極道シングルファザーの甘く危険な独占愛

夏目萌

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プロローグ

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 園庭に子どもたちの明るい声が響き渡り、砂場で遊ぶ子、鬼ごっこに夢中になる子など、さまざまな遊びに楽しむ中、その輪の中に入れずにいる小さな影が一つ。

 京極きょうごく  希海のぞみは二ヶ月前に途中入園してきたばかりの園児で、人見知りが激しく誰かが近づくとびくりと肩を揺らして視線を逸らしてしまう。

 希海は他の子どもたちが楽しそうに遊んでいる様子をただ遠くから眺めているだけの日々。

(……このままだと、ずっと一人のままかもしれない)

 そう思った保育士の吾妻あずま  羽衣子ういこは、見兼ねて声をかけた。

「希海くん、先生と一緒に遊ばない?」

 しゃがみ込み目線を合わせて微笑む羽衣子に初めは戸惑ったように視線を泳がせていた希海だったが、やがて小さく頷いた。

 それがきっかけだった。

 ブロック遊びを一緒にしたり絵本を読んだり、時にはただ隣に座って同じ時間を過ごしたりしていくうちに希海は羽衣子に心を開いていった。

「せんせ……これ、できた」
「すごいね、上手に出来たね」

 褒めると希海はにっこりはにかむように笑い、その笑顔が見られるたび羽衣子は喜びに満たされ、気づけば、希海は羽衣子の傍を離れなくなっていた。

「せんせ、どこいくの」
「お仕事だよ。すぐ戻るから待っててね」
「やだ……いっしょ、いく」

 小さな手で服の裾をぎゅっと掴むその仕草が愛おしくて羽衣子は思わず苦笑する。

「じゃあ、一緒に行こうか」

 そう言うと希海はぱっと顔を明るくする。

 そんな日常の中で羽衣子は自然と知ることになる。

 希海には母親がおらず、父親と二人きりで暮らしていることを。

 そして、その父親の京極きょうごく  すばるはいつも迎えが遅いということも。

 閉園間際、ほとんどの子どもが帰った静かな教室で希海は羽衣子の隣に座っている。

「……パパ、まだこない」
「もう少しで来ると思うよ。ブロックしながら一緒に待とうか」

 時計を見上げながら不安そうに呟くその姿に、羽衣子の胸が締め付けられる。

 それから暫くしてバタバタと足音が廊下に響く。

「すみません、遅くなりました」

 息を切らしながら現れた昴はスーツ姿のまま、額に薄らと汗を滲ませている。

「いえ、いつも遅くまでお疲れ様です」

 羽衣子がそう労いの言葉を掛けると昴は少しだけ驚いたように目を見開き、それから柔らかく笑った。

「ありがとうございます。そう言ってもらえると救われます」

 整った顔立ちに、すっと通った背筋。

 穏やかなで優しい物腰の昴は周囲の保育士や保護者たちの間でも評判で、

(……本当に素敵なお父さんだな)

 羽衣子も密かにそう思っていた。

 週末の夜、友人との飲み会の帰りに繁華街を歩いていた時だった。

 ふと、羽衣子の視界に見覚えのある後ろ姿が入る。

(……あれ?)

 街灯に照らされたその姿は昴にそっくりだったけれど、どこか違和感があり彼の周囲には数人の男たちが控えるように立っていた。

 どの男も無口で鋭い視線を持ち、ただそこにいるだけで空気が張り詰めるような存在感を放っている。

(……何、あれ……)

 男たちに囲まれるようにして立つ昴らしき人物はいつも見ている彼とはまるで別人のよう。

 無駄のない所作に冷静でどこか冷えた眼差し。

 一言で表すならば、

(……ヤクザっぽい……?)

 彼は極道関係の人間なのでは無いかーーそんな言葉が頭に浮ぶもすぐに打ち消した。

(やっぱり、あれは他人の空似だよね……)

 昴に良く似てはいるけれど、希海の父親の昴は優しくて真面目でとても素敵な男の人だ。

 そんな人があんなに冷たい表情をする訳が無い。

 あんなに怪しげな人たちと行動を共にする訳が無い。

 そう自分に言い聞かせるけれど、何故か視線を逸らせずにいる羽衣子。

 そんな中、ほんの一瞬昴らしき男の人がこちらに顔を向けた気がした羽衣子ははっと我に返り、

(……ダメ、見てたら怪しまれちゃう)

 咄嗟に視線を逸らすと、踵を返し慌ててその場を離れて行った。

 週明け、

「せんせ!」

 登園して来た希海が嬉しそうに羽衣子に駆け寄ってくる。

「おはよう、希海くん。今日も一緒に遊ぼうね」

 頭を撫でながら微笑むも心の奥は落ち着かないまま、気づけば希海の後を追ってやって来た昴に視線を向ける。

「おはようございます」
「おはようございます。今日もよろしくお願いします」

 丁寧に頭を下げるその様子に違和感はどこにもない。

(……やっぱり、あれは別人だよね)

 そう思おうとしたその時、ふと視線が合った。

「……どうか、しました?」

 静かに問いかけられた羽衣子は息を呑む。

 どうやら無意識にじっと見つめてしまっていたらしい。

「あ、いえ……すみません、何でもないです」

 慌てて目を逸らすけれど、昴は少しだけ首を傾げ、

「そうですか」

 とやわらかく微笑んだ。

(……もう忘れよう、あの日のことは)

 そう思い込もうとする程に胸のざわめきは消えずに頭の中で重なって、どうしても頭を離れない。

 その影響からか、羽衣子は自分でも気づかないうちに事ある毎に昴のことを目で追うようになっていった。
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