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第二幕
椿の日常 その15
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休日の朝。皆でリビングで寛ぎながら、アオの話は続く。
「子供がやらかしちゃうのを、<子供自身の資質>ってことにしたいのは、結局、親が自分の責任にされたくないからだよね? それ以外に、『子供自身の資質の所為にする』ことのメリットなんてある? 私にはまったく思い付かないよ。
<問題が発生する理由や原因を客観的に検証することを避けるメリット>
なんてさ」
それに対して、安和が言う。
「でも、だからって<親の所為>にばっかりしてたら、子供の方が調子に乗っちゃわないかな? 『自分が何やったって、親の所為にしときゃいい!』みたいにさ」
するとアオは、自分に<意見>する安和に対しても、ムッとしたような様子はまったく見せずに、
「まあね。確かに<子供視点>でとにかく親の所為にばっかりしてるのは、これはこれで『自分を省みる』ってことができてないわけだから、問題だとは思う。私が言ってるのは、あくまで<親視点>での話なんだよね。
親の立場で、『子供が勝手にやったことだから自分には責任はない』とか考えるのは、結局、『自分以外の誰かの所為にしてる』ってことじゃん? だから逆に、子供の立場で見たら、『自分がこんなになったのは、親の所為!』みたいに言うのは、これまた、『自分以外の誰かの所為にしてる』ってことだよね。
だから、子供目線だと、『親の所為にするな!』っていう意見はもっともだと思う。それは決して悪いことじゃないよ」
ちゃんと、安和の意見もまっとうなものであることを認める。認めた上で、
「ただ、親である私としては、<子供の所為>にはできないんだよ。だって、安和や悠里や椿を生んだのは、私の勝手なんだからさ。
安和は、私のお腹の中に来る時、私に、『お腹の中に入っていい?』って訊いた?」
と尋ねる。それに対しては安和も、
「いや、さすがにそれはない。私はダンピールだけど、そっち方向のオカルトは信じてないし、実際、言った覚えもねーから」
きっぱりと否定した。そこでアオは、
「悠里や椿はどう? お願いした覚えある?」
二人にも訊いた。けれど二人とも、
「ううん」
「言ってないと思う」
とのことだった。
だから、アオは聞いた覚えがなく、子供達は言った覚えがない。つまり、
『子供達が『生んでくれ』と頼んだ事実はない』
ということだ。
この事実がある以上、アオが、
『子供達の承諾も受けずに勝手にこの世に送り出した』
のは、覆しようのない現実である。その現実から目を背けていて、いったい、何が<大人>なのか。
アオはそれを子供達に示す。
こうして、普段の何気ない会話の中で、椿は、そういうことを学んでいくのだった。
「子供がやらかしちゃうのを、<子供自身の資質>ってことにしたいのは、結局、親が自分の責任にされたくないからだよね? それ以外に、『子供自身の資質の所為にする』ことのメリットなんてある? 私にはまったく思い付かないよ。
<問題が発生する理由や原因を客観的に検証することを避けるメリット>
なんてさ」
それに対して、安和が言う。
「でも、だからって<親の所為>にばっかりしてたら、子供の方が調子に乗っちゃわないかな? 『自分が何やったって、親の所為にしときゃいい!』みたいにさ」
するとアオは、自分に<意見>する安和に対しても、ムッとしたような様子はまったく見せずに、
「まあね。確かに<子供視点>でとにかく親の所為にばっかりしてるのは、これはこれで『自分を省みる』ってことができてないわけだから、問題だとは思う。私が言ってるのは、あくまで<親視点>での話なんだよね。
親の立場で、『子供が勝手にやったことだから自分には責任はない』とか考えるのは、結局、『自分以外の誰かの所為にしてる』ってことじゃん? だから逆に、子供の立場で見たら、『自分がこんなになったのは、親の所為!』みたいに言うのは、これまた、『自分以外の誰かの所為にしてる』ってことだよね。
だから、子供目線だと、『親の所為にするな!』っていう意見はもっともだと思う。それは決して悪いことじゃないよ」
ちゃんと、安和の意見もまっとうなものであることを認める。認めた上で、
「ただ、親である私としては、<子供の所為>にはできないんだよ。だって、安和や悠里や椿を生んだのは、私の勝手なんだからさ。
安和は、私のお腹の中に来る時、私に、『お腹の中に入っていい?』って訊いた?」
と尋ねる。それに対しては安和も、
「いや、さすがにそれはない。私はダンピールだけど、そっち方向のオカルトは信じてないし、実際、言った覚えもねーから」
きっぱりと否定した。そこでアオは、
「悠里や椿はどう? お願いした覚えある?」
二人にも訊いた。けれど二人とも、
「ううん」
「言ってないと思う」
とのことだった。
だから、アオは聞いた覚えがなく、子供達は言った覚えがない。つまり、
『子供達が『生んでくれ』と頼んだ事実はない』
ということだ。
この事実がある以上、アオが、
『子供達の承諾も受けずに勝手にこの世に送り出した』
のは、覆しようのない現実である。その現実から目を背けていて、いったい、何が<大人>なのか。
アオはそれを子供達に示す。
こうして、普段の何気ない会話の中で、椿は、そういうことを学んでいくのだった。
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