最強と言われてたのに蓋を開けたら超難度不遇職

鎌霧

文字の大きさ
341 / 625
12章

316話 ファン感謝祭

しおりを挟む
「なんでもできるからって変な物作りすぎですよ」
「だからこそ現実じゃ出来ないことをやるんでしょ」

 そう言いながら焙烙玉を渡して投げろと言いつつ、ちんちくりんの頭に肘をついて体重を掛けてからあの辺がいいと指をさす。

「こうやって肘掛けにしてるのもですかー」
「丁度いいのよね、大きさ」

 手渡しておいた焙烙玉に火を付けて、わざわざ投げさせ、派手な花火を打ち上げる。もうちょっと鉱石があれば色付けてもっと派手に出来るんだけど、所謂一般的なゲームで出てくる鉱石しか見つけられてないのがネックになっている。

「やっぱりいい火力出るわよね、私の爆弾って」
「そういえば初めて見たときは地面吹っ飛ばしてましたね」
「そんな事もあったなあ」

 あの時は刻印銃と銃剣でよく立ちまわっていたもんだ。一か月前の話だけど、それでもなかなか昔のように感じるのは歳のせいかな。
 
「実は火炎瓶なんですけどアカメさんじゃない所から売りに来たんですよね」
「結構向こうの手が早いな……ちなみにどんなの?」
「えっとこれですね」

 ちんちくりんのところのクラン員に前線を任せて、少し下がってからその売りきた火炎瓶を受け取り確認。この間見たものと一緒の0.2ℓ……ではないな0.1ℓ火炎瓶だ。消耗品は生産者の名前が表記されないので足が付かないってのも中々分かっているな。

「これ使ってみた?」
「中身が少ないんで動作のわりに、ですね。アカメさんが対人の時に使ってたものと比べるとお粗末にも程があります」

 何て言うか、結構毒を平気で吐くようになってきたんだよなあ。まだまだゲーム初心者だったころの面影よりも、しっかりできる男になってきた気がする。

「中々言う様になってるじゃない」
「これでも大手クランのマスターなんですよ?」

 ふふんとちょっと得意げな顔をするのでわしゃわしゃと撫でまわしてやる。私の気に障った事を恨むがいい。

「今どれくらい人数いるのよ」
「えーっと、132人ですね」
「100人超えてたら大手になるのか……うちなんて10人もいないのに」
「知ってるところだと1000人規模で、そこから副マスターが10人いて100人単位で管理してるって」
「うっわ、めんどくせえ……何かやらかしたら責任追及されんのトップじゃん」

 人数が多いから管理しやすいように人数切って分けてるんだろうけど、そこまでして管理しなきゃいけないならソロでやってる方が楽だよ。確か150人くらいが人間覚えられる限界らしいから、其れ以上とかマジで無理。

「まあ、そう言う事は人数持ってる連中が悩めばいいから、今私の悩みは商売敵の話よ」
「ま、そうですね……まだ火炎瓶以外の物は持ってきてないですけど、数で責めてきてる感じです」

 アルコール量を減らして数を揃えて儲けを出すって感じなのはちんちくりんも感じていたか。いや、確かに量を減らしてアルコール0.1ℓ当たりの値段を考えていくと数を増やして儲けを増やすってのは良い手段だな。
 ただ、そのアイテムの信用度って部分を差し引かないと行けないのを考えると、儲けは出るけど次に続かない場合があるだろうに、その辺は全くもって考慮しないんだな。

「今回のイベントでとにかく人数の多い所を狙って売りまくる手法かあ……プレイヤーも多いし、大手回ったらダメージは少ないか」
「イベント後に使うか使わないかで言えば、使わないですかね、量の少ない奴は」
「売り逃げするのは儲けるって言う点で言えば正しいんだろうけど、うちは定期購入を狙ってるから」

 とりあえず火炎瓶3ダース、焙烙玉1ダースを取り出してちんちくりんに投げておく。顔なじみって事だから今回に関しては試供品って事にしておいてやろう。

「良いんですか、こんなに」
「全部で100万くらいするけどまけといてやる」
「僕の頭は一生肘掛け扱いですね、これじゃあ」

 でも、そんなに悪い気でもないってのは分かってる。これが真面目な相手だったら、本気で申し訳ないって思って金を用意したり、何だかんだと言ってくるだろう。

「丁度いいサイズなのよね、ドワーフって」
「ああ、もう……アカメさんくらいですよ、僕の頭を肘掛けにするの」
「そうかしらねえー?」

 ふふっと笑いながら戦況を眺めて、ちんちくりんのクラン員を眺める。いつぞやの初心者組も向こうで頑張っているみたいだし、そろそろお暇するか。

『ボス、火炎瓶の値段いくら?』
『単品なら1.5kダースで12kだけど、幾つ出すんだ』
『えーっと、配信見てた人で、とりあえず1ダースかな』

 ポンコツの配信使ったからポンコツに直接取引を持ち掛けるってのは当たり前の話だった。あいつにはもうちょっと火炎瓶持たせておけばよかった。細かいところで詰めが甘いのは悪い癖。
 ちんちくりんに人差し指を立ててちょっと待てとジェスチャーしながらポンコツからどういう状況かを聞きながら、メモを取る。

『……分かった、もう少ししたら戻るわ』
『はやくしてー!』
「と、言う訳だからそろそろ戻る」
「アカメさんならその物量生かして襲撃イベントも上位狙えそうなのに、やらないんですか」
「勝てない勝負に乗るほど酔狂じゃないのよ、私って」

 ヘルムのフェイスガードから出ているちんちくりんのデコにぺちんとでこぴん一発。「あた」っと小さい呻き声を漏らしてから食らった所を押さえてむすっとした顔で此方を向いてくる。何となくだが、納得いっていないような返答にむすっとしている。
 あんたとやったイベントはまずグループ分けしていて人数の有利不利はなかったし、その200人の中で勝負だったから勝ち目があると思ったのよ……それでも個人じゃ結局負けたんだけどさ。

「ああ、そうそう、どっかでギャザラーいたら教えてくれない?」
「アカメさんの頼み事って大体めんど……厄介ですよね」
「誉め言葉として受け取っておくから」

 ぷらぷらと手を振ってその場を後にし、ポンコツの所へと。






「あんた、結構有名人なのね」

 南エリア3-2の一角、ポンコツピンクがもみくちゃにされている所にやってくる。
 今日の主戦場は西側なのだが、ジャンキー組のピンクと紫は南側に出張中で、紫髪はモンスターの群れの中に突っ込んで行って音信不通だとか。
 で、一応のバックアップとして後ろに控えていたポンコツは、この間の配信もあってファンに囲まれてもみくちゃにされているってわけよ。

「ボスのせいじゃんかぁ!」
「いいじゃない、結構貰ってるんでしょ」

 わいわいと持ち上げられているポンコツを見ながらどれくらい必要かの目測を立ててインベントリの在庫を確認しておく、まあそんなに数は出ないだろうよ、ポンコツが慌ててるのを見て楽しむもんだし。
 それはさておき、予め聞いておいた本数を用意し、人波かき分けてポンコツに渡して「お前がやれ」と言う感じににっこりと笑ってやってからその場を少し離れて様子を見る。
 流石に私に直接取引を持ち掛けてくる奴は何人かしかいなかったが、やっぱりポンコツのファンって事で集まっているからあんまり私が口出すってのもな。

「んあー!助けてよ、ボスー!」

 すっごいもみくちゃにされているポンコツピンクが助けてくれと言っているが、うん、傍から見てもあれはいっぱいいっぱいだな。
 とりあえずインベントリからG4を取り出して空に向かって何発か撃ち、注目を此方に向けてから「お前ら、一列に並べ」とCHの銃口で線を引くように動かしてからにこっと笑ってやる……なんだ結構素直な連中じゃないか、ちゃんと並んで火炎瓶買ったり、握手したりしてるし。

「ファンと暴徒は紙一重なんだから、ちゃんとあんたが手綱握って制御しなさい?」
「わかってるよう!」

 本当に分かってんのかね、こいつは。

「しっかり売ってうちの赤字を黒字にするのよ」

 こんなに襲撃イベント中に余裕持って動いてる所なんてないだろうな。

「すいません、この火炎瓶って商人プレイヤーから買った物じゃないんですか?」

 不意に貰った言葉に少しぽかんとした表情をしてしまったがすぐに持ち直し、心の中で冷静になるように徹してから葉巻を咥える。

「いや、うちのクランで作ったものだけど、その話どこから聞いたわけ?」
「自分のクランへ火炎瓶売りに来たプレイヤーがいて、ポンコツのクランが真似しているって」
「なるほどねぇ……それって容量幾らの物だった?」
「えっと0.4ℓでした」

 これで0.1~0.4ℓ容量の火炎瓶をライバル会社が回しているって事だな。流石に同じ容量で安い物を……って方式はとってこないあたり、やっぱりこっちに狙い撃ちしている感じ。
 
「ちなみになんだけどこれはあった?」

 焙烙玉一つ取り出して見せるが、流石にそれは首を横に振る。今でこそ安くなったけど、威力出すと結構な額突っ込まないと行けないからリスクは取らないわけか。ガンナーを囲って硝石やら確保して作らせるって手段もあると思うんだけど、その辺までは手を出していないのかな。

「ふむー……まあ、アイテムは使ってなんぼだし、うちで買ってくれるとポンコツのポンコツっぷりが見れるからそこが売りかしらね」

 葉巻と焙烙玉に着火し、紫煙を吸い込みつつ、ポンコツに向けて焙烙玉を投げて一声。テンパった様子で投げた焙烙玉を蹴り飛ばしてモンスターの一団で爆破。
 不意撃ちで投げたのもあって無理な体勢で蹴り飛ばしたってのもあって尻もちをついて怒るよりもぽかんとして周りのファンも驚いた顔でこっちを向くので口角を上げてギザ歯を見せる。

「よーし、お前ら……ポンコツと遊んでいけ」

 インベントリから焙烙玉を取り出して火を付けるのを見せつつ、1人1人に指を指してもう一度にんまりと笑う。

「本気出して逃げないとマジでやってくるからボスって!」

 折角のイベントなんだから楽しまないと損だろう?
 
しおりを挟む
感想 43

あなたにおすすめの小説

【完結】VRMMOでチュートリアルを2回やった生産職のボクは最強になりました

鳥山正人
ファンタジー
フルダイブ型VRMMOゲームの『スペードのクイーン』のオープンベータ版が終わり、正式リリースされる事になったので早速やってみたら、いきなりのサーバーダウン。 だけどボクだけ知らずにそのままチュートリアルをやっていた。 チュートリアルが終わってさぁ冒険の始まり。と思ったらもう一度チュートリアルから開始。 2度目のチュートリアルでも同じようにクリアしたら隠し要素を発見。 そこから怒涛の快進撃で最強になりました。 鍛冶、錬金で主人公がまったり最強になるお話です。 ※この作品は「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過した【第1章完結】デスペナのないVRMMOで〜をブラッシュアップして、続きの物語を描いた作品です。 その事を理解していただきお読みいただければ幸いです。 ─────── 自筆です。 アルファポリス、第18回ファンタジー小説大賞、奨励賞受賞

転生したみたいなので異世界生活を楽しみます

さっちさん
ファンタジー
又々、題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… 沢山のコメントありがとうございます。対応出来なくてすいません。 誤字脱字申し訳ございません。気がついたら直していきます。 感傷的表現は無しでお願いしたいと思います😢 ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

オネエ伯爵、幼女を拾う。~実はこの子、逃げてきた聖女らしい~

雪丸
ファンタジー
アタシ、アドルディ・レッドフォード伯爵。 突然だけど今の状況を説明するわ。幼女を拾ったの。 多分年齢は6~8歳くらいの子。屋敷の前にボロ雑巾が落ちてると思ったらびっくり!人だったの。 死んでる?と思ってその辺りに落ちている木で突いたら、息をしていたから屋敷に運んで手当てをしたのよ。 「道端で倒れていた私を助け、手当を施したその所業。賞賛に値します。(盛大なキャラ作り中)」 んま~~~尊大だし図々しいし可愛くないわ~~~!! でも聖女様だから変な扱いもできないわ~~~!! これからアタシ、どうなっちゃうのかしら…。 な、ラブコメ&ファンタジーです。恋の進展はスローペースです。 小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。(敬称略)

【完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。

鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。 鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。 まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。 ──────── 自筆です。

もふもふと味わうVRグルメ冒険記 〜遅れて始めたけど、料理だけは最前線でした〜

きっこ
ファンタジー
五感完全再現のフルダイブVRMMO《リアルコード・アース》。 遅れてゲームを始めた童顔ちびっ子キャラの主人公・蓮は、戦うことより“料理”を選んだ。 作るたびに懐いてくるもふもふ、微笑むNPC、ほっこりする食卓―― 今日も炊事場でクッキーを焼けば、なぜか神様にまで目をつけられて!? ただ料理しているだけなのに、気づけば伝説級。 癒しと美味しさが詰まった、もふもふ×グルメなスローゲームライフ、ここに開幕!

莫大な遺産を相続したら異世界でスローライフを楽しむ

翔千
ファンタジー
小鳥遊 紅音は働く28歳OL 十八歳の時に両親を事故で亡くし、引き取り手がなく天涯孤独に。 高校卒業後就職し、仕事に明け暮れる日々。 そんなある日、1人の弁護士が紅音の元を訪ねて来た。 要件は、紅音の母方の曾祖叔父が亡くなったと言うものだった。 曾祖叔父は若い頃に単身外国で会社を立ち上げ生涯独身を貫いき、血縁者が紅音だけだと知り、曾祖叔父の遺産を一部を紅音に譲ると遺言を遺した。 その額なんと、50億円。 あまりの巨額に驚くがなんとか手続きを終える事が出来たが、巨額な遺産の事を何処からか聞きつけ、金の無心に来る輩が次々に紅音の元を訪れ、疲弊した紅音は、誰も知らない土地で一人暮らしをすると決意。 だが、引っ越しを決めた直後、突然、異世界に召喚されてしまった。 だが、持っていた遺産はそのまま異世界でも使えたので、遺産を使って、スローライフを楽しむことにしました。

お荷物認定を受けてSSS級PTを追放されました。でも実は俺がいたからSSS級になれていたようです。

幌須 慶治
ファンタジー
S級冒険者PT『疾風の英雄』 電光石火の攻撃で凶悪なモンスターを次々討伐して瞬く間に最上級ランクまで上がった冒険者の夢を体現するPTである。 龍狩りの一閃ゲラートを筆頭に極炎のバーバラ、岩盤砕きガイル、地竜射抜くローラの4人の圧倒的な火力を以って凶悪モンスターを次々と打ち倒していく姿は冒険者どころか庶民の憧れを一身に集めていた。 そんな中で俺、ロイドはただの盾持ち兼荷物運びとして見られている。 盾持ちなのだからと他の4人が動く前に現地で相手の注意を引き、模擬戦の時は2対1での攻撃を受ける。 当然地味な役割なのだから居ても居なくても気にも留められずに居ないものとして扱われる。 今日もそうして地竜を討伐して、俺は1人後処理をしてからギルドに戻る。 ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を私に近づいた時にそれは起こる。 ニヤついた目をしたゲラートが言い放つ 「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」 全員の目と口が弧を描いたのが見えた。 一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。 作品紹介に出てる人物、主人公以外重要じゃないのはご愛嬌() 15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...