ギフトが【札束ビンタ】の冒険者は札束の代わりに硬貨を詰めた特注のモーニングスターを振り回して今日も相手を金の力で黙らせる

竹井ゴールド

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本編

閑話、「黒光の剣」の転落、冒険者ギルドの使用停止3日

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 ◆





サスの大森林の中層の「5段崖」ではラルクを追放した「黒光こくこうつるぎ」がサーベルタイガ一の上位種のサンダーサーベルタイガーと戦っていた。

雷を纏い、雷の咆哮で攻撃をしてくる強いモンスターだ。ランクは悠々のB。

だがランクBパーティー「黒光の剣」の冒険者4人も強い。

タンクのアンダーソンが盾で雷撃を防ぎ、負ったダメージをメイレイが回復し、強大な氷の攻撃魔法をソニャーが放ち、隙をついて近付いたアレックスが剣を振るう。

サンダーサーベルタイガーとの戦いは激闘に次ぐ激闘であった。

30分は戦っている。

それでも「黒光の剣」の4人には確証があった。

勝てる、という。

戦闘は徐々に「黒光の剣」が押し始めた。

サンダーサーベルタイガーの攻撃アクションも覚えた。長時間の戦闘で消耗したサンダーサーベルタイガーが放つ雷撃の威力も落ちてきている。

そして遂に、

「おらああああっ!」

アレックスが振った光を纏った剣がサンダーサーベルタイガーの右眼を取られた。眼だけではない。頭部に致命的な一撃だ。紫色の血を大量に流しながら、サンダーサーベルタイガーは背を向けて「5段崖」を跳んで登って逃げていく。

通常ならば追撃するところだが、

「ふ~。後は追うだけだな」

「ええ、回復をするわね」

「オレの腕も頼む」

「マナポーションを飲も」

信じられない事に4人はその場に座って呑気に休憩を始めたのである。

これが「黒光の剣」の本来のスタイルなのだから仕方がない。

本当はここに雑用係のラルクが居て休む事なく1で逃げたモンスターを追撃するのが「黒光の剣」のスタイルだったのだが。

今はラルクが不在なのに誰も追撃していなかった。

誰も戦闘直後に「5段崖」を登りたくなかったので。

座って呑気に喋りながら、

「やっぱりラルクが居なくても大丈夫だったな」

「もっと早く切るべきだったんだよ」

「本当ね」

「せいせいしたわ」

そんな事を軽食を取りながら喋ったのだった。

その後、10分の休憩を挟んでから追撃を開始したが、ここはサスの大森林の中層である。

鳥のモンスター3匹に襲われた。

空を飛んでいるモンスターだ。攻撃手段は限られている。

「チッ、面倒臭い。ソニャー」

「はいはい。氷の矢」

鳥のモンスターを攻撃魔法で討ち落とそうとしたが、中層のモンスターだけあって一撃では倒せない。1匹に付き、4発は攻撃魔法を撃つ破目になった。

ラルクをクビにした事で遠距離攻撃はソニャーしか担当がいないのだから仕方がない。

その後、倒したら鳥のモンスターを見て、

「そこそこ強かったな。剥いでくか?」

「いいな。金にもなるし」

3匹の鳥のモンスターの素材を剥いでから、崖を上った。

崖と言っても直角ではない。

70度ほどの勾配である。

それを岩に手と足を掛けて登る。

5段崖なので5段もだ。

体力のない女魔術師のソニャーが手こずり、それでもどうにか登り切った。

サンダーサーベルタイガーの後を追う。

紫色の血が目印として落ちているので追跡は余裕である。

そして追跡した「黒光の剣」が辿り着いた先にあったのは、サンダーサーベルタイガーの死骸だった。

だが、その死骸は、

「な」

「何だよ、これ?」

「どうなってるのよ?」

「嘘でしょ」

牙もなく、爪もなく、毛皮もなく、心臓を抉られて魔石もない。

明らかに誰かに剥ぎ取られた後のサンダーサーベルタイガーの死骸だった。

「誰かに横取りされただと?」

「ふざけんなよ、誰だっ?」

「冗談じゃないわ、あれだけ苦労したのにっ!」

「こんな事が許されていい訳がないわ」

4人全員が憤って、サスの街の冒険者ギルドに戻ったのだが、





 ◆





誰が横取りしたのかはすぐに判明した。

冒険者ギルド内で持ちきりだったからだ。

「虹の翅」がサンダーサーベルタイガーを討伐したと。

「さっすがは『虹の翅』だよな~」

「ああ、サンダーサーベルタイガーを簡単に倒してくるなんて憧れるぜ」

「やっぱり決めるところでは決めるんだな。ランクBの冒険者って」

ロ々にギルドのロビーに居る冒険者達が「虹の翅」を讃える中、「黒光の剣」の4人はロビーに併設された酒場に居た「虹の翅」のところまで行って、

「ふざけるなよ、よくも横取りしてくれたなっ!」

「はん? 何だ、ガキども? ああ、ランクBに上がったばかりの『黒光の剣』か。で? 何か用なのか」

「『何か用なのか』だと? ぬけぬけと。オレ達が倒したサンダーサーベルタイガーを横取りした癖しやがって・・・」

「? 言ってる意味が分からないんだが?」

ニンが真顔で困った顔をした。

横取りしておいて無関係の演技が出来るのがニンである。隣のフレッドも真顔で、

「ニン。多分、こいつら討伐依頼に失敗してオレ達に当たってきてるんだぜ」

「ったく、情けねえ連中だな。こんなのがよくBランクに上がったものだぜ。冒険者ギルドの査定もどうなってるんだか」

アンダーソンが我慢ならずに、

「ふざけんなっ!」

ニンの顔を殴ったのだった。

ニンは実は避けられたがわざとパンチを喰らう。

「痛、てめ、何の真似だ? 訳の分からん事を言ってきたと思ったら殴るとは」

「手を出されたんならこっちも容赦しねえぞ、やっちまえっ!」

フレッドの号令で「虹の翅」も迎え討ち、大乱闘となったのだった。

乱闘しているのは男達だけである。

つまりは「虹の翅」5人対「黒光の剣」2人。

アレックスとアンダーソンはいい勝負も出来ずに一方的にボコられた。

何せ、1対2や1対3なのだから。羽交い絞めにされてボコられたり、背後から後頭部を椅子で殴られたりと。

倒れて動けなくなったアレックスとアンダーソンに「虹の翅」が蹴りを入れ続けているとようやく騒ぎを聞き付けたギルマスのズーオが、

「何の騒ぎだ、これは?」

「それが何か知らねえけど、このガキがいきなり殴ってきやがって。それで仕方なく応戦を」

ニンが代表して答える。

それが事実なのだから見ていた他の冒険者達も頷いていた。

「ったく、アレックスの治療後、リーダー2人はオレの執務室に来い」

「ええ~。オレは悪くないのに」

「それでもだ。いいな、ニン」

「へいへい」

こうしてロビーと併設された酒場での乱闘が終わり、





ギルマスの部屋でのリーダーの主張対決となったのだが、

「ギルマス、何とかして下さい。この男のところのパーティーがオレ達が倒したサンダーサーベルタイガーの素材を持っていったんですから」

アレックスの主張を聞いたギルマスが真面目な顔で、

「おまえらを眠らせてか? 確かにそれは大問題だぞ、ニン」

「はあ? してませんって、そんな事」

「ならどうやって横取りしたんだ?」

「横取りなんてしてませんってば。オレらはただサンダーサーベルタイガーを『中層の木々の洞窟』で倒しただけなんですから」

「ん? ニンが倒したと言ってるぞ、アレックス?」

「ですから、オレ達がその前に『5段崖』で半殺しにしたんです」

状況を理解したギルマスが、

「待て」

アレックスを不信そうに睨み、

「ニンが倒して『虹の翅』が素材を剥いでる現場に到着したのか?」

「いえ」

「だろうな。だったらそこで喧嘩になってるはずだからな。酒場で喧嘩をする訳がない。つまり、おまえ達『黒光の剣』は戦っていたサンダーサーベルタイガーを見失った。そして偶然同日、ニン達が倒したサンダーサーベルタイガーを自分達が戦っていたサンダーサーベルタイガーだと因縁を付けて素材を奪おうとしている。そういう事だな、これは?」

「因縁なんかじゃありません。事実そうなんですから」

「証拠は? どうやって、おまえ達が戦っていたサンダーサーベルタイガーだと証明するつもりだ?」

「でも、そうとしか・・・」

「おまえな~、アレックス。ニン達『虹の翅』の実力ならサンダーサーベルタイガーくらいは倒せるんだよ、ランクBの冒険者パーティーなんだから。それなのに、そんな憶測で喧嘩を吹っ掛けたのか? 冒険者ギルド内では喧嘩は御法度だと知りながら?」

不機嫌なギルマスはその後、騒動を起こした「黒光の剣」に「冒険者ギルドの使用停止 3日」の処分を言い渡したのだった。
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