だから人間は嫌いなんだ……!

京衛武百十

文字の大きさ
11 / 100

どれだけ僕を煩わせれば

しおりを挟む
飲まず食わず休まずで、糞も小便も垂れ流しながら祈りを捧げてた生贄が、ようやく気を失って倒れたことに、僕はホッとしていた。後はこのまま放っておけば勝手に死んでくれる。それで終わりだ。

……終わりなんだ……

だけど、僕の頭によぎるのは、これまでここで僕に仕えて命を終えた無数の生贄達の姿。

自ら進んで生贄になった者。

脅されて仕方なく生贄になった者。

自分が生贄だってことも分からずに来た者もいたな。

ほとんどは女だったけど、何人か男だったこともある。

逃げ出して野垂れ死んだり、村に戻って殺されたりしたのはともかく、ここに残って命を終えた者達は、皆、なぜか僕に感謝しながら死んでいった。

「ありがとう」

「ありがとうございます」

って……

別に、僕は何もしてない。ただ、生贄達が生きていけるように、食べ物とかは十分に採れるようにしていただけだ。

中には病で死んだ者もいる。

僕は、雨を降らせたり雷を呼んだり地を慄かせたり湖を割ることもできるけど、病気を治すことはできなかった。なのに、

「ありがとうございます」

とか言いながら死んでいったんだ……

何が『ありがとう』なのか、分からないよ……

そんな生贄達の姿を思い出してると、なんだかたまらない気分になってきた。こういうのが嫌だから関わり合いたくなかったのに……!

無視して寝ていようと思うのに、寝られない。

ちくしょう……

なんでだよ……

自分でも分からないうちに僕はまた人間の体を作って、洞を歩いていた。祠がある辺りに向けて。

祠は、洞を少し入ったところに建てられていた。その祠の奥に進むと、生贄達が作った集落がある。確か、男の生贄が、洞の外の木を切って運んで最初に家を建てたのが始まりだったかな。

その男は、後から来た生贄の娘達にも家の作り方を教え、そうして新しく生贄が来るたびに新しく家を建てていって、十数軒の家が並ぶ小さな集落が出来上がったんだ。

生贄の娘達も家の作り方を学び、次の生贄の娘に伝えていって、自分達で集落を維持してた。

だけど、住む者も直す者もいなくなったそれらは、徐々に朽ちて倒れ、もう、今ではまともに建ってるのは一軒だけになってしまってた。それさえ、そう遠くないうちに崩れ落ちるに違いない。

僕はそんな集落を通り抜け、祠までやってきた。

糞と小便に塗れた人間の匂いがそれだけ強くなる。心臓の音も喉を通る息の音も聞こえる。気は失ってるけど、本当に死ぬにはまだ何日かかりそうなのが分かった。

ふざけるな……

本当にふざけるな……!

勝手に押しかけてこんなところで勝手に死ぬとか、どれだけ僕を煩わせれば気が済むんだよ、人間……!

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

最初から最強ぼっちの俺は英雄になります

総長ヒューガ
ファンタジー
いつも通りに一人ぼっちでゲームをしていた、そして疲れて寝ていたら、人々の驚きの声が聞こえた、目を開けてみるとそこにはゲームの世界だった、これから待ち受ける敵にも勝たないといけない、予想外の敵にも勝たないといけないぼっちはゲーム内の英雄になれるのか!

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~

ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。 休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。 啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。 異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。 これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...