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2章
56話 裁縫とは忍耐
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裁縫ギルド、このギルドだけは他の所と一線を画す程に違いがある。
まずこのギルドに常駐しているプレイヤーの8割は女性だ。年齢幅は下から上まで、さらに言えば服の種類というかジャンルも凄い。カジュアルから始まり、ロックやらギャルやらゴスロリやら……防具ってそういう事じゃないよね?
まあ自由度が高いのは売りだし、こういう服装系もリアルじゃ色々大変だからゲーム内で楽しむってのも理解はできる、何て言ったって私自身がそういうのを楽しんで自作銃とか火薬とか製造しているから同じ穴の狢なのはわかる。
ただ、熱量の差がとてつもなく違う、素材さえあればいくらでも生産出来るし、時間に関しては現実の4倍もあるわけだし、さらに言えばインベントリは無限、すぐに着替えも出来るし場所も取らない、髪の毛のセットもメイクも自由自在。好きな人にとっちゃ天国と同様だ。
そんなある意味で魔境である裁縫ギルドの生産施設に足を踏み入れたが、気迫度が違いすぎるせいで軽く防具の新調が出来ればいいかなーとか思っていたら申し訳ない気持ちになってくる。前に麻紐と言うか導火線を作りに来た時はさっさと出てきたからこんな状況になっているとは知らなかった。
同じ女性ではあるが、あまり服装に拘らないのでこの手の物はちょっと分からない。仕事も基本的にスーツだし。部屋着なんてスウェットジャージ族だ。
「……特殊プレイしてるのって押しが強いと言うか我しかないというか……」
眉間に手を当てて唸りながら、この現状に諦めをせざるを得ない。今、私の目の前には、私よりもでかい女性服を着ているいかついゴリマッチョな男がじっくり見つめている。
「はぁい、あなた、折角可愛いのにそんな恰好してちゃだめでしょぉ?」
おお、この威圧感半端ねえ……下手なゲームのラスボスよりもインパクトあるぞ。リアルな知り合いもいるがここまでがっつりではなかったが、初見じゃかなりこれトラウマじゃないのか?
私の容姿を見て、あれやこれや言っている。長身で黒髪ロング、赤い目つきの悪い四白眼でギザ歯よ?今まで触れていなかったけど、私って鱗まで真っ黒だっていうのにどこが良いのかさっぱり分からない。って言うかこのままこの流れだと時間をロスする。
「うんうん、わかったわかった、後で聞くから」
とりあえず一番近くにあった裁縫施設に座り込み、拾ってきた麻を麻糸に変換していく。しゅるしゅると麻が糸になっていく工程は自動的になっていくが、改めてみるとこれ面白いな。
麻3つで糸1つ、するっと10個分を生産。鍛冶もそうだが、そのうちこれもSLvが上がったら1:1レートで変換できるようになったりすると楽なんだが。
「んー……やっぱりもうちょっと裁縫上げておきたい」
裁縫の初級レシピは貰っていたので改めて確認するが、ずらずらと並んでいる量が半端ない。糸の製法、布に始まり、小物から大物、何か色々ある。とりあえず麻布を作って今のローブよりも動きやすくて防御力のある装備を狙いたいのだが……。
「ねえ、あなた、これ着て見てくれない?」
「ちょっと今考え事してるから!」
珍しく声を上げてゴリマッチョを制する。そのまま「よよよ」としな垂れて座り啜り泣き始めてる。何でこうもめんどくさいのばかり集まるんだろうか。
「ひ、ひどいっ、折角似合う服があるのに……!」
ハンカチを取り出してぐいーっと噛んで引っ張っている。で、泣いている所に他のオネェやら女性プレイヤーが慰め始めている。
そんな事よりも今は何を作るかが問題であって、初級レシピでどこまで作れるかもある。一応並んでいる候補はあるけど、あまりいい物と言うか、狙っているようなものは無い、そもそも軽装しか着込めない上にチュニックやローブやらがメインだ。かといってレッドコートの様なものは装飾が邪魔だし「ねぇ」一般的な洋服にボディアーマーやプロテクターを付ける方針の方が「ねぇってば」いいんじゃないかな?そうなってくると木工系の装備で硬さもありつつ、ある程度の堅牢さを持ち合わせた奴を……。
「ちょっと聞け!」
「なによ!」
人間時間の無い時に限って邪魔されると機嫌が悪くなる。鼻息荒くしてこっちを見てるゴリマッチョをいつもの様と言うか機嫌の悪い時に見せる目つきで睨み返す。
「そんなにレシピ見て何を探してるのよ」
「……軽装の防具だよ」
ちらっと見てからまた並んでいるレシピを確認してめぼしい物が無いか見ていくが、やっぱり良い物はない。しょうがない、納品クエストをこなすか……と思っていたのだが。
「あたしの用意した服を着たら、作ってあげないこともないわよぉ?」
「そこらにいっぱいいる他のプレイヤーに頼めばいいだろう」
「やーねぇ、あなたみたいな長身のイケメンじゃないと着れないのもあるのよぉ」
インベントリから出してくるのは真っ白いフリル盛り沢山の豪華なドレスだが、リアルでもゲームでも着るのを遠慮したい。って言うか、他の可愛い奴に着せろと。
「フルダイブって凄いわね、それを見た瞬間に寒気がしたわ」
「着たら、あなたにぴったりの防具作ってあげるわよぉ、ちょーっと着るだけで理想の防具が貰えるなんてすごくない?」
このゴリマッチョ、私の欲しい物をいい感じに察してやがる。
「しかも見ない顔だし、あなたイベントに合わせて装備作りにきたんでしょっ、あたしには分かるわ!」
「……裁縫レベルいくつだよ……!」
「あたし、これでも裁縫Lv15なのよ!ギルドレベルだって7なんだから!」
ああ、うん、これはもう交渉の余地はないな……確実にβ組だろうし、単純に相手の提案を受けて、ほしい物作ってもらった方が楽なのは確実だが、何か負けた気もするし悔しい所ではある。しかし着たら着たで色々と面倒な事も起こりそうだが……。
「びた一文払わんし、今回だけだ」
「あらぁ、いいわねぇ、はいこれっ」
アイテムの渡しを許可しドレスを受け取る。アイテムデータとして存在しているので装備をしていく訳だが、どういうアイテムなんだろうと確認する。
名称:純白のドレス 防具種:ドレス
必要ステータス:無し
防御力:0
詳細:愛と筋肉が完成させたフリル盛り盛りの可愛い全振りの見た目装備
屈辱ではないが、私にこういう趣味はない、そう、これも防具の為、防具の為……そう言い聞かせながら装備欄を選択していき、ドレスを装備する。
ちなみに着替えはワンタッチ、何も装備してないときはTシャツ短パンサンダルはデフォになる。
ふんわりとしたドレスの中身はいかついドラゴニアン、尻尾の部分は勝手に穴が開いたので、しっかりと外に出ている。黒と白の対比がいいんだろうか?オネェ軍団と周りにいた裁縫ガチ勢がじっくりとこっちを見てあーだこーだ言い始めている。
「やっぱりもうちょっとフリルを抑えた方が?」
「アクセントに差し色とか欲しい」
「いや、真っ白なのがいいんじゃない」
と、まあ色々騒いでいるが、私としてはこの辱めをさっさと抜け出して装備欲しい。むしろ装備作っていたい。そもそも距離が近いんだよ、鼻息当たってんぞ、お前。
「あぁー、やっぱりいいわぁ、この対比、パーフェクトっ!」
「……はよ終われ……」
しばらくモデルというかマネキン扱いされてから解放される。結局あれから同じようなドレスを2,3着着せられ、自爆した時よりも精神ダメージが大きい。でもこれでマシな防具がてにはいるんだから安いもんさ、時間と精神ダメージで手に入るんだから。
こんなに大量に作るならクラン作って総合デパートみたいな事やったほうがいいじゃないか?それとも作って売るのはいやなんだろうか。
「はあ、満足……それで、どんなのがいいのぉ?」
「覚えてろ筋肉オネェめ……軽装で動きやすくてこれに合うやつ」
インベントリからパイプライフルを取り出して見せてから、それを肩掛けにした姿を見せる。じっくりと見てから納得したように頷いているが、本当にわかってんのか。
「いいわぁ、でもぉ、出来るのは時間かかるわねぇ……イベント受注でちょーっと忙しくなっちゃったし?」
「間に合えばいいわよ、もう……機能性重視なの忘れるんじゃないわよ」
一応念の為に釘をさしておく。言って置かないとフリルまみれの服で戦わなきゃいけなさそうだし。っていうかどこに行ってもこんな色物ばっかり会う呪いでも掛けられてるのか、私は。
「色物は色物に惹かれるとかないよなあ……」
ごりごりな女装マッチョがスキップして自分の作業場に行っている様子を見てこのゲームで一番深いため息を吐き出し。とりあえず硝石を稼ぎに行こう。
残り9時間。
まずこのギルドに常駐しているプレイヤーの8割は女性だ。年齢幅は下から上まで、さらに言えば服の種類というかジャンルも凄い。カジュアルから始まり、ロックやらギャルやらゴスロリやら……防具ってそういう事じゃないよね?
まあ自由度が高いのは売りだし、こういう服装系もリアルじゃ色々大変だからゲーム内で楽しむってのも理解はできる、何て言ったって私自身がそういうのを楽しんで自作銃とか火薬とか製造しているから同じ穴の狢なのはわかる。
ただ、熱量の差がとてつもなく違う、素材さえあればいくらでも生産出来るし、時間に関しては現実の4倍もあるわけだし、さらに言えばインベントリは無限、すぐに着替えも出来るし場所も取らない、髪の毛のセットもメイクも自由自在。好きな人にとっちゃ天国と同様だ。
そんなある意味で魔境である裁縫ギルドの生産施設に足を踏み入れたが、気迫度が違いすぎるせいで軽く防具の新調が出来ればいいかなーとか思っていたら申し訳ない気持ちになってくる。前に麻紐と言うか導火線を作りに来た時はさっさと出てきたからこんな状況になっているとは知らなかった。
同じ女性ではあるが、あまり服装に拘らないのでこの手の物はちょっと分からない。仕事も基本的にスーツだし。部屋着なんてスウェットジャージ族だ。
「……特殊プレイしてるのって押しが強いと言うか我しかないというか……」
眉間に手を当てて唸りながら、この現状に諦めをせざるを得ない。今、私の目の前には、私よりもでかい女性服を着ているいかついゴリマッチョな男がじっくり見つめている。
「はぁい、あなた、折角可愛いのにそんな恰好してちゃだめでしょぉ?」
おお、この威圧感半端ねえ……下手なゲームのラスボスよりもインパクトあるぞ。リアルな知り合いもいるがここまでがっつりではなかったが、初見じゃかなりこれトラウマじゃないのか?
私の容姿を見て、あれやこれや言っている。長身で黒髪ロング、赤い目つきの悪い四白眼でギザ歯よ?今まで触れていなかったけど、私って鱗まで真っ黒だっていうのにどこが良いのかさっぱり分からない。って言うかこのままこの流れだと時間をロスする。
「うんうん、わかったわかった、後で聞くから」
とりあえず一番近くにあった裁縫施設に座り込み、拾ってきた麻を麻糸に変換していく。しゅるしゅると麻が糸になっていく工程は自動的になっていくが、改めてみるとこれ面白いな。
麻3つで糸1つ、するっと10個分を生産。鍛冶もそうだが、そのうちこれもSLvが上がったら1:1レートで変換できるようになったりすると楽なんだが。
「んー……やっぱりもうちょっと裁縫上げておきたい」
裁縫の初級レシピは貰っていたので改めて確認するが、ずらずらと並んでいる量が半端ない。糸の製法、布に始まり、小物から大物、何か色々ある。とりあえず麻布を作って今のローブよりも動きやすくて防御力のある装備を狙いたいのだが……。
「ねえ、あなた、これ着て見てくれない?」
「ちょっと今考え事してるから!」
珍しく声を上げてゴリマッチョを制する。そのまま「よよよ」としな垂れて座り啜り泣き始めてる。何でこうもめんどくさいのばかり集まるんだろうか。
「ひ、ひどいっ、折角似合う服があるのに……!」
ハンカチを取り出してぐいーっと噛んで引っ張っている。で、泣いている所に他のオネェやら女性プレイヤーが慰め始めている。
そんな事よりも今は何を作るかが問題であって、初級レシピでどこまで作れるかもある。一応並んでいる候補はあるけど、あまりいい物と言うか、狙っているようなものは無い、そもそも軽装しか着込めない上にチュニックやローブやらがメインだ。かといってレッドコートの様なものは装飾が邪魔だし「ねぇ」一般的な洋服にボディアーマーやプロテクターを付ける方針の方が「ねぇってば」いいんじゃないかな?そうなってくると木工系の装備で硬さもありつつ、ある程度の堅牢さを持ち合わせた奴を……。
「ちょっと聞け!」
「なによ!」
人間時間の無い時に限って邪魔されると機嫌が悪くなる。鼻息荒くしてこっちを見てるゴリマッチョをいつもの様と言うか機嫌の悪い時に見せる目つきで睨み返す。
「そんなにレシピ見て何を探してるのよ」
「……軽装の防具だよ」
ちらっと見てからまた並んでいるレシピを確認してめぼしい物が無いか見ていくが、やっぱり良い物はない。しょうがない、納品クエストをこなすか……と思っていたのだが。
「あたしの用意した服を着たら、作ってあげないこともないわよぉ?」
「そこらにいっぱいいる他のプレイヤーに頼めばいいだろう」
「やーねぇ、あなたみたいな長身のイケメンじゃないと着れないのもあるのよぉ」
インベントリから出してくるのは真っ白いフリル盛り沢山の豪華なドレスだが、リアルでもゲームでも着るのを遠慮したい。って言うか、他の可愛い奴に着せろと。
「フルダイブって凄いわね、それを見た瞬間に寒気がしたわ」
「着たら、あなたにぴったりの防具作ってあげるわよぉ、ちょーっと着るだけで理想の防具が貰えるなんてすごくない?」
このゴリマッチョ、私の欲しい物をいい感じに察してやがる。
「しかも見ない顔だし、あなたイベントに合わせて装備作りにきたんでしょっ、あたしには分かるわ!」
「……裁縫レベルいくつだよ……!」
「あたし、これでも裁縫Lv15なのよ!ギルドレベルだって7なんだから!」
ああ、うん、これはもう交渉の余地はないな……確実にβ組だろうし、単純に相手の提案を受けて、ほしい物作ってもらった方が楽なのは確実だが、何か負けた気もするし悔しい所ではある。しかし着たら着たで色々と面倒な事も起こりそうだが……。
「びた一文払わんし、今回だけだ」
「あらぁ、いいわねぇ、はいこれっ」
アイテムの渡しを許可しドレスを受け取る。アイテムデータとして存在しているので装備をしていく訳だが、どういうアイテムなんだろうと確認する。
名称:純白のドレス 防具種:ドレス
必要ステータス:無し
防御力:0
詳細:愛と筋肉が完成させたフリル盛り盛りの可愛い全振りの見た目装備
屈辱ではないが、私にこういう趣味はない、そう、これも防具の為、防具の為……そう言い聞かせながら装備欄を選択していき、ドレスを装備する。
ちなみに着替えはワンタッチ、何も装備してないときはTシャツ短パンサンダルはデフォになる。
ふんわりとしたドレスの中身はいかついドラゴニアン、尻尾の部分は勝手に穴が開いたので、しっかりと外に出ている。黒と白の対比がいいんだろうか?オネェ軍団と周りにいた裁縫ガチ勢がじっくりとこっちを見てあーだこーだ言い始めている。
「やっぱりもうちょっとフリルを抑えた方が?」
「アクセントに差し色とか欲しい」
「いや、真っ白なのがいいんじゃない」
と、まあ色々騒いでいるが、私としてはこの辱めをさっさと抜け出して装備欲しい。むしろ装備作っていたい。そもそも距離が近いんだよ、鼻息当たってんぞ、お前。
「あぁー、やっぱりいいわぁ、この対比、パーフェクトっ!」
「……はよ終われ……」
しばらくモデルというかマネキン扱いされてから解放される。結局あれから同じようなドレスを2,3着着せられ、自爆した時よりも精神ダメージが大きい。でもこれでマシな防具がてにはいるんだから安いもんさ、時間と精神ダメージで手に入るんだから。
こんなに大量に作るならクラン作って総合デパートみたいな事やったほうがいいじゃないか?それとも作って売るのはいやなんだろうか。
「はあ、満足……それで、どんなのがいいのぉ?」
「覚えてろ筋肉オネェめ……軽装で動きやすくてこれに合うやつ」
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「いいわぁ、でもぉ、出来るのは時間かかるわねぇ……イベント受注でちょーっと忙しくなっちゃったし?」
「間に合えばいいわよ、もう……機能性重視なの忘れるんじゃないわよ」
一応念の為に釘をさしておく。言って置かないとフリルまみれの服で戦わなきゃいけなさそうだし。っていうかどこに行ってもこんな色物ばっかり会う呪いでも掛けられてるのか、私は。
「色物は色物に惹かれるとかないよなあ……」
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