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第三幕
自分の両親の姿を見て学んできた
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「うーっ!」
それまで普通に椿や<智香>や<来未>と仲良くボードゲームで遊んでた紫音がいきなり、不満気に声を上げた。
ルーレットで出た数字が悪くて、トラップに嵌ってしまったんだ。それが納得できなくて感情的になってしまったのが、隣の<書斎>にいた僕にも伝わってくる。
実は、遊び部屋をガレージの中に作ったのは、こういうことも想定してのものだった。
子供は経験が浅く未熟だから、どうしても自分の感情を上手く抑えられないことが多い。となれば当然、諍いになる場合もある。その気配を、就寝中のアオには伝えたくないんだ。彼女には、周囲の騒音に煩わされることなくゆっくり休んでもらいたい。
そして今回、紫音が上げた声も、当然、アオの寝室には届かない。
その上で、僕は注意深く様子を窺う。
椿がそれに対処できるなら任せておくけど、彼女もまだまだ未熟な子供だから、必ずしも適切な対処ができるとは限らない。その場合に僕が、<人生の先輩>として仲裁に入る。それが<大人の役目>だ。
「ルーレットでそう出たんだから、しょうがないでしょ…!」
結果を承服できずに不満気な態度を見せた紫音に、その場の空気が一瞬で悪くなる。だから智香がついそう紫音を諫めたんだ。けれどそれは、火に油を注ぐことにしかならなかった。
これまで自分に対して威圧的でなかった智香が豹変したことに紫音の感情がさらに昂る。結果、
「あーっ!!」
癇癪を起した紫音が、ボード上に置かれたコマを乱暴に払い除ける気配。
となると当然、智香も来未もいい気はしない。
「なにすんの! せっかく遊んであげてたのに!」
『遊んであげてた』
ああ、こういう事態ではあまり好ましくない言い方だ。相手に対して自分の行いを<恩>として押し付けるようなそれは、さらなる反発を招くことの方がずっと多い。
だけどこれも、智香や来未自身がまだまだ<未熟な子供>だから無理もないのも事実かな。二人を責めるのも実は好ましくない。
そして二人は、
「もういい! こんなの面白くない! 帰る!」
「ホントだよ! 最悪!」
吐き捨てるように言って立ち上がり、帰ってしまった。
「ごめんね」
二人が部屋を出ていこうとしたところに椿がそう声を掛けると、
「つーちゃんは悪くないよ…でも、あの紫音って子、よっぽど親に甘やかされてるんだね」
「そうそう。ちょっと自分の思うようにならなかったからってあんなキレるとか」
声を潜めて言ってきた。
『親に甘やかされてる』
こういう話の時に必ずと言っていいほど出る<常套句>。でも、二人は知らないんだ。彼は『甘やかされてる』んじゃなく、『抑圧されてる』んだってことを。
家ではずっと抑圧されてきたから、自分の感情が上手く制御できない。制御の仕方を学んできてないんだ。
むしろ、
『自分の思う通りにならない時には声を荒げるもの』
と、自分の両親の姿を見て学んできたんだよ。
それまで普通に椿や<智香>や<来未>と仲良くボードゲームで遊んでた紫音がいきなり、不満気に声を上げた。
ルーレットで出た数字が悪くて、トラップに嵌ってしまったんだ。それが納得できなくて感情的になってしまったのが、隣の<書斎>にいた僕にも伝わってくる。
実は、遊び部屋をガレージの中に作ったのは、こういうことも想定してのものだった。
子供は経験が浅く未熟だから、どうしても自分の感情を上手く抑えられないことが多い。となれば当然、諍いになる場合もある。その気配を、就寝中のアオには伝えたくないんだ。彼女には、周囲の騒音に煩わされることなくゆっくり休んでもらいたい。
そして今回、紫音が上げた声も、当然、アオの寝室には届かない。
その上で、僕は注意深く様子を窺う。
椿がそれに対処できるなら任せておくけど、彼女もまだまだ未熟な子供だから、必ずしも適切な対処ができるとは限らない。その場合に僕が、<人生の先輩>として仲裁に入る。それが<大人の役目>だ。
「ルーレットでそう出たんだから、しょうがないでしょ…!」
結果を承服できずに不満気な態度を見せた紫音に、その場の空気が一瞬で悪くなる。だから智香がついそう紫音を諫めたんだ。けれどそれは、火に油を注ぐことにしかならなかった。
これまで自分に対して威圧的でなかった智香が豹変したことに紫音の感情がさらに昂る。結果、
「あーっ!!」
癇癪を起した紫音が、ボード上に置かれたコマを乱暴に払い除ける気配。
となると当然、智香も来未もいい気はしない。
「なにすんの! せっかく遊んであげてたのに!」
『遊んであげてた』
ああ、こういう事態ではあまり好ましくない言い方だ。相手に対して自分の行いを<恩>として押し付けるようなそれは、さらなる反発を招くことの方がずっと多い。
だけどこれも、智香や来未自身がまだまだ<未熟な子供>だから無理もないのも事実かな。二人を責めるのも実は好ましくない。
そして二人は、
「もういい! こんなの面白くない! 帰る!」
「ホントだよ! 最悪!」
吐き捨てるように言って立ち上がり、帰ってしまった。
「ごめんね」
二人が部屋を出ていこうとしたところに椿がそう声を掛けると、
「つーちゃんは悪くないよ…でも、あの紫音って子、よっぽど親に甘やかされてるんだね」
「そうそう。ちょっと自分の思うようにならなかったからってあんなキレるとか」
声を潜めて言ってきた。
『親に甘やかされてる』
こういう話の時に必ずと言っていいほど出る<常套句>。でも、二人は知らないんだ。彼は『甘やかされてる』んじゃなく、『抑圧されてる』んだってことを。
家ではずっと抑圧されてきたから、自分の感情が上手く制御できない。制御の仕方を学んできてないんだ。
むしろ、
『自分の思う通りにならない時には声を荒げるもの』
と、自分の両親の姿を見て学んできたんだよ。
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