裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド

文字の大きさ
12 / 23
16歳(2回目)

7、2回目はカーターがアドの遺跡の「竜の心臓水晶」を獲得する

しおりを挟む




 ◇





満月の夜。

カーターはアドの街の東郊外にある遺跡に居た。この場所は先日のサイレーズ旅団がアジトにしていた場所だが、今はもう人は居ない。

そもそも満月の夜は術式が発動して「影の分身」が襲ってくる事が知れ渡っているので満月の今夜は誰もこの大広間には居なかった。

カーターと4戦目の「カーターの影の分身」以外は。

既に戦っていた。

「きっつうっ! 報酬が『竜の心臓水晶』だと知ってなきゃあとっくに逃げてるぞ、こんなのっ!」

文句を言いながら影の自分自身の剣での猛攻をカーターは総ていなしていた。

もうカーターが持つ錆びた剣の刀身は殆ど錆が剥がれて名刀の刀身が姿を見せている。それくらい「遺跡の影の行」のこれまでの戦いは激戦だった。

「うらぁぁぁっ!」

カーターが隙を見せた自分の影の胴に渾身の一撃を放つ。バシュッと致命傷を受けた影が消滅した。

「よっしゃあぁぁっ! 4体目をクリアぁぁぁっ! 残るは後1回っ!」

戦ってテンションが上がったのかカーターは吠えた。

またもや大広間の床に「影の行」の魔法陣が出現する。その後、大広間に居る人物の影が出現するはずだったが、5回目の魔法陣はデカかった。

「?」

そして巨大な魔法陣から出現したのはどう見ても全長20メートルはあろうかというアースドラゴンの影だった。大広間の4分の1の面積を占領している。

影であってもドラゴンなので凄い迫力だ。圧も凄い。

「はあ? 何で? こんなの聞いて――」

絶句したカーターだったが、すぐにピンときた。

1回目のゴフマンが「説明が面倒で黙ってやがったな」と。

「そうかっ! ゴフマンの奴、隠してやがったな。上等だ。やってやるぜっ!」

カーターはアースドラゴンの影に突っ込んでいった。

この「遺跡の影の行」は自分自身の影でも本人以上に強くて苦戦する。

それなのにアースドラゴンの影が出現したのだ。

アースドラゴンよりも強いなら勝てる訳がない。

巨大な尻尾払いをドゴッと喰らい、カーターは8メートルは吹き飛ばされた。意識が飛ぶ。

その意識が飛んだ時、カーターは白昼夢に襲われた。

まあ、夜なのだから白昼夢と呼ぶかは微妙だったが。





 ◆◆





カーターが見たのは1回目の時、ゴフマンが大広間の「遺跡の影の行」でアースドラゴンの影と戦ってるシーンだった。

突進を喰らったゴフマンが吹き飛んで壁に叩き付けられてバウンドして床に倒れる。もうゴフマンはボロボロで立つのがやっとだ。だがアースドラゴンの影は追撃してこない。

「どうして? そうか――影は光があるから出来る。この場所は満月の光が差し込んでいて入れないのか? なら――」

ゴフマンは大広間に差し込む満月の光を剣の刀身に反射させてアースドラゴンの影を照らした。満月の光を浴びたアースドラゴンの影が苦しみ出して最後には消え去る。

そしてゴゴゴッとカラクリの仕掛けが作動して台座が出現した。





 ◇





意識が飛んだのは一瞬だったっぽいが、意識が飛んだ事で白昼夢を見てアースドラゴンの影の攻略法を知ったカーターは「どうして白昼夢で1回目のゴフマンの戦いが見られたのか」は一切疑問に思わなかった。

何分、アースドラゴンの影との戦闘中で切迫していたので。アースドラゴンの影なんて咆哮してるし。

「実力勝負じゃなくてトンチが勝利の鍵ってか。そりゃあ、ゴフマンも隠す訳だぜ」

そう都合良く納得して、大広間に満月の光が差し込んでいる場所に飛び込んだ。

白昼夢で見た通りだ。アースドラゴンの影は満月の光が差し込む場所には入って来られない。

「勝利とは程遠いが、まあいいか」

錆が殆ど剥がれている刀身の腹で満月の光を反射させてカーターはアースドラゴンの影を撃退したのだった。





アースドラゴンの影が消えると同時にゴゴゴゴゴッと大広間の床のカラクリの仕掛けが動き出して本当に台座が出現した。

水晶の塊が台座には安置されていた。

無論、ただの水晶の塊ではなく「竜の心臓水晶」だ。

念願のアイテムの登場にカーターはゴクリッと喉を鳴らした。台座に近付く。これまでのカーターの影の攻撃で頬から出血していたのでその血を「竜の心臓水晶」に付けるとドクンッと「竜の心臓水晶」が脈打った錯覚を覚えた。

この竜の心臓水晶の契約の儀式は英雄譚に出てくるほど有名だ。間違いようがない。

カーターの血で覚醒した「竜の心臓水晶」の周囲に魔法陣が出現する。カーターの心臓部分にも魔法陣が現れた。魔法陣に包まれた「竜の心臓水晶」が浮遊してカーターの左胸の魔法陣の中に吸い込まれてカーターの心臓と融合してカーターの心臓がドクンッと脈打ち、

(これは拙い奴だ)

カーターはその場で気絶したのだった。





 ◇





遺跡の大広間でカーターが目覚めると夜が明けていた。

大広間にはカラクリの仕掛けで出現した台座はもうなかった。

カーターの身体に変化はないが、右手の平に意識して力を込めると雷撃がバチバチバチッと発生した。


「ゴフマンと同じ『雷竜の心臓水晶』な訳ね」

念願を果たして「竜の心臓水晶」をゲットしたカーターはニヤリと笑ったのだった。





御機嫌のカーターがアドの街に帰還すると、妻のアンがカーターが帰らぬ事で騒いでおり少し恥を掻く事になった。それを差し引いてもカーターは終始御機嫌だった。

それこそ妻のアンが「浮気をしたのではないか」と邪推するくらいに。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?

タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。 白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。 しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。 王妃リディアの嫉妬。 王太子レオンの盲信。 そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。 「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」 そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。 彼女はただ一言だけ残した。 「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」 誰もそれを脅しとは受け取らなかった。 だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。

悪役令嬢、休職致します

碧井 汐桜香
ファンタジー
そのキツい目つきと高飛車な言動から悪役令嬢として中傷されるサーシャ・ツンドール公爵令嬢。王太子殿下の婚約者候補として、他の婚約者候補の妨害をするように父に言われて、実行しているのも一因だろう。 しかし、ある日突然身体が動かなくなり、母のいる領地で療養することに。 作中、主人公が精神を病む描写があります。ご注意ください。 作品内に登場する医療行為や病気、治療などは創作です。作者は医療従事者ではありません。実際の症状や治療に関する判断は、必ず医師など専門家にご相談ください。

お前を愛することはないと言われたので、姑をハニトラに引っ掛けて婚家を内側から崩壊させます

碧井 汐桜香
ファンタジー
「お前を愛することはない」 そんな夫と 「そうよ! あなたなんか息子にふさわしくない!」 そんな義母のいる伯爵家に嫁いだケリナ。 嫁を大切にしない?ならば、内部から崩壊させて見せましょう

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

冤罪で山に追放された令嬢ですが、逞しく生きてます

里見知美
ファンタジー
王太子に呪いをかけたと断罪され、神の山と恐れられるセントポリオンに追放された公爵令嬢エリザベス。その姿は老婆のように皺だらけで、魔女のように醜い顔をしているという。 だが実は、誰にも言えない理由があり…。 ※もともとなろう様でも投稿していた作品ですが、手を加えちょっと長めの話になりました。作者としては抑えた内容になってるつもりですが、流血ありなので、ちょっとエグいかも。恋愛かファンタジーか迷ったんですがひとまず、ファンタジーにしてあります。 全28話で完結。

転落貴族〜千年に1人の逸材と言われた男が最底辺から成り上がる〜

ぽいづん
ファンタジー
ガレオン帝国の名門貴族ノーベル家の長男にして、容姿端麗、眉目秀麗、剣術は向かうところ敵なし。 アレクシア・ノーベル、人は彼のことを千年に1人の逸材と評し、第3皇女クレアとの婚約も決まり、順風満帆な日々だった 騎士学校の最後の剣術大会、彼は賭けに負け、1年間の期限付きで、辺境の国、ザナビル王国の最底辺ギルドのヘブンズワークスに入らざるおえなくなる。 今までの貴族の生活と正反対の日々を過ごし1年が経った。 しかし、この賭けは罠であった。 アレクシアは、生涯をこのギルドで過ごさなければいけないということを知る。 賭けが罠であり、仕組まれたものと知ったアレクシアは黒幕が誰か確信を得る。 アレクシアは最底辺からの成り上がりを決意し、復讐を誓うのであった。 小説家になろうにも投稿しています。 なろう版改稿中です。改稿終了後こちらも改稿します。

心が折れた日に神の声を聞く

木嶋うめ香
ファンタジー
ある日目を覚ましたアンカーは、自分が何度も何度も自分に生まれ変わり、父と義母と義妹に虐げられ冤罪で処刑された人生を送っていたと気が付く。 どうして何度も生まれ変わっているの、もう繰り返したくない、生まれ変わりたくなんてない。 何度生まれ変わりを繰り返しても、苦しい人生を送った末に処刑される。 絶望のあまり、アンカーは自ら命を断とうとした瞬間、神の声を聞く。 没ネタ供養、第二弾の短編です。

婚約破棄された公爵令嬢は冤罪で地下牢へ、前世の記憶を思い出したので、スキル引きこもりを使って王子たちに復讐します!

山田 バルス
ファンタジー
王宮大広間は春の祝宴で黄金色に輝き、各地の貴族たちの笑い声と音楽で満ちていた。しかしその中心で、空気を切り裂くように響いたのは、第1王子アルベルトの声だった。 「ローゼ・フォン・エルンスト! おまえとの婚約は、今日をもって破棄する!」 周囲の視線が一斉にローゼに注がれ、彼女は凍りついた。「……は?」唇からもれる言葉は震え、理解できないまま広間のざわめきが広がっていく。幼い頃から王子の隣で育ち、未来の王妃として教育を受けてきたローゼ――その誇り高き公爵令嬢が、今まさに公開の場で突き放されたのだ。 アルベルトは勝ち誇る笑みを浮かべ、隣に立つ淡いピンク髪の少女ミーアを差し置き、「おれはこの天使を選ぶ」と宣言した。ミーアは目を潤ませ、か細い声で応じる。取り巻きの貴族たちも次々にローゼの罪を指摘し、アーサーやマッスルといった証人が証言を加えることで、非難の声は広間を震わせた。 ローゼは必死に抗う。「わたしは何もしていない……」だが、王子の視線と群衆の圧力の前に言葉は届かない。アルベルトは公然と彼女を罪人扱いし、地下牢への収監を命じる。近衛兵に両腕を拘束され、引きずられるローゼ。広間には王子を讃える喝采と、哀れむ視線だけが残った。 その孤立無援の絶望の中で、ローゼの胸にかすかな光がともる。それは前世の記憶――ブラック企業で心身をすり減らし、引きこもりとなった過去の記憶だった。地下牢という絶望的な空間が、彼女の心に小さな希望を芽生えさせる。 そして――スキル《引きこもり》が発動する兆しを見せた。絶望の牢獄は、ローゼにとって新たな力を得る場となる。《マイルーム》が呼び出され、誰にも侵入されない自分だけの聖域が生まれる。泣き崩れる心に、未来への決意が灯る。ここから、ローゼの再起と逆転の物語が始まるのだった。

処理中です...