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第14章 正体とその愛を知る
1 ギロリと炎の中で何かが
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「あ、ありがと」
先に降り立ったオルフェウスから手を差し出されて、素直に頼って舟の縁を跨ぐ。
世話になった…とだけオルフェウスがプシュケーたちに挨拶をし、指に指を絡まれた状態で進み始めた。
「息子、待ってるからねーーっ」
「ほんとだよーーっ」
「息子、待ってるからねーーっ」
後ろをわずかに振り返り、両手を振って見送る精霊族たちに空いてる手を上げて応じた。
次に会う時は彼らとの記憶を思い出しているだろうと、そんな漠然とした予感がした。
「ここから遠いのか」
「いや、すぐそこだ」
尋ねるとすぐさま答えた相手に、そうか…と返した後、しばらく口を閉ざして緑地の中をもくもくと歩み続ける。
繋がれた指を見つめながら、やがて聞いた――そこに何があるのだと。
そうだな…と返してきた相手としばらく無言のまま、木々の間を歩み続ける。
繋がれた指を見つめ続けていると、やがて告げられた――行けば、わかると。
ぎこちないやりとりだ。
互いに言えない想いを抱きながら、着実な終わりに向かって進んでいるようで、続く言葉が見つからない。
(あっ…)
少し開けた草地に四角い石が多数、背よりも高く秩序を持って積まれている構造物が見えてきた。
それはまるで二つの白い角が地面から生えているようだ。
先に行くほど細く尖った石柱には、陸地を繋げる吊り橋のように長い緑色のツタがぶら下がっている。
「地の王ゼウスの土地に冥府の王ハデスが大々的に術をかけるわけにはいかない。だからこれは、ゼウスの子供でもある冥府の王妃ペルセフォネが張った結界だ」
「えっ…」
「先に入ってくれ」
どうして、冥府の王妃が…と問いかける隙もない。
前方の石とツタでできた門に向けてオルフェウスが闘気をまとった手をかざした。
ボワンッと空間が揺らぐや否や、認証されたとばかりに、パァアッと黄緑色の光が四方へと放たれた。
(なんだ…この…感覚は…)
ここであって、ここではないどこかへ直結したと強く肌で感じる。
その異空間から、誰かが呼んでいるのだ。
早く、来いと。
繋がれていた手を離し、光る扉と化した、石と石の間に引き寄せられるようにしてその一歩を踏み出す。
身を中に入れるや否や、スオォォンッとわずかな圧がして、上下左右の全てに満天の星が広がる宇宙空間が目に飛びこんできた。
さらに奥にはボォッ…と薄緑色に光って、小高い丘のように盛り上がっている場所がある。
(あれは…)
星空の地中に根っこを縦横無尽に伸ばし、天の星空へと吸いこまれるようにしてそびえ立つ、その大木はタルタロスの監獄から解放された時のものとよく似ている。
違うのは色合いだ。
横に斜めにと奔放に伸びた枝がサワサワと揺らしている葉はどれもが黄緑色の光を時折波立たせる。
根も幹もだ。
それらの生命力すら感じさせる、美しい巨大な樹の前でユラユラと揺れている水色の炎があった。
気がつくと同時に、ギロリと炎の中で何かが蠢いた。
先に降り立ったオルフェウスから手を差し出されて、素直に頼って舟の縁を跨ぐ。
世話になった…とだけオルフェウスがプシュケーたちに挨拶をし、指に指を絡まれた状態で進み始めた。
「息子、待ってるからねーーっ」
「ほんとだよーーっ」
「息子、待ってるからねーーっ」
後ろをわずかに振り返り、両手を振って見送る精霊族たちに空いてる手を上げて応じた。
次に会う時は彼らとの記憶を思い出しているだろうと、そんな漠然とした予感がした。
「ここから遠いのか」
「いや、すぐそこだ」
尋ねるとすぐさま答えた相手に、そうか…と返した後、しばらく口を閉ざして緑地の中をもくもくと歩み続ける。
繋がれた指を見つめながら、やがて聞いた――そこに何があるのだと。
そうだな…と返してきた相手としばらく無言のまま、木々の間を歩み続ける。
繋がれた指を見つめ続けていると、やがて告げられた――行けば、わかると。
ぎこちないやりとりだ。
互いに言えない想いを抱きながら、着実な終わりに向かって進んでいるようで、続く言葉が見つからない。
(あっ…)
少し開けた草地に四角い石が多数、背よりも高く秩序を持って積まれている構造物が見えてきた。
それはまるで二つの白い角が地面から生えているようだ。
先に行くほど細く尖った石柱には、陸地を繋げる吊り橋のように長い緑色のツタがぶら下がっている。
「地の王ゼウスの土地に冥府の王ハデスが大々的に術をかけるわけにはいかない。だからこれは、ゼウスの子供でもある冥府の王妃ペルセフォネが張った結界だ」
「えっ…」
「先に入ってくれ」
どうして、冥府の王妃が…と問いかける隙もない。
前方の石とツタでできた門に向けてオルフェウスが闘気をまとった手をかざした。
ボワンッと空間が揺らぐや否や、認証されたとばかりに、パァアッと黄緑色の光が四方へと放たれた。
(なんだ…この…感覚は…)
ここであって、ここではないどこかへ直結したと強く肌で感じる。
その異空間から、誰かが呼んでいるのだ。
早く、来いと。
繋がれていた手を離し、光る扉と化した、石と石の間に引き寄せられるようにしてその一歩を踏み出す。
身を中に入れるや否や、スオォォンッとわずかな圧がして、上下左右の全てに満天の星が広がる宇宙空間が目に飛びこんできた。
さらに奥にはボォッ…と薄緑色に光って、小高い丘のように盛り上がっている場所がある。
(あれは…)
星空の地中に根っこを縦横無尽に伸ばし、天の星空へと吸いこまれるようにしてそびえ立つ、その大木はタルタロスの監獄から解放された時のものとよく似ている。
違うのは色合いだ。
横に斜めにと奔放に伸びた枝がサワサワと揺らしている葉はどれもが黄緑色の光を時折波立たせる。
根も幹もだ。
それらの生命力すら感じさせる、美しい巨大な樹の前でユラユラと揺れている水色の炎があった。
気がつくと同時に、ギロリと炎の中で何かが蠢いた。
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