アルファの戦士はオメガにされて愛される~オメガバース・ギリシャ神話~

壱度木里乃(イッチー☆ドッキリーノ)

文字の大きさ
103 / 153
第10章 怪異王アウゲイアスと不気味な異母兄弟

6 愛し続けては身が

しおりを挟む
 杯を手に持って飲み干すような仕草で王が誘いをかけ、オルフェウスが柔らかな微笑で返した。

「それは楽しそうだ。だが妻の体調がどうなるか…」
「はははっ、これはこれはお熱いことで。ですが、奥方も時には休ませてやらねばなりませんぞ…愛し続けては身が持ちませんからな」

 ニタニタといやらしげに笑みを浮かべた王に、なるほど確かに…とオルフェウスが笑って受け流した。

「では、夫以外のアルファ属性の者がいつまでも側にいたら発情期前の奥方も落ち着かないでしょう。今からどうぞ、離れに…女官長、お連れしろ」
「かしこまりました」
「くれぐれも失礼のないように」
「御意」

(ど、どういうことだ…)

 恭しく会釈をして、こちらへと先導し始めた女官長にオルフェウスが従い、その腕の中でホッと安堵すると同時に疑問が湧いた。
 あまりにもオルフェウスに対して王の姿勢が下手したてなのだ。

(知り合いだったのか…)

 アルゴー船の乗組員の話で奇妙な意気投合を見せていたのだから、もはや疑いもないだろう。
 そして、どうやらオルフェウスの方が一目を置かれていたことも。
 けれども、ヘリオスと名が違うのはどういう理由からなのか。

『そうだな…アルファだと否定はしないが、私も君と同じ事情持ち、罪人だったと思ってくれていい』

 オルフェウスから前に聞かされた言葉をふと思い出した。
 その後も逆行者だったのかとまでは踏みこんでは聞けていなかったが、もしかしたら自分と同じように何かしらの罪を犯してヘリオスという過去を奪われたのかもしれないと振り返る。

(いや、待てよ…)

 それならばアルゴナウタイとの記憶があるのは変じゃないかと思い至った。

(つまり、それって…)

 そもそもが逆行者ではないのか、どうなのか。
 はたまた逆行者として名前を使い分けているのか、どうなのか。
 掘り下げて考えようとしたその矢先―
 
密林ズグラを通るのか?」

 オルフェウスの女官長への問いかけでハッと意識を現実に戻した。

「は、はい、さようでございます」
「危険ではないのか、狩猟採集族ピュグマイオイが放たれているのだろう?」
「あ、いえ…大丈夫でございます」

 石畳の船着き場から緑溢れる草地へと踏み入れると、青々とした木々の枝には青緑色の羽を垂らして休むクジャクの姿も目に入る。
 のどかで、どこか聞いていた印象とは異なる。
 もっと奥に行くと危険な魔獣が待ち受けているのだろうかと視線で探っていると女官長が続けた。

「以前は防衛の観点から狩猟採集族ピュグマイオイをあえて放牧しておりましたが、魔妖石マギアリトスが開発されてからは不要と見なされ、現在は北の角ボレアス・ケラスのその先、エリス山脈との間の密林地帯に生息しているのみとなっております」
「ずいぶん魔妖石マギアリトスとやらへの信頼が強いのだな」
「はい、何事においても大変優れた万能石でございますゆえ…」


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

【BL】捨てられたSubが甘やかされる話

橘スミレ
BL
 渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。  もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。  オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。  ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。  特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。  でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。  理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。  そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!  アルファポリス限定で連載中  二日に一度を目安に更新しております

「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。

キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ! あらすじ 「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」 貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。 冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。 彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。 「旦那様は俺に無関心」 そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。 バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!? 「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」 怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。 えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの? 実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった! 「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」 「過保護すぎて冒険になりません!!」 Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。 すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。

ふたなり治験棟

ほたる
BL
ふたなりとして生を受けた柊は、16歳の年に国の義務により、ふたなり治験棟に入所する事になる。 男として育ってきた為、子供を孕み産むふたなりに成り下がりたくないと抗うが…?!

処理中です...