政略結婚で「新興国の王女のくせに」と馬鹿にされたので反撃します

nanahi

文字の大きさ
12 / 18

12 懐妊

しおりを挟む
「イーリス。おいで」

陛下は私の手を取り引き寄せる。

「陛下…」
「愛しいぞ」

陛下との夜は幾日も続いた。陛下は朝まで私を離さなかった。

蜜月のあと、ついに私は懐妊した。



「大事ないか」
「順調ですわ」

つわりで少し痩せた私の様子を見に、陛下は足繁く私の部屋を覗いてくれる。公務中もそわそわと落ち着かない様子だ。

妊娠四ヶ月。安定期に入ったとはいえ油断できない。

”この国では外国から嫁いだ王妃はよく死ぬのよ”

ふとポリーヌの言葉が頭をよぎる。

「だめよ。しっかりしなきゃ」

私はお腹をさすって気合いを入れ直した。



ロビンが久々に私の部屋にやって来た。

「さみしかった?やっと鍵を壊せたんだ」
「鍵?」

確かにしばらく姿が見えなかったけど、幽閉でもされていたの!?

怪訝な顔の私をよそに、ロビンは私のお腹に顔を近づけた。エヴァは足を踏み出そうと構えたが、私が制した。

「いるの?中に」

懐妊のことを誰かに聞いたのだろう。

「ええ。赤ちゃんですわ。殿下の腹違いの兄弟姉妹になります」
「へえ!」

ロビンは目を丸くして不思議そうに私のお腹を見つめた。

「へえ。可愛いかな」
「そう願っていますわ」
「可愛いに決まってる!イーリスちゃんの子どもだもの」
「まあうれしい」

ロビンにそう言われ、私は本当に嬉しかった。

「大切なの?」

ロビンがまた聞いた。

「大切ですわ」
「じゃあ、僕も大切にする。今度は」
「今度は?」
「そうだこれ」

ロビンは小指ほどの小さな笛を私の掌に握らせた。

「これは?」
「耳がいい人しか聞こえない音が出るんだ。助けが必要な時吹いて」
「え」
「じゃあね」

ロビンは私の問いかけには答えず、謎かけのような言葉を残し部屋を去った。私は何となくその笛を胸にしまった。



気晴らしに散歩をしているイーリスに、オリヴァー殿下がお見舞いに訪れた。

「お加減はいかがですか?」
「おかげさまで。つわりもようやくおさまって落ち着いてきましたわ」

オリヴァーは少し面やつれしたイーリスから艶っぽさを感じ、密かに胸をときめかせていた。

父上の妃なのだ。
わかっているがどうしても惹かれてしまう。
ただ遠くから眺めてきたけれど。

「あ」

イーリスがドレスの裾を踏んだ。傾いた体をエヴァより早く隣にいたオリヴァーが支えた。

「大丈夫ですか?」
「ええ。申し訳ありません、殿下」

やわらかく笑みを返すイーリスが急に大人の女性に見えて、オリヴァーは息を呑んだ。

手を離したくなかった。けれど、すっとイーリスはオリヴァーから手を引いた。

「困ったことがあればいつでも頼ってください」

もう父上がいるのに。
それでも言わずにはいられない。

「ありがとうございます。心強いですわ」

イーリスは自分のことは王子として敬ってくれているが、愛は向けてくれていない。

陛下への眼差しと自分へのそれが明確に温度が異なることは重々承知していた。していたが。

陛下に腰を抱かれ歩くイーリスに強烈な渇望を覚えるオリヴァーがいた。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

家族から虐げられた令嬢は冷血伯爵に嫁がされる〜売り飛ばされた先で温かい家庭を築きます〜

香木陽灯
恋愛
「ナタリア! 廊下にホコリがたまっているわ! きちんと掃除なさい」 「お姉様、お茶が冷めてしまったわ。淹れなおして。早くね」 グラミリアン伯爵家では長女のナタリアが使用人のように働かされていた。 彼女はある日、冷血伯爵に嫁ぐように言われる。 「あなたが伯爵家に嫁げば、我が家の利益になるの。あなたは知らないだろうけれど、伯爵に娘を差し出した家には、国王から褒美が出るともっぱらの噂なのよ」   売られるように嫁がされたナタリアだったが、冷血伯爵は噂とは違い優しい人だった。 「僕が世間でなんと呼ばれているか知っているだろう? 僕と結婚することで、君も色々言われるかもしれない。……申し訳ない」 自分に自信がないナタリアと優しい冷血伯爵は、少しずつ距離が近づいていく。 ※ゆるめの設定 ※他サイトにも掲載中

【完結】「政略結婚ですのでお構いなく!」

仙桜可律
恋愛
文官の妹が王子に見初められたことで、派閥間の勢力図が変わった。 「で、政略結婚って言われましてもお父様……」 優秀な兄と妹に挟まれて、何事もほどほどにこなしてきたミランダ。代々優秀な文官を輩出してきたシューゼル伯爵家は良縁に恵まれるそうだ。 適齢期になったら適当に釣り合う方と適当にお付き合いをして適当な時期に結婚したいと思っていた。 それなのに代々武官の家柄で有名なリッキー家と結婚だなんて。 のんびりに見えて豪胆な令嬢と 体力系にしか自信がないワンコ令息 24.4.87 本編完結 以降不定期で番外編予定

【短編完結】地味眼鏡令嬢はとっても普通にざまぁする。

鏑木 うりこ
恋愛
 クリスティア・ノッカー!お前のようなブスは侯爵家に相応しくない!お前との婚約は破棄させてもらう!  茶色の長い髪をお下げに編んだ私、クリスティアは瓶底メガネをクイっと上げて了承致しました。  ええ、良いですよ。ただ、私の物は私の物。そこら辺はきちんとさせていただきますね?    (´・ω・`)普通……。 でも書いたから見てくれたらとても嬉しいです。次はもっと特徴だしたの書きたいです。

【完結】広間でドレスを脱ぎ捨てた公爵令嬢は優しい香りに包まれる【短編】

青波鳩子
恋愛
シャーリー・フォークナー公爵令嬢は、この国の第一王子であり婚約者であるゼブロン・メルレアンに呼び出されていた。 婚約破棄は皆の総意だと言われたシャーリーは、ゼブロンの友人たちの総意では受け入れられないと、王宮で働く者たちの意見を集めて欲しいと言う。 そんなことを言いだすシャーリーを小馬鹿にするゼブロンと取り巻きの生徒会役員たち。 それで納得してくれるのならと卒業パーティ会場から王宮へ向かう。 ゼブロンは自分が住まう王宮で集めた意見が自分と食い違っていることに茫然とする。 *別サイトにアップ済みで、加筆改稿しています。 *約2万字の短編です。 *完結しています。 *11月8日22時に1、2、3話、11月9日10時に4、5、最終話を投稿します。

【完結】聖女を害した公爵令嬢の私は国外追放をされ宿屋で住み込み女中をしております。え、偽聖女だった? ごめんなさい知りません。

藍生蕗
恋愛
 かれこれ五年ほど前、公爵令嬢だった私───オリランダは、王太子の婚約者と実家の娘の立場の両方を聖女であるメイルティン様に奪われた事を許せずに、彼女を害してしまいました。しかしそれが王太子と実家から不興を買い、私は国外追放をされてしまいます。  そうして私は自らの罪と向き合い、平民となり宿屋で住み込み女中として過ごしていたのですが……  偽聖女だった? 更にどうして偽聖女の償いを今更私がしなければならないのでしょうか? とりあえず今幸せなので帰って下さい。 ※ 設定は甘めです ※ 他のサイトにも投稿しています

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

喋ることができなくなった行き遅れ令嬢ですが、幸せです。

加藤ラスク
恋愛
セシル = マクラグレンは昔とある事件のせいで喋ることができなくなっていた。今は王室内事務局で働いており、真面目で誠実だと評判だ。しかし後輩のラーラからは、行き遅れ令嬢などと嫌味を言われる日々。 そんなセシルの密かな喜びは、今大人気のイケメン騎士団長クレイグ = エヴェレストに会えること。クレイグはなぜか毎日事務局に顔を出し、要件がある時は必ずセシルを指名していた。そんなある日、重要な書類が紛失する事件が起きて……

「お姉様の味方なんて誰もいないのよ」とよく言われますが、どうやらそうでもなさそうです

越智屋ノマ
恋愛
王太子ダンテに盛大な誕生日の席で婚約破棄を宣言された侯爵令嬢イヴ。 彼の隣には、妹ラーラの姿――。 幼い頃から家族に疎まれながらも、王太子妃となるべく努力してきたイヴにとって、それは想定外の屈辱だった。 だがその瞬間、国王クラディウスが立ち上がる。 「ならば仕方あるまい。婚約破棄を認めよう。そして――」 その一声が、ダンテのすべてをひっくり返す。 ※ふんわり設定。ハッピーエンドです。

処理中です...