11 / 60
第三章『愛情表現のキス』
その一
しおりを挟む
週明け、梢はいつも通りに『ひかり書房』に出社した。が、スケジュール帳を見るなり、げんなりした顔になった。今日は、梢が担当をしている小説家、西園寺久子との打ち合わせ日である。
元々はミステリーを中心に執筆していた久子だが、ここ数年はティーンズ向けの青春小説や官能小説とまでは言わないがやや過激描写の多い恋愛小説まで、ジャンルは幅広くなっている。それだけではなく、近頃は情報番組のコメンテーターとしてメディア出演も顕著になっており、歯に衣着せぬ発言が視聴者の注目の的となっていた。
同じ時間帯、笑理は朝食を食べていた。一昨日は梢も一緒だったが、一人になった今朝の笑理の朝食は、トーストにインスタントのコーンスープというシンプルなものである。
リモコンでテレビをつけると、朝の情報番組が放送されている。そこには、デシベルの高いキーキーした声で、何やら政治家の批判をしている和服美人が映っている。
「こういう不祥事をする政治家が後を絶たないから、税金泥棒なんて言われてるんじゃないですか。みんな、先生とか呼ばれて天狗になって。バカバカしい話ですよ。こんな人たちに、日本の政治を任せて良いものなんですかね」
トーストをかじりながら、笑理はテレビに映る久子の辛口コメントを聞いていた。
「小説家が、こんなにもメディアに出ちゃダメでしょ。しかも政治家批判なんて」
笑理は、母親に近い年齢の久子を見ながら、ブツブツと呟いた。
笑理にとって久子は同業者であったが、当然接点はなく、久子の作品を読んだことは一度もなかった。また、メディアに映る久子のキャラがどうも生理的に合わず、笑理はそのままチャンネルを変えてしまった。
情報番組の生放送を終えた久子が『ひかり書房』を訪れたのは、午前十時を回ってすぐだった。こちらに向かってくる着物姿の女性が久子であることは、遠目から見ても梢には分かった。
梢はデスクから立ち上がり、そのまま久子を迎えた。
「西園寺先生、おはようございます」
「おはよう、山辺さん。あら、今日は随分顔色が良いけど、何か良いことでもあった?」
梢は一瞬ドキッとしたが、
「普段は、顔色悪いですか?」
「仕事に追われて、余裕がない感じがするから」
あながち間違いではなかった。実際、今朝はいつもよりメイクに時間をかけていた。これも笑理との出会いがあったからである。
「さあ、こちらへどうぞ」
梢はそのまま、久子をミーティングルームへ案内した。
元々はミステリーを中心に執筆していた久子だが、ここ数年はティーンズ向けの青春小説や官能小説とまでは言わないがやや過激描写の多い恋愛小説まで、ジャンルは幅広くなっている。それだけではなく、近頃は情報番組のコメンテーターとしてメディア出演も顕著になっており、歯に衣着せぬ発言が視聴者の注目の的となっていた。
同じ時間帯、笑理は朝食を食べていた。一昨日は梢も一緒だったが、一人になった今朝の笑理の朝食は、トーストにインスタントのコーンスープというシンプルなものである。
リモコンでテレビをつけると、朝の情報番組が放送されている。そこには、デシベルの高いキーキーした声で、何やら政治家の批判をしている和服美人が映っている。
「こういう不祥事をする政治家が後を絶たないから、税金泥棒なんて言われてるんじゃないですか。みんな、先生とか呼ばれて天狗になって。バカバカしい話ですよ。こんな人たちに、日本の政治を任せて良いものなんですかね」
トーストをかじりながら、笑理はテレビに映る久子の辛口コメントを聞いていた。
「小説家が、こんなにもメディアに出ちゃダメでしょ。しかも政治家批判なんて」
笑理は、母親に近い年齢の久子を見ながら、ブツブツと呟いた。
笑理にとって久子は同業者であったが、当然接点はなく、久子の作品を読んだことは一度もなかった。また、メディアに映る久子のキャラがどうも生理的に合わず、笑理はそのままチャンネルを変えてしまった。
情報番組の生放送を終えた久子が『ひかり書房』を訪れたのは、午前十時を回ってすぐだった。こちらに向かってくる着物姿の女性が久子であることは、遠目から見ても梢には分かった。
梢はデスクから立ち上がり、そのまま久子を迎えた。
「西園寺先生、おはようございます」
「おはよう、山辺さん。あら、今日は随分顔色が良いけど、何か良いことでもあった?」
梢は一瞬ドキッとしたが、
「普段は、顔色悪いですか?」
「仕事に追われて、余裕がない感じがするから」
あながち間違いではなかった。実際、今朝はいつもよりメイクに時間をかけていた。これも笑理との出会いがあったからである。
「さあ、こちらへどうぞ」
梢はそのまま、久子をミーティングルームへ案内した。
0
あなたにおすすめの小説
せんせいとおばさん
悠生ゆう
恋愛
創作百合
樹梨は小学校の教師をしている。今年になりはじめてクラス担任を持つことになった。毎日張り詰めている中、クラスの児童の流里が怪我をした。母親に連絡をしたところ、引き取りに現れたのは流里の叔母のすみ枝だった。樹梨は、飄々としたすみ枝に惹かれていく。
※学校の先生のお仕事の実情は知りませんので、間違っている部分がっあたらすみません。
身体だけの関係です‐三崎早月について‐
みのりすい
恋愛
「ボディタッチくらいするよね。女の子同士だもん」
三崎早月、15歳。小佐田未沙、14歳。
クラスメイトの二人は、お互いにタイプが違ったこともあり、ほとんど交流がなかった。
中学三年生の春、そんな二人の関係が、少しだけ、動き出す。
※百合作品として執筆しましたが、男性キャラクターも多数おり、BL要素、NL要素もございます。悪しからずご了承ください。また、軽度ですが性描写を含みます。
12/11 ”原田巴について”投稿開始。→12/13 別作品として投稿しました。ご迷惑をおかけします。
身体だけの関係です 原田巴について
https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/734700789
作者ツイッター: twitter/minori_sui
とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
さくらと遥香
youmery
恋愛
国民的な人気を誇る女性アイドルグループの4期生として活動する、さくらと遥香(=かっきー)。
さくら視点で描かれる、かっきーとの百合恋愛ストーリーです。
◆あらすじ
さくらと遥香は、同じアイドルグループで活動する同期の2人。
さくらは"さくちゃん"、
遥香は名字にちなんで"かっきー"の愛称でメンバーやファンから愛されている。
同期の中で、加入当時から選抜メンバーに選ばれ続けているのはさくらと遥香だけ。
ときに"4期生のダブルエース"とも呼ばれる2人は、お互いに支え合いながら数々の試練を乗り越えてきた。
同期、仲間、戦友、コンビ。
2人の関係を表すにはどんな言葉がふさわしいか。それは2人にしか分からない。
そんな2人の関係に大きな変化が訪れたのは2022年2月、46時間の生配信番組の最中。
イラストを描くのが得意な遥香は、生配信中にメンバー全員の似顔絵を描き上げる企画に挑戦していた。
配信スタジオの一角を使って、休む間も惜しんで似顔絵を描き続ける遥香。
さくらは、眠そうな顔で頑張る遥香の姿を心配そうに見つめていた。
2日目の配信が終わった夜、さくらが遥香の様子を見に行くと誰もいないスタジオで2人きりに。
遥香の力になりたいさくらは、
「私に出来ることがあればなんでも言ってほしい」
と申し出る。
そこで、遥香から目をつむるように言われて待っていると、さくらは唇に柔らかい感触を感じて…
◆章構成と主な展開
・46時間TV編[完結]
(初キス、告白、両想い)
・付き合い始めた2人編[完結]
(交際スタート、グループ内での距離感の変化)
・かっきー1st写真集編[完結]
(少し大人なキス、肌と肌の触れ合い)
・お泊まり温泉旅行編[完結]
(お風呂、もう少し大人な関係へ)
・かっきー2回目のセンター編[完結]
(かっきーの誕生日お祝い)
・飛鳥さん卒コン編[完結]
(大好きな先輩に2人の関係を伝える)
・さくら1st写真集編[完結]
(お風呂で♡♡)
・Wセンター編[完結]
(支え合う2人)
※女の子同士のキスやハグといった百合要素があります。抵抗のない方だけお楽しみください。
義姉妹百合恋愛
沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。
「再婚するから」
そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。
次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。
それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。
※他サイトにも掲載しております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる