン…そ、そうだな、ではオルフェウス殿、早速城へ…」
咳払いをして気を取り戻したアウゲイアスが手で誘導しようとすると、歓待は大変ありがたいのだが…とオルフェウスが遮った。
「元々は街外れの宿でも探して泊まる予定であり、そして今もそれを望んでいる」
「街外れの…それはまたどうして?」
ここに来て入城を拒むような姿勢を取られるとは思わなかったのだろう。
アウゲイアス王が眉をひそめ、ざわざわと周りも落ち着かない様子を見せ始めた。
(な、なぜだ…)
理解は追いついていないが、どうやらアルゴナウタイと関わった者として認識され、丁重に招き入れようとしてくれていたのではないのか。
そんな王にどうして素直に従わないのか。
場の空気を読めないとも、不遜だと見なされていても当然だ。
せっかくの友好的な雰囲気を不穏なものに変えてしまったのだ。
大丈夫なのかと見つめていると青灰色の瞳ににっこりと微笑まれた。
そして、あぁ妻よ、待たせてすまないと。
今すぐに部屋を探すから、もう少し待ってくれと請われた。
「どういうことですかな、オルフェウス殿……我が城に不服でも?」
「聖域デルポイを冒涜し、焼け野原にした野蛮人プレギュアス…その悪党プレギュアスを征伐したのが後にテーバイの王となった武人リュコス。賢者でもよく知られるリュコス王の、熱烈な歓迎を得たアルゴナウタイだったが、不運なことに予言者イドモーンと舵手ティーピュスを立て続けに失った」
オルフェウスが唐突にあたかも神託でも告げるかのように話し始めた。
(えっ…)
何を言い始めたのかと誰もが息をのんで凝視する。
滔々として淀みのない、その語り口はただの知識者には思えない。
「勇猛果敢なアンカイオスがティーピュスの代わりに舵を取り、北風に祝福されたリュキアの地を目指す悪天候の中……そうだな、それはテューニアス島に近い海域だったか…」
ん? とオルフェウスが問いかけるように王に向かって小首を傾げると、おぉ、やはり…とアウゲイアスが目を輝かせた。
王との間に含みがあるような、このやりとりはなんだろうか。
二人の間にはかつて親交でもあったのか。
訝しく感じた次の瞬間、バサッとイオンが耳元で翼を広げた。
「××××…と名乗る者が現れた」
それは眼前で語られた言葉であるはずが、どういうわけだか小さな羽の音に阻まれて聞こえない。
誰が現れただって…と心の中でつい尋ねた。
だが、すぐにその名が明らかになった。
ヘリオスですか?とアウゲイアス王がオルフェウスに尋ねたのだ。
「そう…ヘリオス。おぼろげでも仕方がない、ありふれた響きだからな」
ふふっと自らの発言になぜだかこの上なく愉快げに、そして艶然と笑った美貌に、ほぅ…と王を含む一同が引きこまれる。
「あぁ…ここではオルフェウスと気楽に呼んでもらいたい」
まるでねだるかのように、どうだろうかと。
オルフェウスがアウゲイアス王に壮絶な流し目を送った。
魅入られたかのようにボーッと立ったままでいる王に、陛下、陛下…と家臣が見かねて背後から小声で声をかけた。
「ンンッ、コホン…そ、そうだな、ではオルフェウス殿、早速城へ…」
咳払いをして気を取り戻したアウゲイアスが手で誘導しようとすると、歓待は大変ありがたいのだが…とオルフェウスが遮った。
「元々は街外れの宿でも探して泊まる予定であり、そして今もそれを望んでいる」
「街外れの…それはまたどうして?」
ここに来て入城を拒むような姿勢を取られるとは思わなかったのだろう。
アウゲイアス王が眉をひそめ、ざわざわと周りも落ち着かない様子を見せ始めた。
(な、なぜだ…)
理解は追いついていないが、どうやらアルゴナウタイと関わった者として認識され、丁重に招き入れようとしてくれていたのではないのか。
そんな王にどうして素直に従わないのか。
場の空気を読めないとも、不遜だと見なされていても当然だ。
せっかくの友好的な雰囲気を不穏なものに変えてしまったのだ。
大丈夫なのかと見つめていると青灰色の瞳ににっこりと微笑まれた。
そして、あぁ妻よ、待たせてすまないと。
今すぐに部屋を探すから、もう少し待ってくれと請われた。
「どういうことですかな、オルフェウス殿……我が城に不服でも?」
19
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
番解除した僕等の末路【完結済・短編】
藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。
番になって数日後、「番解除」された事を悟った。
「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。
けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。
【BL】捨てられたSubが甘やかされる話
橘スミレ
BL
渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。
もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。
オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。
ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。
特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。
でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。
理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。
そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!
アルファポリス限定で連載中
二日に一度を目安に更新しております
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。
キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ!
あらすじ
「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」
貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。
冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。
彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。
「旦那様は俺に無関心」
そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。
バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!?
「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」
怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。
えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの?
実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった!
「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」
「過保護すぎて冒険になりません!!」
Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。
すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。
【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
全8話
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる