ショタパパ ミハエルくん(耳の痛い話バージョン)あるいは、(とっ散らかったバージョン)

京衛武百十

文字の大きさ
33 / 571

観察

しおりを挟む
オオルリオビアゲハの姿をスケッチした二人は、そのまま蝶の観察を続けることとなった。しかし蝶はただ寝ているだけで、二時間、三時間と時間が経っても何の変化もない。

それでも、セルゲイと悠里ユーリは不平を零すこともなく、その場の植物と同化するように気配を経ちながらただ蝶を眺めていた。

時折、僅かに動くもののやはり大きな変化はない。

けれど、わざと蝶を起こすようなこともしない。それでは<自然な生態>の観察にならないとセルゲイは考えるからだ。

幸い、自分には時間がある。このまま蝶の一生に付き合ったって惜しくないほどには。

それを、悠里にも学んでもらう。

「悠里、僕達には時間がある。たとえすぐには上手くいかなくても、上手くいくまで方法を探し続けるくらいの時間はね。だから焦らなくていい」

生い茂る木々の僅かな隙間から差し込む月明かりの下、セルゲイと悠里は地面に腰を下ろし静かに佇む。視線は蝶に向けつつも、同時に全身の感覚を研ぎ澄ませてその空間そのものを感じた。蝶がいる環境を理解するためだ。

木々の匂い、草の匂い、土の匂い、空気の匂い。

街からはそう離れていないので排気ガスの臭いなども届いてくるものの、それも含めての<環境>だ。

セルゲイを真似て悠里もゆっくりと呼吸をし、この空間そのものと一体化する。

すると、悠里の脳内に、木漏れ日の中でひらひらと飛び交う蝶の姿が浮かび上がった。

人間の開発により生息範囲を狭められつつも新しい環境に適応し命を繋いでいこうとする蝶の力が見えた気がした。

それがまた心地好い。

『いつまででもこうしてられそうだ……』

そんなことも思う。地面から必要なものが自身の中に流れ込んでくる気さえした。

事実、吸血鬼はそういう形でエネルギーを得ることもできる。ただしこの場合は、

『エネルギーとして蓄える』

のではなく、あくまで、

『地球自体がもつエネルギーそのものを自身の力として利用する』

という感じではあるが。

これができるから、吸血鬼は、その体が蓄えることができるもの以上の途方もない力を発揮することができると言えるだろう。

それが判明したことも、吸血鬼が<吸血>に依存せずに済んでいる理由の一つだった。かつては吸血によってのみ大きな力を発揮できると信じられていたのを否定することができたからだ。

吸血はあくまで『きっかけ』でしかない。他の生き物の血、特に人間のそれを摂取することで自身の力を効率的に活用できるという、ある意味、人間にとっての<ビタミンの一種>のような働きをしていることが確認されている。

欠乏すると身体の維持に支障をきたすが、だからといって吸血した対象を失血死させるほどは必要なかったのである。故に現在では輸血パックのそれを摂取する者も多かったのだった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

月弥総合病院

僕君☾☾
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。 また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。 (小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

最初から最強ぼっちの俺は英雄になります

総長ヒューガ
ファンタジー
いつも通りに一人ぼっちでゲームをしていた、そして疲れて寝ていたら、人々の驚きの声が聞こえた、目を開けてみるとそこにはゲームの世界だった、これから待ち受ける敵にも勝たないといけない、予想外の敵にも勝たないといけないぼっちはゲーム内の英雄になれるのか!

処理中です...