28 / 60
第六章『ごほうびのキス』
その三
しおりを挟む
笑理と会う時は仕事モードになろうと言い聞かせた梢は、一晩ゆっくりと眠り、翌日には三田村理絵の編集担当者の顔になって仕事に臨んだ。笑理の執筆した新作は高校を舞台にした恋愛もので、梢はミーティングルームでノートパソコンを立ち上げると、イラストレーターやデザイナーをリモートで繋げて、装丁デザインについてのディスカッションを始めた。
「私にとって、三田村理絵先生と初めてご一緒する作品なので、皆さんのお力添えをお願いします」
仕事でありながらも、やはり心から愛している笑理に喜んでもらいたい一心で、梢は画面越しにイラストレーターとデザイナーに頭を下げた。
それから梢は、笑理の執筆した初稿をじっくりと読みながら、作品における矛盾点や、登場人物の一人称や二人称の呼び方の整合性などを確認した。
あくまで恋人の笑理ではなく、担当作家の三田村理絵として接することを決めた梢は、初稿の気になった点を赤ペンでチェックし、それをスキャンしたデータを笑理にメールで送った。同時に、DTB部のオペレーターのもとへ行き、体裁などの打ち合わせを行い、本を作るための工程を少しずつ踏んでいった。
一方、梢からの原稿チェックを確認した笑理は、梢の指摘した部分を含めた二校の執筆を進めていた。本が完成するまでプライベートで会わないと自分で決めたものの、やはり内心、梢に寂しい思いをさせてしまっていることを笑理は痛感していた。
笑理のデスクには、初デートの際に自撮りをした梢とのツーショット写真が、写真立てに飾られている。原稿執筆の合間、梢のことを思う笑理は、写真立てを手にすると、そこに笑顔で映っている梢をじっと見つめていることも多々あった。
「ごめんね、梢……」
自分が原稿を書き終え、梢が無事に編集者として本を作り終えるまでの工程が終わったら、ちゃんと梢と向き合う時間を作ろうと、笑理は心に決めていた。
数週間が経ち、一足先に原稿を進めていた久子の新作小説のゲラが完成した。印刷会社から届いたゲラを見た梢は、完成を目前にしたことでひと段落。
「何とか、ここまでできたな」
高梨も同じように確認すると、胸をなでおろしていた。
「高梨部長のバックアップのおかげで、トラブルも特になく、無事にここまでできました」
「西園寺先生は執筆には手を抜かないから、作業がスムーズなんだよ。あれで性格が良けりゃなぁ」
しょっぱい顔で呟く高梨を、梢は苦笑して見ていた。
「私にとって、三田村理絵先生と初めてご一緒する作品なので、皆さんのお力添えをお願いします」
仕事でありながらも、やはり心から愛している笑理に喜んでもらいたい一心で、梢は画面越しにイラストレーターとデザイナーに頭を下げた。
それから梢は、笑理の執筆した初稿をじっくりと読みながら、作品における矛盾点や、登場人物の一人称や二人称の呼び方の整合性などを確認した。
あくまで恋人の笑理ではなく、担当作家の三田村理絵として接することを決めた梢は、初稿の気になった点を赤ペンでチェックし、それをスキャンしたデータを笑理にメールで送った。同時に、DTB部のオペレーターのもとへ行き、体裁などの打ち合わせを行い、本を作るための工程を少しずつ踏んでいった。
一方、梢からの原稿チェックを確認した笑理は、梢の指摘した部分を含めた二校の執筆を進めていた。本が完成するまでプライベートで会わないと自分で決めたものの、やはり内心、梢に寂しい思いをさせてしまっていることを笑理は痛感していた。
笑理のデスクには、初デートの際に自撮りをした梢とのツーショット写真が、写真立てに飾られている。原稿執筆の合間、梢のことを思う笑理は、写真立てを手にすると、そこに笑顔で映っている梢をじっと見つめていることも多々あった。
「ごめんね、梢……」
自分が原稿を書き終え、梢が無事に編集者として本を作り終えるまでの工程が終わったら、ちゃんと梢と向き合う時間を作ろうと、笑理は心に決めていた。
数週間が経ち、一足先に原稿を進めていた久子の新作小説のゲラが完成した。印刷会社から届いたゲラを見た梢は、完成を目前にしたことでひと段落。
「何とか、ここまでできたな」
高梨も同じように確認すると、胸をなでおろしていた。
「高梨部長のバックアップのおかげで、トラブルも特になく、無事にここまでできました」
「西園寺先生は執筆には手を抜かないから、作業がスムーズなんだよ。あれで性格が良けりゃなぁ」
しょっぱい顔で呟く高梨を、梢は苦笑して見ていた。
0
あなたにおすすめの小説
せんせいとおばさん
悠生ゆう
恋愛
創作百合
樹梨は小学校の教師をしている。今年になりはじめてクラス担任を持つことになった。毎日張り詰めている中、クラスの児童の流里が怪我をした。母親に連絡をしたところ、引き取りに現れたのは流里の叔母のすみ枝だった。樹梨は、飄々としたすみ枝に惹かれていく。
※学校の先生のお仕事の実情は知りませんので、間違っている部分がっあたらすみません。
身体だけの関係です‐三崎早月について‐
みのりすい
恋愛
「ボディタッチくらいするよね。女の子同士だもん」
三崎早月、15歳。小佐田未沙、14歳。
クラスメイトの二人は、お互いにタイプが違ったこともあり、ほとんど交流がなかった。
中学三年生の春、そんな二人の関係が、少しだけ、動き出す。
※百合作品として執筆しましたが、男性キャラクターも多数おり、BL要素、NL要素もございます。悪しからずご了承ください。また、軽度ですが性描写を含みます。
12/11 ”原田巴について”投稿開始。→12/13 別作品として投稿しました。ご迷惑をおかけします。
身体だけの関係です 原田巴について
https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/734700789
作者ツイッター: twitter/minori_sui
小さくなって寝ている先輩にキスをしようとしたら、バレて逆にキスをされてしまった話
穂鈴 えい
恋愛
ある日の放課後、部室に入ったわたしは、普段しっかりとした先輩が無防備な姿で眠っているのに気がついた。ひっそりと片思いを抱いている先輩にキスがしたくて縮小薬を飲んで100分の1サイズで近づくのだが、途中で気づかれてしまったわたしは、逆に先輩に弄ばれてしまい……。
とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
さくらと遥香
youmery
恋愛
国民的な人気を誇る女性アイドルグループの4期生として活動する、さくらと遥香(=かっきー)。
さくら視点で描かれる、かっきーとの百合恋愛ストーリーです。
◆あらすじ
さくらと遥香は、同じアイドルグループで活動する同期の2人。
さくらは"さくちゃん"、
遥香は名字にちなんで"かっきー"の愛称でメンバーやファンから愛されている。
同期の中で、加入当時から選抜メンバーに選ばれ続けているのはさくらと遥香だけ。
ときに"4期生のダブルエース"とも呼ばれる2人は、お互いに支え合いながら数々の試練を乗り越えてきた。
同期、仲間、戦友、コンビ。
2人の関係を表すにはどんな言葉がふさわしいか。それは2人にしか分からない。
そんな2人の関係に大きな変化が訪れたのは2022年2月、46時間の生配信番組の最中。
イラストを描くのが得意な遥香は、生配信中にメンバー全員の似顔絵を描き上げる企画に挑戦していた。
配信スタジオの一角を使って、休む間も惜しんで似顔絵を描き続ける遥香。
さくらは、眠そうな顔で頑張る遥香の姿を心配そうに見つめていた。
2日目の配信が終わった夜、さくらが遥香の様子を見に行くと誰もいないスタジオで2人きりに。
遥香の力になりたいさくらは、
「私に出来ることがあればなんでも言ってほしい」
と申し出る。
そこで、遥香から目をつむるように言われて待っていると、さくらは唇に柔らかい感触を感じて…
◆章構成と主な展開
・46時間TV編[完結]
(初キス、告白、両想い)
・付き合い始めた2人編[完結]
(交際スタート、グループ内での距離感の変化)
・かっきー1st写真集編[完結]
(少し大人なキス、肌と肌の触れ合い)
・お泊まり温泉旅行編[完結]
(お風呂、もう少し大人な関係へ)
・かっきー2回目のセンター編[完結]
(かっきーの誕生日お祝い)
・飛鳥さん卒コン編[完結]
(大好きな先輩に2人の関係を伝える)
・さくら1st写真集編[完結]
(お風呂で♡♡)
・Wセンター編[完結]
(支え合う2人)
※女の子同士のキスやハグといった百合要素があります。抵抗のない方だけお楽しみください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる