私と先輩のキス日和

壽倉雅

文字の大きさ
27 / 60
第六章『ごほうびのキス』

その二

しおりを挟む
新聞小説の連載が無事に終わり、梢から出版会議で企画が通ったことを聞かされた笑理は、早速新作小説の執筆を始めていった。
梢と交際をスタートさせてから、思えば初めて仕事を一緒にすることに気づいた笑理は、これまで以上に執筆に対しての集中力を高めていった。書斎兼作業部屋にあるデスクには、創作に関するメモやアイディアを殴り書きしたノートがあり、笑理はそれを見ながら作品を執筆している。
初稿を書き終えるまでの二ヶ月間、笑理は執筆に専念するために梢とのデートも行わない徹底ぶりだった。梢も考えを尊重してくれたことで、笑理は安心して執筆することができたが、初稿を書き終えた後も創作に対する時間を惜しまないほどである。
集中して聞こえなかったのか、ふとインターホンが何度も鳴っていることに気づいた笑理は、慌ててボタンを押した。
「笑理、いる?」
インターホン越しから聞こえたのは、梢の声だった。
「ごめん、今開けるね」
仕事終わりの梢は、コンビニスイーツを差し入れするために来てくれたのだ。
「初稿執筆、まずはお疲れ様でした」
「ありがとう。直しがあったら、いつでも連絡して」
「これから、じっくり読む。ようやく前の作家さんの修正が終わったから」
「同時進行で、何人もの作家さん抱えて大変だね」
「まあ、それが仕事だから」
苦笑して答える梢に対して、笑理は改まったように姿勢を直した。
「どうしたの、笑理?」
「あのさ、梢。今の作品が書き終わるまで、プライベートで会うのはやめない?」
考えた末での笑理の決断であり、梢に告げるのには随分と考えたものである。梢は優しく微笑んで、
「良いよ。笑理……いや、三田村理絵先生が良い作品を書くためだもんね。私もその間、編集者として装丁デザイナーさんや校閲部の人たちと協力して、三田村先生の新作を形にできるように頑張るから」
「ごめんね……梢」
「気にしないで」
梢がそう言い、二人は袋から出したプリンを食べ始めた。
「美味しいね」
と、梢は微笑んで笑理を見たが、笑理には梢の顔の奥にある寂しさを感じ取っていた。

自身のマンションに帰宅した梢は、靴を脱ぐなり玄関で小さくしゃがみ込むと、めそめそと泣き始めた。笑理の気持ちは理解していたが、仕事でいくらでも顔を合わせられる笑理と、プライベートで会えないということがこんなにも寂しいものなのかと。
「笑理……」
梢はブレスレットを強く握りしめながら、脳裏に笑理のことを思っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

せんせいとおばさん

悠生ゆう
恋愛
創作百合 樹梨は小学校の教師をしている。今年になりはじめてクラス担任を持つことになった。毎日張り詰めている中、クラスの児童の流里が怪我をした。母親に連絡をしたところ、引き取りに現れたのは流里の叔母のすみ枝だった。樹梨は、飄々としたすみ枝に惹かれていく。 ※学校の先生のお仕事の実情は知りませんので、間違っている部分がっあたらすみません。

ワタシのセンセイ

悠生ゆう
恋愛
『せんせいとおばさん』に登場した流里(小2)が中学生になりました。 中学生になった流里が恋をした相手は中学校の体育教師だった。

憧れの先輩とイケナイ状況に!?

暗黒神ゼブラ
恋愛
今日私は憧れの先輩とご飯を食べに行くことになっちゃった!?

身体だけの関係です‐三崎早月について‐

みのりすい
恋愛
「ボディタッチくらいするよね。女の子同士だもん」 三崎早月、15歳。小佐田未沙、14歳。 クラスメイトの二人は、お互いにタイプが違ったこともあり、ほとんど交流がなかった。 中学三年生の春、そんな二人の関係が、少しだけ、動き出す。 ※百合作品として執筆しましたが、男性キャラクターも多数おり、BL要素、NL要素もございます。悪しからずご了承ください。また、軽度ですが性描写を含みます。 12/11 ”原田巴について”投稿開始。→12/13 別作品として投稿しました。ご迷惑をおかけします。 身体だけの関係です 原田巴について https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/734700789 作者ツイッター: twitter/minori_sui

小さくなって寝ている先輩にキスをしようとしたら、バレて逆にキスをされてしまった話

穂鈴 えい
恋愛
ある日の放課後、部室に入ったわたしは、普段しっかりとした先輩が無防備な姿で眠っているのに気がついた。ひっそりと片思いを抱いている先輩にキスがしたくて縮小薬を飲んで100分の1サイズで近づくのだが、途中で気づかれてしまったわたしは、逆に先輩に弄ばれてしまい……。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

さくらと遥香

youmery
恋愛
国民的な人気を誇る女性アイドルグループの4期生として活動する、さくらと遥香(=かっきー)。 さくら視点で描かれる、かっきーとの百合恋愛ストーリーです。 ◆あらすじ さくらと遥香は、同じアイドルグループで活動する同期の2人。 さくらは"さくちゃん"、 遥香は名字にちなんで"かっきー"の愛称でメンバーやファンから愛されている。 同期の中で、加入当時から選抜メンバーに選ばれ続けているのはさくらと遥香だけ。 ときに"4期生のダブルエース"とも呼ばれる2人は、お互いに支え合いながら数々の試練を乗り越えてきた。 同期、仲間、戦友、コンビ。 2人の関係を表すにはどんな言葉がふさわしいか。それは2人にしか分からない。 そんな2人の関係に大きな変化が訪れたのは2022年2月、46時間の生配信番組の最中。 イラストを描くのが得意な遥香は、生配信中にメンバー全員の似顔絵を描き上げる企画に挑戦していた。 配信スタジオの一角を使って、休む間も惜しんで似顔絵を描き続ける遥香。 さくらは、眠そうな顔で頑張る遥香の姿を心配そうに見つめていた。 2日目の配信が終わった夜、さくらが遥香の様子を見に行くと誰もいないスタジオで2人きりに。 遥香の力になりたいさくらは、 「私に出来ることがあればなんでも言ってほしい」 と申し出る。 そこで、遥香から目をつむるように言われて待っていると、さくらは唇に柔らかい感触を感じて… ◆章構成と主な展開 ・46時間TV編[完結] (初キス、告白、両想い) ・付き合い始めた2人編[完結] (交際スタート、グループ内での距離感の変化) ・かっきー1st写真集編[完結] (少し大人なキス、肌と肌の触れ合い) ・お泊まり温泉旅行編[完結] (お風呂、もう少し大人な関係へ) ・かっきー2回目のセンター編[完結] (かっきーの誕生日お祝い) ・飛鳥さん卒コン編[完結] (大好きな先輩に2人の関係を伝える) ・さくら1st写真集編[完結] (お風呂で♡♡) ・Wセンター編[完結] (支え合う2人) ※女の子同士のキスやハグといった百合要素があります。抵抗のない方だけお楽しみください。

処理中です...