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圧倒的な力を前にしても諦めない自分
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<邪を祓い正義を成す宝剣>
人間はよく、そんなふれこみで剣を打つが、本気でそんなものを信じているのか?
いいように騙されているだけだぞ?
その<権威>を後ろ盾にしている連中に。
人間は、そうやって無知蒙昧な衆愚から利を吸い上げるためにも、僕を利用しようとする。この大嵐はそういうお前達への<報い>でもあるかもしれないな。
お前達が信じている<権威>など、何の意味もないことをいい加減に思い知れ。
なのに、ザンカは、痺れた手で剣を拾い上げ、再び僕の前足に打ち付けてきた。
でも、やっぱり、
ギィイイイイィィンッッ!!
と音を立てて鱗に弾かれ、
「うああ……っ!」
ザンカは手の痺れに苦悶する。
無駄だというのがなぜ分からんかな。
そもそも、今、僕が前足の爪を突き立ててやればお前は呆気なく死ぬんだ。
<圧倒的な力を前にしても諦めない自分>
に酔うのは勝手だが、そんな自己満足のために僕を煩わせるな。
なのに、ザンカは、何度も何度も剣を僕に打ち付けた。
「俺が…! 俺が守るんだ……! 俺がみんなを……」
とかなんとか、呪文のように繰り返しながら。
雨に打たれてるから分かり難いが、涙と鼻水もダラダラと垂らしているだろう。
そんな人間の無様な姿を楽しむ趣味は僕にはない。
だから、いっそ一思いに突き殺して楽にしてやろうと前足の指を持ち上げた時、
「……」
ザンカの体が崩れ落ちるようにして倒れ伏した。
ここに来るまでもそうだし、僕の前に立ってからもずっとこの滝のような雨に打たれ続けたことで、体を動かすための熱が足りなくなったんだ。
人間が自前で作り出せる熱なんてたかが知れてるからな。
このまま放っておいてもすぐに心の臓が止まって死ぬが……
「……」
僕は、ザンカの体をつまみあげ、服をはぎ、雨で体を洗って、洞へと入った。そして奥まで進み、僕の体で熱を生み、その場を温める。人間の体温と変わらないくらいの温度だ。
その上でザンカの体を僕の寝床を囲む湖に浸して、少しずつ温度を上げていってやる。いきなり上げると逆に冷え切った体が壊れてしまうしな。
そうしていると、
「う……」
ザンカが小さく呻いた。体をよじり、目を開ける……
と、
「……!?」
自分を見下ろしてる僕に気付いて、体を起こそうとした。
でも、力が入らないようで、起こせない。
「あたたかい……? 湯か……? このまま俺を煮て喰うつもりか……?」
自分の体が思うに任せないことに歯噛みしながら、ザンカは言った。
ことここにいたっても身の程をわきまえんこいつに呆れながらも、僕は、
「我は人間なぞ喰わん。お前達人間は邪念塗れで不味いからな」
改めて告げてやったのだった。
人間はよく、そんなふれこみで剣を打つが、本気でそんなものを信じているのか?
いいように騙されているだけだぞ?
その<権威>を後ろ盾にしている連中に。
人間は、そうやって無知蒙昧な衆愚から利を吸い上げるためにも、僕を利用しようとする。この大嵐はそういうお前達への<報い>でもあるかもしれないな。
お前達が信じている<権威>など、何の意味もないことをいい加減に思い知れ。
なのに、ザンカは、痺れた手で剣を拾い上げ、再び僕の前足に打ち付けてきた。
でも、やっぱり、
ギィイイイイィィンッッ!!
と音を立てて鱗に弾かれ、
「うああ……っ!」
ザンカは手の痺れに苦悶する。
無駄だというのがなぜ分からんかな。
そもそも、今、僕が前足の爪を突き立ててやればお前は呆気なく死ぬんだ。
<圧倒的な力を前にしても諦めない自分>
に酔うのは勝手だが、そんな自己満足のために僕を煩わせるな。
なのに、ザンカは、何度も何度も剣を僕に打ち付けた。
「俺が…! 俺が守るんだ……! 俺がみんなを……」
とかなんとか、呪文のように繰り返しながら。
雨に打たれてるから分かり難いが、涙と鼻水もダラダラと垂らしているだろう。
そんな人間の無様な姿を楽しむ趣味は僕にはない。
だから、いっそ一思いに突き殺して楽にしてやろうと前足の指を持ち上げた時、
「……」
ザンカの体が崩れ落ちるようにして倒れ伏した。
ここに来るまでもそうだし、僕の前に立ってからもずっとこの滝のような雨に打たれ続けたことで、体を動かすための熱が足りなくなったんだ。
人間が自前で作り出せる熱なんてたかが知れてるからな。
このまま放っておいてもすぐに心の臓が止まって死ぬが……
「……」
僕は、ザンカの体をつまみあげ、服をはぎ、雨で体を洗って、洞へと入った。そして奥まで進み、僕の体で熱を生み、その場を温める。人間の体温と変わらないくらいの温度だ。
その上でザンカの体を僕の寝床を囲む湖に浸して、少しずつ温度を上げていってやる。いきなり上げると逆に冷え切った体が壊れてしまうしな。
そうしていると、
「う……」
ザンカが小さく呻いた。体をよじり、目を開ける……
と、
「……!?」
自分を見下ろしてる僕に気付いて、体を起こそうとした。
でも、力が入らないようで、起こせない。
「あたたかい……? 湯か……? このまま俺を煮て喰うつもりか……?」
自分の体が思うに任せないことに歯噛みしながら、ザンカは言った。
ことここにいたっても身の程をわきまえんこいつに呆れながらも、僕は、
「我は人間なぞ喰わん。お前達人間は邪念塗れで不味いからな」
改めて告げてやったのだった。
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