13 / 60
第三章『愛情表現のキス』
その三
しおりを挟む
二日後、梢は単行本の返却を口実に笑理のマンションを訪れた。
この二日間、梢は久子に言われたことが頭から離れず、笑理の真意を確認したかったのだ。
「読み終わるの早かったね。さすが編集者だわ」
「いえ……」
「何かあった?」
突然笑理に尋ねられたので、梢は重い口を開き始めた。
「私、ある作家さんの担当もしてるんですけど、その方、作品のためだったら平気でいろんな人と付き合って、体の関係にもなるんですって。恋愛経験のない私には、その気持ちが理解できなくて。他の作家にも、作品のために恋愛する人もいるって言われて……笑理先輩は、どういう気持ちで私に告白したのかなと思って……」
梢はそう言うと、寂しそうにうつむいた。
笑理はしばらく梢を見つめると、突然ケラケラと笑い出した。
「梢ちゃん、そんなこと気にしてたの?」
「だって……」
「誰が言ったか知らないけど、少なくとも私は、作品のために梢ちゃんと付き合ってるわけじゃないってことは、はっきり言っとく」
梢は笑理を見つめ、嘘をついている目ではないと思った。すると笑理は、梢の隣に来てそのまま肩を抱き寄せると、諭すように、
「私は、むしろ逆。梢ちゃんがいてくれるから、作品が書けるんだよ」
「笑理先輩……」
「梢ちゃんがそばにいてくれると、頑張って作品を書こうって思えるんだもん。この間言ったでしょ、梢ちゃんのこと愛してるって。あの言葉に嘘はないよ」
梢は少しでも自分への愛を疑ったことを情けなく思った。久子に言われたことを気にして、笑理に不信感を募らせたことを心底申し訳なく感じていた。
「ごめんなさい……、私……」
「『ひかり書房』から本を出してる作家で、そんなデリカシーのないこと言う人なんて、どうせ西園寺久子でしょ」
図星を指され、梢は黙り込んでしまった。
「やっぱりね。朝の情報番組の発言と言い、あの人はどうも好きになれない」
「西園寺先生に言わないでくださいね」
「言うわけないでしょ。それに向こうは、私の顔知らないんだから」
「あ、そうですよね……」
「ねえ、梢ちゃん。何も考えずに、感情を無にして、目を閉じてごらん」
梢は言われるがまま、瞼を閉じる。すると、唇に柔らかい感触が当たった。もう一度瞼を開くと、笑理の顔が目の前にあった。
「笑理先輩……」
「これでも、私の愛が嘘だと思う?」
梢は勢いよく首を横に振ると、笑理から強く抱きしめられた。笑理の愛が本物であることを、梢はひしひしと感じていた。
この二日間、梢は久子に言われたことが頭から離れず、笑理の真意を確認したかったのだ。
「読み終わるの早かったね。さすが編集者だわ」
「いえ……」
「何かあった?」
突然笑理に尋ねられたので、梢は重い口を開き始めた。
「私、ある作家さんの担当もしてるんですけど、その方、作品のためだったら平気でいろんな人と付き合って、体の関係にもなるんですって。恋愛経験のない私には、その気持ちが理解できなくて。他の作家にも、作品のために恋愛する人もいるって言われて……笑理先輩は、どういう気持ちで私に告白したのかなと思って……」
梢はそう言うと、寂しそうにうつむいた。
笑理はしばらく梢を見つめると、突然ケラケラと笑い出した。
「梢ちゃん、そんなこと気にしてたの?」
「だって……」
「誰が言ったか知らないけど、少なくとも私は、作品のために梢ちゃんと付き合ってるわけじゃないってことは、はっきり言っとく」
梢は笑理を見つめ、嘘をついている目ではないと思った。すると笑理は、梢の隣に来てそのまま肩を抱き寄せると、諭すように、
「私は、むしろ逆。梢ちゃんがいてくれるから、作品が書けるんだよ」
「笑理先輩……」
「梢ちゃんがそばにいてくれると、頑張って作品を書こうって思えるんだもん。この間言ったでしょ、梢ちゃんのこと愛してるって。あの言葉に嘘はないよ」
梢は少しでも自分への愛を疑ったことを情けなく思った。久子に言われたことを気にして、笑理に不信感を募らせたことを心底申し訳なく感じていた。
「ごめんなさい……、私……」
「『ひかり書房』から本を出してる作家で、そんなデリカシーのないこと言う人なんて、どうせ西園寺久子でしょ」
図星を指され、梢は黙り込んでしまった。
「やっぱりね。朝の情報番組の発言と言い、あの人はどうも好きになれない」
「西園寺先生に言わないでくださいね」
「言うわけないでしょ。それに向こうは、私の顔知らないんだから」
「あ、そうですよね……」
「ねえ、梢ちゃん。何も考えずに、感情を無にして、目を閉じてごらん」
梢は言われるがまま、瞼を閉じる。すると、唇に柔らかい感触が当たった。もう一度瞼を開くと、笑理の顔が目の前にあった。
「笑理先輩……」
「これでも、私の愛が嘘だと思う?」
梢は勢いよく首を横に振ると、笑理から強く抱きしめられた。笑理の愛が本物であることを、梢はひしひしと感じていた。
0
あなたにおすすめの小説
せんせいとおばさん
悠生ゆう
恋愛
創作百合
樹梨は小学校の教師をしている。今年になりはじめてクラス担任を持つことになった。毎日張り詰めている中、クラスの児童の流里が怪我をした。母親に連絡をしたところ、引き取りに現れたのは流里の叔母のすみ枝だった。樹梨は、飄々としたすみ枝に惹かれていく。
※学校の先生のお仕事の実情は知りませんので、間違っている部分がっあたらすみません。
身体だけの関係です‐三崎早月について‐
みのりすい
恋愛
「ボディタッチくらいするよね。女の子同士だもん」
三崎早月、15歳。小佐田未沙、14歳。
クラスメイトの二人は、お互いにタイプが違ったこともあり、ほとんど交流がなかった。
中学三年生の春、そんな二人の関係が、少しだけ、動き出す。
※百合作品として執筆しましたが、男性キャラクターも多数おり、BL要素、NL要素もございます。悪しからずご了承ください。また、軽度ですが性描写を含みます。
12/11 ”原田巴について”投稿開始。→12/13 別作品として投稿しました。ご迷惑をおかけします。
身体だけの関係です 原田巴について
https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/734700789
作者ツイッター: twitter/minori_sui
小さくなって寝ている先輩にキスをしようとしたら、バレて逆にキスをされてしまった話
穂鈴 えい
恋愛
ある日の放課後、部室に入ったわたしは、普段しっかりとした先輩が無防備な姿で眠っているのに気がついた。ひっそりと片思いを抱いている先輩にキスがしたくて縮小薬を飲んで100分の1サイズで近づくのだが、途中で気づかれてしまったわたしは、逆に先輩に弄ばれてしまい……。
とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
放課後の約束と秘密 ~温もり重ねる二人の時間~
楠富 つかさ
恋愛
中学二年生の佑奈は、母子家庭で家事をこなしながら日々を過ごしていた。友達はいるが、特別に誰かと深く関わることはなく、学校と家を行き来するだけの平凡な毎日。そんな佑奈に、同じクラスの大波多佳子が積極的に距離を縮めてくる。
佳子は華やかで、成績も良く、家は裕福。けれど両親は海外赴任中で、一人暮らしをしている。人懐っこい笑顔の裏で、彼女が抱えているのは、誰にも言えない「寂しさ」だった。
「ねぇ、明日から私の部屋で勉強しない?」
放課後、二人は図書室ではなく、佳子の部屋で過ごすようになる。最初は勉強のためだったはずが、いつの間にか、それはただ一緒にいる時間になり、互いにとってかけがえのないものになっていく。
――けれど、佑奈は思う。
「私なんかが、佳子ちゃんの隣にいていいの?」
特別になりたい。でも、特別になるのが怖い。
放課後、少しずつ距離を縮める二人の、静かであたたかな日々の物語。
4/6以降、8/31の完結まで毎週日曜日更新です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる