ショタパパ ミハエルくん(耳の痛い話バージョン)あるいは、(とっ散らかったバージョン)

京衛武百十

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安心して寝られて

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日本とトロントの時差は十三時間。半日以上のズレがある。つまり、完全に昼夜が逆転している状態だろう。しかしこれは逆に、夜が基本的な活動時間である吸血鬼やダンピールにとっては、アオや椿つばきの都合に合わせやすいという意味でもあるので、困ることはそれほどなかった。

アオについては元々昼夜逆転生活ではあるものの、夜は仕事に集中しているのでやはりその時間帯は外してもらえると都合がよかった。

そんなわけで、アオが仕事を一段落つけて、椿が起きて朝の用意を始める時間までは取り敢えず家族団欒はお預けだ。

それもあって、安和アンナは早々にショッピングに出掛けてしまったのもある。



一方、アオは仕事に集中していた。深夜三時を回りいよいよ筆が乗ってきている。一時間三千文字を越えるペースでテキストを入力していく。

アオは、どちらかと言うと、キャラクターがまずできて、キャラクターが勝手に話を進めてくれるタイプの作家なので、比較的、筆は早い方だと思われる。キャラクターが動いてさえくれれば。

その時には、アオ自身がその世界に入り込んできる状態でもあるので、描いているシーンによって表情が変わることも多い。特に、感情が昂ぶるシーンでは。

この時も、泣いてるような表情になったり、怒ってるような表情になったりと、傍目に見ている限りは忙しい様子だった。

もっとも、アオ自身は入り込んでいる状態なので、ほとんど自覚はない。

やがて空が白みだすと、ようやく手を止めて、すっかり冷め切ったコーヒーを口にした。

『五時前か……ちょっと休憩しようかな』

口には出さずにそう考えて、自分の腰の辺りに意識を向ける。と、そこには何とも言えないぬくもりがあった。寝ている椿の足が触れているからだった。

蒼井家では、寝る時は大体誰かと一緒だった。特に椿が寝る時には、必ず誰かが傍にいた。だからこうしてミハエルと悠里ユーリ安和アンナが家にいない間は、アオが傍にいる。

椿が寝付くまで一緒に横になり、彼女が完全に寝るとおもむろに起きあがって、ベッドの足下に備え付けたテーブルにパソコンを置いて仕事をする形だった。

こうなると、

『睡眠の邪魔になるのでは?』

という心配をする向きがあるかもしれないけれど、実際にはこうやってアオが傍にいる方が椿も安心して寝られて睡眠が深くなるので、問題はなかった。

それどころか、さすがに幼いだけあって少々寝相の悪い椿は、ベッドの上に胡坐をかいて座るアオの太ももに足を乗せて寝ていることも多い。しっかり寝ているもののどうやら無意識のうちにそうしてしまうらしい。

また、アオの方も椿が触れてくれていることが心地好くて、敢えてそのままにしておくのだった。

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