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2 人が離れていく
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翌日、貿易商たちが城を訪れていた。
「王太子殿下がクラウディア様を離縁なさったという噂を聞いたのですが本当でしょうか?」
一同が不安そうな顔で宰相に尋ねた。
「残念ながら、本当です」
貿易商たちは途端に顔を曇らせた。
「それはまずいな……」
「クラウディア様でなければ話にならないのに」
ひそひそと話をしている。
「何だ皆、来ていたのか」
王太子が姿を現した。
面倒な話の時はいつも来ないくせに。
貿易商の誰もが内心そうつぶやいた。
「来年の取引について取り決めを行いたく参りました」
「ほう。話してみよ。これまで多忙で仕方なくクラウディアに任せていたが、もうあれとは離縁したのでな」
貿易商たちは不安で押し黙った。
だが、仕方なく一人が話を切り出した。
「では話を進めさせていただきます。昨年の取引量が倍増したローラン国産のレアメタルについてですが」
「レア……何だと?」
「ご存じ……ないのですか??」
貿易商たちが唖然としている。
王太子はその様子がしゃくにさわった。
「いつも会合に出れていないのだから仕方なかろう!?」
「あ、はい。では説明しますと、クラウディア様の命で西の鉱山を発掘調査しましたところ、産業に利用できる珍しい金属が発見されまして、それをレアメタルと言うのでございますが、周辺国からもっと売ってほしいと要望が──」
「あ~~もういい!」
理解力のない王太子は長い話に頭がこんがらがってきて、キレた。
「細かいことはお前たちに任せる」
「いや、あの、取引量を決めるには、生産量とのバランスを考えて、そちらで決裁していただく必要が」
「うるさい!そっちで何とかしろ!」
いつもなら、クラウディアが専門官に生産量の統計をまとめさせて貿易商たちに取引量を指示してくれていた。
やっぱり駄目だ、このお方は。
貿易商たちはまた一様にそう思った。
王太子はあまりに無能だった。
いや、王太子は最初からやる気がなかったわけではなかった。
だがクラウディアの有能ぶりを見るにつけ、勝手にひがみ、政務から顔を背けたのだ。
努力すれば能力が身につく場面はいくつもあったのに、王太子はそれを放棄した。
クラウディアは能力を見せつけるためではなく、あくまでこの王国を助け、王太子のために頑張っていただけであったが、王太子には自分への当てつけのように感じていた。
「クラウディア様に御目通りを願いたいのですが……」
貿易商の一人が申し出た。
「殿下、来年の王国の収入にも関わる大事な話です。ここは少しだけクラウディア様に話に参加していただいては」
宰相までがクラウディアを頼っていると知り、王太子は怒り出した。
「あやつとは離縁したと言ったであろう!?おい、クラウディアに会いたいと言ったそこのお前は今後この城に立ち入るのを禁じる!!」
と、男を王太子が叱りつけた。
その者は貿易商たちを取りまとめているリーダーだった。
「そんな。いくらなんでも」
「殿下、あんまりです。私たちはこの国のために働いてきましたのに」
食い下がる貿易商たちにイライラした王太子は、
「みな下がれ!私は疲れた!」
と言って、部屋に帰ってしまった。
部屋に残された貿易商たちは顔を見合わせ、
「もう駄目だな、この国は」
「クラウディア様だからもっていたのに」
とヒソヒソ話しながら去っていった。
翌日また、来客が現れた。
農家たちの代表団だ。
「来季の作付けについてですが」
「早く言え。要点を10秒でまとめて話せ」
ダイアナとの時間を削られ、しぶしぶ会合に出席している王太子はご機嫌斜めだ。
「えっ、あの、来季の天候を占っていただき、それから天候に適した作物を決めたいのですが」
「占う?私は占い師ではないぞ」
「いえ、その。クラウディア様が」
「またクラウディアか?あいつはただの無能だぞ」
「そ、そんなはずは。この一年、クラウディア様が天候の予報を外したことは一度もございません」
ピキッと王太子の眉間に青筋が入った。
「クラウディア、クラウディアとうるさい!あいつはもう妃ではないのだから、使えないぞ!天気くらい自分たちで占え!!」
「そ、そんな──」
農家たちは絶句している。
この一年、クラウディアの的中率100%の占いにより、農家たちは非常に助けられていた。
日照りの予報では川から水を引く水路を整備したり、大雨の予報では種を事前に高い位置に避難させたりと、被害にあう回数が激減したのだ。
「殿下、」
「知らん。聞かん」
宰相が王太子を呼び止めようとしたが、王太子は構わずさっさと部屋を出ていってしまった。
呆気にとられた農家たちは、不安に襲われた。
「クラウディア様がいなくなったら、この国はまずいんじゃないのか?」
「まずいどころじゃないぞ。あの王太子は女にうつつを抜かしているボンクラという噂だ。政治には全く興味がないらしい」
「俺たちもこの先のことを考えないと」
ざわつきながら農家たちは去っていった。
「殿下はとうとう変わろうとなさらなかった。そろそろクラウディア様の呪術が切れ始めて、厄災が始まってしまう」
部屋に残っていた宰相がひとり重い息を吐いた。
「王太子殿下がクラウディア様を離縁なさったという噂を聞いたのですが本当でしょうか?」
一同が不安そうな顔で宰相に尋ねた。
「残念ながら、本当です」
貿易商たちは途端に顔を曇らせた。
「それはまずいな……」
「クラウディア様でなければ話にならないのに」
ひそひそと話をしている。
「何だ皆、来ていたのか」
王太子が姿を現した。
面倒な話の時はいつも来ないくせに。
貿易商の誰もが内心そうつぶやいた。
「来年の取引について取り決めを行いたく参りました」
「ほう。話してみよ。これまで多忙で仕方なくクラウディアに任せていたが、もうあれとは離縁したのでな」
貿易商たちは不安で押し黙った。
だが、仕方なく一人が話を切り出した。
「では話を進めさせていただきます。昨年の取引量が倍増したローラン国産のレアメタルについてですが」
「レア……何だと?」
「ご存じ……ないのですか??」
貿易商たちが唖然としている。
王太子はその様子がしゃくにさわった。
「いつも会合に出れていないのだから仕方なかろう!?」
「あ、はい。では説明しますと、クラウディア様の命で西の鉱山を発掘調査しましたところ、産業に利用できる珍しい金属が発見されまして、それをレアメタルと言うのでございますが、周辺国からもっと売ってほしいと要望が──」
「あ~~もういい!」
理解力のない王太子は長い話に頭がこんがらがってきて、キレた。
「細かいことはお前たちに任せる」
「いや、あの、取引量を決めるには、生産量とのバランスを考えて、そちらで決裁していただく必要が」
「うるさい!そっちで何とかしろ!」
いつもなら、クラウディアが専門官に生産量の統計をまとめさせて貿易商たちに取引量を指示してくれていた。
やっぱり駄目だ、このお方は。
貿易商たちはまた一様にそう思った。
王太子はあまりに無能だった。
いや、王太子は最初からやる気がなかったわけではなかった。
だがクラウディアの有能ぶりを見るにつけ、勝手にひがみ、政務から顔を背けたのだ。
努力すれば能力が身につく場面はいくつもあったのに、王太子はそれを放棄した。
クラウディアは能力を見せつけるためではなく、あくまでこの王国を助け、王太子のために頑張っていただけであったが、王太子には自分への当てつけのように感じていた。
「クラウディア様に御目通りを願いたいのですが……」
貿易商の一人が申し出た。
「殿下、来年の王国の収入にも関わる大事な話です。ここは少しだけクラウディア様に話に参加していただいては」
宰相までがクラウディアを頼っていると知り、王太子は怒り出した。
「あやつとは離縁したと言ったであろう!?おい、クラウディアに会いたいと言ったそこのお前は今後この城に立ち入るのを禁じる!!」
と、男を王太子が叱りつけた。
その者は貿易商たちを取りまとめているリーダーだった。
「そんな。いくらなんでも」
「殿下、あんまりです。私たちはこの国のために働いてきましたのに」
食い下がる貿易商たちにイライラした王太子は、
「みな下がれ!私は疲れた!」
と言って、部屋に帰ってしまった。
部屋に残された貿易商たちは顔を見合わせ、
「もう駄目だな、この国は」
「クラウディア様だからもっていたのに」
とヒソヒソ話しながら去っていった。
翌日また、来客が現れた。
農家たちの代表団だ。
「来季の作付けについてですが」
「早く言え。要点を10秒でまとめて話せ」
ダイアナとの時間を削られ、しぶしぶ会合に出席している王太子はご機嫌斜めだ。
「えっ、あの、来季の天候を占っていただき、それから天候に適した作物を決めたいのですが」
「占う?私は占い師ではないぞ」
「いえ、その。クラウディア様が」
「またクラウディアか?あいつはただの無能だぞ」
「そ、そんなはずは。この一年、クラウディア様が天候の予報を外したことは一度もございません」
ピキッと王太子の眉間に青筋が入った。
「クラウディア、クラウディアとうるさい!あいつはもう妃ではないのだから、使えないぞ!天気くらい自分たちで占え!!」
「そ、そんな──」
農家たちは絶句している。
この一年、クラウディアの的中率100%の占いにより、農家たちは非常に助けられていた。
日照りの予報では川から水を引く水路を整備したり、大雨の予報では種を事前に高い位置に避難させたりと、被害にあう回数が激減したのだ。
「殿下、」
「知らん。聞かん」
宰相が王太子を呼び止めようとしたが、王太子は構わずさっさと部屋を出ていってしまった。
呆気にとられた農家たちは、不安に襲われた。
「クラウディア様がいなくなったら、この国はまずいんじゃないのか?」
「まずいどころじゃないぞ。あの王太子は女にうつつを抜かしているボンクラという噂だ。政治には全く興味がないらしい」
「俺たちもこの先のことを考えないと」
ざわつきながら農家たちは去っていった。
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