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第十章『旅行中のキスー前篇ー』
その四
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「結婚して二人の子どもができた後も、あの人はほとんど家庭を顧みなくて。身の回りの世話をしてくれる、体の良いお手伝いさんが欲しかっただけなんでしょう。離婚した後だって、養育費払えば済まされると思って、父親らしいことなんて何もしなかったんですよ。この子たちの母親が亡くなったときも、笑理に持たせた香典も突き返してやりました」
嫌悪感満載で話す房代を見て、高梨がこの家族たちから相当嫌われていることを梢は察した。
「私が大学在学中にコンクールに応募して、ペンネームでデビューしたとき、お父さん……高梨部長は別のプロジェクトで忙しくて、私の作品を読んでなかったの。後になって、私だって知った時は驚いたらしい」
笑理が冷静に口を開いた。
「『ひかり書房』に応募したのは、高梨部長がいらっしゃったから?」
「うん。本当の目的は、あの人に私の存在を知らしめたかったからなの。結果としては同じような仕事をすることになるなんて、とんだ皮肉だよね」
「……」
「お母さん、亡くなる前、私に呟いたの。ごめんねって。何に対して謝ったのか分からないけど、家族に謝罪しながら死んでいったお母さんが哀れに思えてさ……」
梢は笑理にどう言葉をかけて良いのか分からなかった。
「この子たちの母親は早くに亡くなりましたけど、二人の娘がそれぞれの思いをもって今を生きてるだけで、あの世から喜んでると思います。朱理はこの旅館を継いでくれてますし、笑理も作家として活動しながらも、母親の三回忌のために帰ってきてくれましたし」
梢がふと笑理を見ると、笑理は大きく頷くと正座をした。
「あのさ、おばあちゃん……。こっちに来たのは、確かにお母さんの三回忌のためでもあるんだけど、本当はもう一つあるの」
房代と朱理は不思議そうにお互いの顔を見合った。
「私ね、今、梢と付き合ってて、同棲もしてるの。私は、女の人しか好きになれないの」
笑理のカミングアウトを梢は黙って聞き、そのまま房代たちに頭を深々と下げた。
「そう……。まあ、そうなるのも無理ないわ。けど、笑理が幸せに暮らしてるんだったら、おばあちゃん、何も言わないわ。あんたの人生なんだから」
「お姉ちゃんも……」
笑理の目には涙が浮かび、梢はもう一度房代たちに頭を下げ、
「ありがとうございます……」
「今日はごゆっくりお休みください。では、私たちはこれで」
房代と朱理は三つ指を立てて頭を下げると、去っていった。
嫌悪感満載で話す房代を見て、高梨がこの家族たちから相当嫌われていることを梢は察した。
「私が大学在学中にコンクールに応募して、ペンネームでデビューしたとき、お父さん……高梨部長は別のプロジェクトで忙しくて、私の作品を読んでなかったの。後になって、私だって知った時は驚いたらしい」
笑理が冷静に口を開いた。
「『ひかり書房』に応募したのは、高梨部長がいらっしゃったから?」
「うん。本当の目的は、あの人に私の存在を知らしめたかったからなの。結果としては同じような仕事をすることになるなんて、とんだ皮肉だよね」
「……」
「お母さん、亡くなる前、私に呟いたの。ごめんねって。何に対して謝ったのか分からないけど、家族に謝罪しながら死んでいったお母さんが哀れに思えてさ……」
梢は笑理にどう言葉をかけて良いのか分からなかった。
「この子たちの母親は早くに亡くなりましたけど、二人の娘がそれぞれの思いをもって今を生きてるだけで、あの世から喜んでると思います。朱理はこの旅館を継いでくれてますし、笑理も作家として活動しながらも、母親の三回忌のために帰ってきてくれましたし」
梢がふと笑理を見ると、笑理は大きく頷くと正座をした。
「あのさ、おばあちゃん……。こっちに来たのは、確かにお母さんの三回忌のためでもあるんだけど、本当はもう一つあるの」
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「私ね、今、梢と付き合ってて、同棲もしてるの。私は、女の人しか好きになれないの」
笑理のカミングアウトを梢は黙って聞き、そのまま房代たちに頭を深々と下げた。
「そう……。まあ、そうなるのも無理ないわ。けど、笑理が幸せに暮らしてるんだったら、おばあちゃん、何も言わないわ。あんたの人生なんだから」
「お姉ちゃんも……」
笑理の目には涙が浮かび、梢はもう一度房代たちに頭を下げ、
「ありがとうございます……」
「今日はごゆっくりお休みください。では、私たちはこれで」
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