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第12章 一夜限りであっても
2 あのクズのせいで
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きっと肩が激しく痛むのだろう。
自分を抱きかかえたりするよりも…と開きかけた口が、使役する魔獣たちへの指示で遮られた。
「アレイ、イオン、へスペリデスの園に急げっ」
主からの荒々しい命令にブルルッとアレイがいななき、イオンが素早く御者台に降り立った。
告げられた名称は六つめの、最後の使命を果たす場所だ。
けれどもなぜ、そんなに慌てる必要があるのかと困惑していると、バルコニーの横に着けた荷台へと足早に運ばれ、入り口でピタリと止められた。
「エリス王国に告げる。アウゲイアスは北の森で巨人族と内通し、オリュンポスの転覆を謀っただけでなく、冥府の王の術に介入するという重大な禁を犯した」
威厳に満ちた声が全身から放たれる闘気によって広い範囲へと鳴り響く。
視線を地面へと向けると、首と胴体が切断された無残な遺体を前に、泣き崩れる女官や腰を抜かす者、呆然と立ちすくむ兵士たちに、そして跪いて最上階を見上げているピューレウス軍団長の姿があった。
「猶予を二日与える。反逆者アウゲイアスの首を城壁に晒し、オリュンポスへの忠誠を改めて誓うか、このまま国土を全て焼け野原にするか、決めるがいい」
(焼け野原…って…)
総毛立つほどの通達を終えた者によって獣車の中へと入れられる直前に、そのおそろしい光景が目に入った。
北の森が真っ赤に染まっているのだ。
それだけではない。
五角星の形をした城郭の、その中央にある王城にもまた業火が上がっている。
「言っておくが、神火は人の手には消せない」
頭を深々と下げたピューレウスに向かって最後の一言を放ち、中に入ったオルフェウスがバサッと帆を下げた。
スォンッとわずかな振動がして獣車が走り出したと察した。
「オ、オルフェウス…だ、大丈夫なのか、腕…」
にじり寄ってきた相手がなぜだか泣き出しそうな顔をしているように見えて、なによりも先に傷を心配した。
痛むのかと尋ねると、そうじゃないと首を振られた。
「まだだ、まだ堪えてくれっ、ディケ、頼むっ」
「えっ」
「私の気をすぐに分け与える」
ブワンッと霊気を高めたオルフェウスに肩を抱かれ、手のひらを持ち上げられる。
指先に熱く口づけられてハッと気がつかされた。
(こ、これは…)
肌がまるで木のように茶色くくすみ、筋張り、硬くなってきている。
相手の体温を異常なまでに高く感じることで自分の肉体が冷えきっていることも知った。
「オ、オレの…身体が…」
身に起きている異様さを理解した途端にズシンッと石のように全身が重たくなった。
クラリと平衡感覚を失って逞しい胸板にもたれかかった。
「ディケッ、しっかりしろっ、大丈夫だっ、大丈夫だっ」
そう繰り返すオルフェウスはまるで自身に言い聞かせているようで、こちらの指先を握りしめている手が震えている。
「あぁ、追いつかない…くそっ、あのクズのせいで」
オルフェウスが必死になる姿など初めてではないだろうか。
自分を抱きかかえたりするよりも…と開きかけた口が、使役する魔獣たちへの指示で遮られた。
「アレイ、イオン、へスペリデスの園に急げっ」
主からの荒々しい命令にブルルッとアレイがいななき、イオンが素早く御者台に降り立った。
告げられた名称は六つめの、最後の使命を果たす場所だ。
けれどもなぜ、そんなに慌てる必要があるのかと困惑していると、バルコニーの横に着けた荷台へと足早に運ばれ、入り口でピタリと止められた。
「エリス王国に告げる。アウゲイアスは北の森で巨人族と内通し、オリュンポスの転覆を謀っただけでなく、冥府の王の術に介入するという重大な禁を犯した」
威厳に満ちた声が全身から放たれる闘気によって広い範囲へと鳴り響く。
視線を地面へと向けると、首と胴体が切断された無残な遺体を前に、泣き崩れる女官や腰を抜かす者、呆然と立ちすくむ兵士たちに、そして跪いて最上階を見上げているピューレウス軍団長の姿があった。
「猶予を二日与える。反逆者アウゲイアスの首を城壁に晒し、オリュンポスへの忠誠を改めて誓うか、このまま国土を全て焼け野原にするか、決めるがいい」
(焼け野原…って…)
総毛立つほどの通達を終えた者によって獣車の中へと入れられる直前に、そのおそろしい光景が目に入った。
北の森が真っ赤に染まっているのだ。
それだけではない。
五角星の形をした城郭の、その中央にある王城にもまた業火が上がっている。
「言っておくが、神火は人の手には消せない」
頭を深々と下げたピューレウスに向かって最後の一言を放ち、中に入ったオルフェウスがバサッと帆を下げた。
スォンッとわずかな振動がして獣車が走り出したと察した。
「オ、オルフェウス…だ、大丈夫なのか、腕…」
にじり寄ってきた相手がなぜだか泣き出しそうな顔をしているように見えて、なによりも先に傷を心配した。
痛むのかと尋ねると、そうじゃないと首を振られた。
「まだだ、まだ堪えてくれっ、ディケ、頼むっ」
「えっ」
「私の気をすぐに分け与える」
ブワンッと霊気を高めたオルフェウスに肩を抱かれ、手のひらを持ち上げられる。
指先に熱く口づけられてハッと気がつかされた。
(こ、これは…)
肌がまるで木のように茶色くくすみ、筋張り、硬くなってきている。
相手の体温を異常なまでに高く感じることで自分の肉体が冷えきっていることも知った。
「オ、オレの…身体が…」
身に起きている異様さを理解した途端にズシンッと石のように全身が重たくなった。
クラリと平衡感覚を失って逞しい胸板にもたれかかった。
「ディケッ、しっかりしろっ、大丈夫だっ、大丈夫だっ」
そう繰り返すオルフェウスはまるで自身に言い聞かせているようで、こちらの指先を握りしめている手が震えている。
「あぁ、追いつかない…くそっ、あのクズのせいで」
オルフェウスが必死になる姿など初めてではないだろうか。
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