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用心
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ここまで出会った人間と比べるとかなり異質な印象もあるボリスに戸惑っていた悠里と安和だけど、さすがにすぐにそんな状況も受け止められた。
加えて、ボリスの方も吸血鬼と付き合いがあるくらいなので、
「まあ、取り敢えず一眠りしな。部屋はちゃんと暗くできるようになってるからよ」
と、しっかりと遮光カーテンで閉ざされた部屋に案内してくれた。これまでにも何度かセルゲイが訪れていることもあって、心得たものだ。
その気遣いにも、
『悪い人じゃないんだな』
と悠里は納得する。
とは言え、ただの善人でもないことは感じられた。政情不安な国で、人から任されたものとはいえ会社経営をしてるくらいだから、綺麗事だけではやっていられないのも確かだろう。
ゲリラから会社を守るために銃を使ったことも一度や二度ではないことは、この事務所に漂う硝煙の匂いと、外の壁の弾痕からもすぐに分かる。
これもまた、人間の世界の現実。
まだ十三歳、十二歳といえど、仮にも超常の存在である悠里と安和にはそれを受け止められるだけの素養もある。
それでもセルゲイは二人に、
「僕達は、拳銃くらいでは死なないけど、さすがに重機関銃とかで頭を粉々にされたりしたらその限りじゃない。ここにいる間は僕とミハエルが二人を守る。ただし、二人も油断はしないように。
いいね」
「うん」
「分かった」
それを確かめた後、アオと連絡を取る。
でも、それは匿名化ソフトを通じて、かついくつものプロキシサーバーを通じてのものだった。こういうところでは通信を傍受される可能性もあるので、用心の上に用心を重ねてのことである。
それもあり、静止画像と文字のみのやり取りだった。
ただしこれだとアオが納得してくれないので、ベネズエラに滞在する期間は三日間だけである。その後はコロンビアに移動することが決まっている。
コロンビアも地域によっては渡航中止勧告が出されているような、とても<安全>とは言えない国であるものの、それでも事実上の内戦状態にあるベネズエラに比べるとまだ観光客も結構訪れるような国ではあるので、そういう意味ではいくらかマシだろう。
「あんまり心配させないでよ」
不満そうなアオの画像とメッセージを受け取って、
「ごめん。だけどちゃんと気を付けるから」
とミハエルは返した。
その後、美千穂にもメッセージを送る。無事に旅を続けていることを知らせるためだ。
「じゃあ、一休みしよう」
そうしてミハエルと子供達は眠り、しかしセルゲイは眠らずに部屋で待機していた。万が一の事態に備えてである。
本当はそこまでする必要はなかったものの、アオから子供達を預かっている以上は万が一すらあってはいけないからだった。
加えて、ボリスの方も吸血鬼と付き合いがあるくらいなので、
「まあ、取り敢えず一眠りしな。部屋はちゃんと暗くできるようになってるからよ」
と、しっかりと遮光カーテンで閉ざされた部屋に案内してくれた。これまでにも何度かセルゲイが訪れていることもあって、心得たものだ。
その気遣いにも、
『悪い人じゃないんだな』
と悠里は納得する。
とは言え、ただの善人でもないことは感じられた。政情不安な国で、人から任されたものとはいえ会社経営をしてるくらいだから、綺麗事だけではやっていられないのも確かだろう。
ゲリラから会社を守るために銃を使ったことも一度や二度ではないことは、この事務所に漂う硝煙の匂いと、外の壁の弾痕からもすぐに分かる。
これもまた、人間の世界の現実。
まだ十三歳、十二歳といえど、仮にも超常の存在である悠里と安和にはそれを受け止められるだけの素養もある。
それでもセルゲイは二人に、
「僕達は、拳銃くらいでは死なないけど、さすがに重機関銃とかで頭を粉々にされたりしたらその限りじゃない。ここにいる間は僕とミハエルが二人を守る。ただし、二人も油断はしないように。
いいね」
「うん」
「分かった」
それを確かめた後、アオと連絡を取る。
でも、それは匿名化ソフトを通じて、かついくつものプロキシサーバーを通じてのものだった。こういうところでは通信を傍受される可能性もあるので、用心の上に用心を重ねてのことである。
それもあり、静止画像と文字のみのやり取りだった。
ただしこれだとアオが納得してくれないので、ベネズエラに滞在する期間は三日間だけである。その後はコロンビアに移動することが決まっている。
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「あんまり心配させないでよ」
不満そうなアオの画像とメッセージを受け取って、
「ごめん。だけどちゃんと気を付けるから」
とミハエルは返した。
その後、美千穂にもメッセージを送る。無事に旅を続けていることを知らせるためだ。
「じゃあ、一休みしよう」
そうしてミハエルと子供達は眠り、しかしセルゲイは眠らずに部屋で待機していた。万が一の事態に備えてである。
本当はそこまでする必要はなかったものの、アオから子供達を預かっている以上は万が一すらあってはいけないからだった。
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