最強と言われてたのに蓋を開けたら超難度不遇職

鎌霧

文字の大きさ
246 / 625
8章

229話 通すべき筋

しおりを挟む
 第二エリア周辺までのボスは全滅させてやった。
 そう言ってもゲーム内時間1日で復活するからまた倒しには行けるんだけどな。

「そういう訳だから戻っていーわよ」
「……ええー……」
「クビにするならちゃんと退職金渡してやらんか」
「散々ドロップ品上げたからいーじゃない、2日間たらいまわしにした割には良い金額稼げたし」

 そういうとさっと顔を背ける。どうやら相当良い感じに稼げたドロップ品があったようだな。みぞおちにしっかり入るくらいの図星を付きあげてやったぜ。

「折角ヒーラー手に入ったのになぁ」
「なら回復弾でも作るか?」

 ああ、そういえば、属性弾を作るって言って結局作っていないな。今度特殊な奴も開発するかな。

「え、じゃあ、これで終わりですか……?」
「まー、たまには顔出しなさい?」
「何かすっごいあっさりじゃないですか!?あれだけ僕の事使ったのに!?」

 そりゃそうだろ、だって所属が変わるってだけで会おうと思えばすぐに会えるし?今生の別れって訳でもない、それくらいカジュアルな付き合いなんだからしょうがないのになあ。

「じゃあ、犬野郎に宜しくね」
「二度と来ないから!アカメさんの薄情者!」

 捨て台詞の様な事を言いつつ、犬耳がクランハウスを飛び出していく。そのうち私のクラン、動物園とか言われそうだな。猫とトカゲと犬がいたわけだし。

「アカメよ、もうちょっと優しくしてやった方が良かったんじゃないのか?」
「そう?イベントの時みたいにあんたとバトルジャンキーを連れまわしてた時に比べりゃ大分優しいわよ」

 振り回してたけど目的は全部決まっていたし、あまり無茶と言うか、回復が間に合わないレベルに敵と殴り合いするって事はしなかったしなあ。
 大変だったっていってもヒーラー役として、其れ以上の事を求めていたわけでも、要求していたわけでもないし……何だったらお客様だから、大分甘くしてたはずなのだが。

「まあ、悪いようにはしてないのは事実だからいいじゃない」
「毎回毎回周りに敵を作るのは勘弁してもらいたいのだがな、折角酒造倶楽部を作ったと言うに」
「私がいなかったら出来なかった事じゃないの」

 まぁな、と言いながらクランハウスの売上を確認してから出ていくのを見送ってため息一つ。よくよく考えてみたら髭親父との関係って大体同じような感じだったな。

 ……ちょっとだけ思ったが、うちのクランに固執と言うか居座る理由ってのは全員が全員もう少ないんだよな。
 髭親父の奴に関しては仲間内で酒造も出来ているし、そっちメインのクランを建ててやってもいいから、うちで使われるよりはそっちの方が良いだろうな。
 バトルジャンキーの奴も一時的に誘ったから、抜けようと思えばすぐに抜けてあっちこっちにふらふらとするほうが性に合っている。
 トカゲもそうだな、ヘパイストスで自由気ままに銃器を作っている方が良い気がする。
 これに関しては猫耳もそうだな、結構焚きつけてうちのクランに入って貰ったから、何かのタイミングで別の所に行っても止められない。
 ポンコツピンクは……多分残るかな。あいつ行き場所無いし、私にあこがれていたと聞くけど……いつかは放流して自分の力でどうにかしろと言ってやらないと。

 こう考えてみたら、どういう結束力で維持してんだろう……って思ったが、基本的には金だな。
 経済力が結束力に直結しているから、破産したら終わりか。

「どうした、ボス?」
「うちの財力が無かったら、あんた達どーした?」
「別に?俺はあれこれ考えんの好きだし、ボスがおもしれーから。じゃあ属性弾でも研究してくら」

 トカゲの奴が何言ってんだって顔をしつつクランショップで手頃な素材を見繕いに行っている。

「あたしも別に変わんないかなぁ、勿論有った方が色々我儘聞いて貰えるけどぉ、無茶ぶりしても許してくれる時点でありだしぃ」

 案外人物評価が高いんだな、こいつらは。ちょっと感動するけど、泣きはしないわ。

「物好きな奴らよ、ほんと」
「それアカメちゃんが言うー?」

 そういわれると弱いのは確かなんだが、大体MMOの廃人に付いてきている奴なんて、大体こんな感じだよな。散々言ってきたが、結局は類を友を呼ぶって事なんだろう。

 少しばかりため息を吐き出しつつ、葉巻を咥えて火を付けようとした時に、犬耳が帰ってくる。まだ出ていって数分しか経っていないってのに、もう戻りたくなったのか。

「……アカメさんに、お客さんです」
「はいはい、ったく……こっちは火付ける前だってのに」

 葉巻を咥えたまま店先に降りると、商売敵が立っている。
 あー、ついに折れたか。




 目の前にいる水色髪の青い目のヒューマン。服装と言うか防具もあまり目立ったような所も無いので全てにおいて私に喧嘩売ってるとしか思えない。

「すいません、此方のクランマスターでしょうか」
「そうよ。用件は」
「えっとですね、例のクラン間のごたごたについてでして」

 それ以外に何があるんだ?
 心の底で物凄い下に見てから咥えていた葉巻をインベントリに仕舞い、サイオンを呼ぶ。
 何をしているのか分からないと言う顔で此方を見ている横で、情報クランにもあった防音の個室を1Fの奥にさくっと購入して増築。50万Z也。

 で、さらに言えば猫耳が作っておいた余りものの家具があるのでさくっとテーブルと椅子を配置。あいつ、そろそろ石工でもやってくれねーかな。

 とりあえず準備らしい準備が出来たので、サイオンに部屋に案内するように言って、先に部屋の奥の方に座る。
 そして先程仕舞って置いた葉巻を取り出して咥えて少し待つと、サイオンに呼ばれて偽物が部屋に入ってくるので、座らせる。
 勿論サイオンはサイオンで私の葉巻に火を付けて傍に控える敏腕秘書っぷりを発揮。

「で、どうして欲しいって?」
「僕がクラン模倣したのは謝ります、その上で現状の経済的な制裁を緩和してほしいです」
「謝罪と経済制裁緩和の要求ね」

 机に脚を上げて組んだ状態にしてから相手を見据える。まさかそれくらいで私が許すとでも思ってるあまちゃんだと思っているのかな。
 ついでにサイオンへの個別チャットでログとSSは残しておけと耳打ちしておく。
 
 ちなみにやっていた経済制裁についてだが、はっきり言えば向こうには売ってない商品、ドロップ品、品揃えでとにかくごり押したってだけで、別に経済制裁何て事はしていなかったりする。

「後は、クラン員の人が流した噂や、罵詈雑言に付いても謝罪するので、運営に報告はご勘弁を」

 机に手をついて頭を下げてくる。まあ、そりゃそうだろ。
 思いっきり葉巻を吸いこみ、大きく紫煙を吐き出してからじっと相手を見据える。

「私はね、平和にゲームをしたいわけ、人間関係のトラブルや、ごたごたで余計な心労を使いたくないの」

 足を下ろして、葉巻を上下に揺らしつつ淡々と。

「別に良いのよ、模倣しようが、丸パクリしようが、私にとっちゃ大前提が覆されなければ好きにやりゃいいのよ」

 こっちと目を合わせて黙って話を聞いているのだが、まあ、その辺口答えしないだけマシだな。

「ただね、あんたはその一線を越えたのよ。プレイヤーも増えるからごたごたやトラブルが増えるってのも分かるし、ゲームの古参がどうとかってのは後からプレイし始めた人にとっちゃただ単にうざったいだけの老害と変わらないのも分かるわ」

 葉巻の灰をサイオンが持っていた灰皿に落としてまた口に咥え。

「あんたがクランマスターとして模倣クランを動かしているなら、クラン員が勝手にやっている、言った事は抑えなきゃいけないし、あんたが本物って言うなら本物らしく構えてほしいのよ」

 思ったほど早く葉巻を吸い切ったな。結構イライラしてるって事か。
 とりあえずサイオンが持っていた灰皿に葉巻をぐりぐりと押し付けて火を消しておく。

「何が一番ムカつくって、あんたが自分たちのクラン員の制御も出来なきゃ、そうそうに心折れて頭下げてんのが一番ムカつくのよ」

 「ガン」とまた机に脚を強めに上げて大きくため息を吐き出す。

「……自分で舵を切れないんだったらやめちまえ。少し言われたぐらいでぐずぐずになって内部崩壊させてるってどういう事なのよ」

 メニューからかなりの量のメッセージ一覧を見ながら少しずつ自分が冷めていくのを感じる。

「少し突かれただけでクラン員が脱退。こっちが本家だと言うのと、大きく言うのはまずいっていうので対立。ああ、これもあるね、あんた達が私のクランで買い物をしただけで喧嘩。で、あんたはその時何をしていたわけ?」

 ま、返事が返ってくる期待はしてないわ。

「自分だけが楽しくゲームをしていればいい訳じゃないでしょ、自分が立ち上げて自分で人を集めてゲームをしていたのは事実だってのに……そもそも、まず私に謝る前にクラン員に頭を下げて、説明するのが筋でしょ、やったの?」
「いえ……まだ……」
「だったら先に自分たちでしっかり話して、ちゃんと解決しろ。模倣しているって事は別に咎めないし、最初から頭下げてやったら融通利かせてやったってのに」

 何度目かの大きいため息を吐き出してから立ち上がる。

「もう一回言うけど、自分たちのクランで一度話し合って、ケリをつけてからもっかい謝りに来い。それが終わるまではうちのクランハウスに来るじゃないわよ」

 サイオンにぴっと合図を出してから個室を出てさっさと2Fに行き、トカゲとジャンキー、犬耳が出迎えてくる。

「ご立腹だなボス」
「例のクランのマスターでしたっけ……」
「アカメちゃんこわーい」

 どかっと大きいソファに座って葉巻を咥えると、シオンが火を付ける。
 こういう話するのほんと好きじゃないってのになあ……。

「お客様がお帰りになりました」
「サイオンにはそのまま業務戻らせて」

 かしこまりました、と、シオンが言うが中身は一緒だからしょうがないな。

「はぁー……説教垂れるのほんと苦手だわ」
「やっぱり頭使わないでぶっ放しているほうが良いってか?」
「あー、いいわね……みんなでボスでもいこっか」
「……さっき僕はクビになりましたから」
「じゃあ再雇用な」

 吸いかけの葉巻でぴっと指してからにまぁっと笑う。向こうは向こうで諦めの顔をしながら付いてくるのを了承している。

「……やっぱアカメちゃん、面白いよねぇ」

 けらけらと笑っているジャンキーがどうして離れてないのかちょっと分かった気がする。
しおりを挟む
感想 43

あなたにおすすめの小説

【完結】VRMMOでチュートリアルを2回やった生産職のボクは最強になりました

鳥山正人
ファンタジー
フルダイブ型VRMMOゲームの『スペードのクイーン』のオープンベータ版が終わり、正式リリースされる事になったので早速やってみたら、いきなりのサーバーダウン。 だけどボクだけ知らずにそのままチュートリアルをやっていた。 チュートリアルが終わってさぁ冒険の始まり。と思ったらもう一度チュートリアルから開始。 2度目のチュートリアルでも同じようにクリアしたら隠し要素を発見。 そこから怒涛の快進撃で最強になりました。 鍛冶、錬金で主人公がまったり最強になるお話です。 ※この作品は「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過した【第1章完結】デスペナのないVRMMOで〜をブラッシュアップして、続きの物語を描いた作品です。 その事を理解していただきお読みいただければ幸いです。 ─────── 自筆です。 アルファポリス、第18回ファンタジー小説大賞、奨励賞受賞

転生したみたいなので異世界生活を楽しみます

さっちさん
ファンタジー
又々、題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… 沢山のコメントありがとうございます。対応出来なくてすいません。 誤字脱字申し訳ございません。気がついたら直していきます。 感傷的表現は無しでお願いしたいと思います😢 ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

オネエ伯爵、幼女を拾う。~実はこの子、逃げてきた聖女らしい~

雪丸
ファンタジー
アタシ、アドルディ・レッドフォード伯爵。 突然だけど今の状況を説明するわ。幼女を拾ったの。 多分年齢は6~8歳くらいの子。屋敷の前にボロ雑巾が落ちてると思ったらびっくり!人だったの。 死んでる?と思ってその辺りに落ちている木で突いたら、息をしていたから屋敷に運んで手当てをしたのよ。 「道端で倒れていた私を助け、手当を施したその所業。賞賛に値します。(盛大なキャラ作り中)」 んま~~~尊大だし図々しいし可愛くないわ~~~!! でも聖女様だから変な扱いもできないわ~~~!! これからアタシ、どうなっちゃうのかしら…。 な、ラブコメ&ファンタジーです。恋の進展はスローペースです。 小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。(敬称略)

【完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。

鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。 鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。 まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。 ──────── 自筆です。

もふもふと味わうVRグルメ冒険記 〜遅れて始めたけど、料理だけは最前線でした〜

きっこ
ファンタジー
五感完全再現のフルダイブVRMMO《リアルコード・アース》。 遅れてゲームを始めた童顔ちびっ子キャラの主人公・蓮は、戦うことより“料理”を選んだ。 作るたびに懐いてくるもふもふ、微笑むNPC、ほっこりする食卓―― 今日も炊事場でクッキーを焼けば、なぜか神様にまで目をつけられて!? ただ料理しているだけなのに、気づけば伝説級。 癒しと美味しさが詰まった、もふもふ×グルメなスローゲームライフ、ここに開幕!

莫大な遺産を相続したら異世界でスローライフを楽しむ

翔千
ファンタジー
小鳥遊 紅音は働く28歳OL 十八歳の時に両親を事故で亡くし、引き取り手がなく天涯孤独に。 高校卒業後就職し、仕事に明け暮れる日々。 そんなある日、1人の弁護士が紅音の元を訪ねて来た。 要件は、紅音の母方の曾祖叔父が亡くなったと言うものだった。 曾祖叔父は若い頃に単身外国で会社を立ち上げ生涯独身を貫いき、血縁者が紅音だけだと知り、曾祖叔父の遺産を一部を紅音に譲ると遺言を遺した。 その額なんと、50億円。 あまりの巨額に驚くがなんとか手続きを終える事が出来たが、巨額な遺産の事を何処からか聞きつけ、金の無心に来る輩が次々に紅音の元を訪れ、疲弊した紅音は、誰も知らない土地で一人暮らしをすると決意。 だが、引っ越しを決めた直後、突然、異世界に召喚されてしまった。 だが、持っていた遺産はそのまま異世界でも使えたので、遺産を使って、スローライフを楽しむことにしました。

お荷物認定を受けてSSS級PTを追放されました。でも実は俺がいたからSSS級になれていたようです。

幌須 慶治
ファンタジー
S級冒険者PT『疾風の英雄』 電光石火の攻撃で凶悪なモンスターを次々討伐して瞬く間に最上級ランクまで上がった冒険者の夢を体現するPTである。 龍狩りの一閃ゲラートを筆頭に極炎のバーバラ、岩盤砕きガイル、地竜射抜くローラの4人の圧倒的な火力を以って凶悪モンスターを次々と打ち倒していく姿は冒険者どころか庶民の憧れを一身に集めていた。 そんな中で俺、ロイドはただの盾持ち兼荷物運びとして見られている。 盾持ちなのだからと他の4人が動く前に現地で相手の注意を引き、模擬戦の時は2対1での攻撃を受ける。 当然地味な役割なのだから居ても居なくても気にも留められずに居ないものとして扱われる。 今日もそうして地竜を討伐して、俺は1人後処理をしてからギルドに戻る。 ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を私に近づいた時にそれは起こる。 ニヤついた目をしたゲラートが言い放つ 「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」 全員の目と口が弧を描いたのが見えた。 一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。 作品紹介に出てる人物、主人公以外重要じゃないのはご愛嬌() 15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...