冷血王と死神の騎士

うしお

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「ああ、もう来ていたのか。そのようなところで寝ていたら、風邪をひくぞ」

どれほどの時が経ったのか、ロサリオールは待ち焦がれていた王の声で目覚めた。
王の声には、僅かな衣擦れの音が重なって聞こえる。
これより前の記憶は、堪え難い苦痛に苛まれていたところで途切れていた。
ロサリオールは、いつの間にか、気を失っていたようだった。

ロサリオールが記憶をたどると、離れの入口でうずくまった後、苦痛に苛まれる体をなだめながら地下に降りてきたことを思い出した。
このままでは、この苦しみに堪え切れず、粗相をするようなことになるかもしれない、という危惧と、万が一の場合には、王の目に触れる前に身を浄めておきたい、という願望から起こした行動だった。
絶え間なく流れ続ける大量の湯は、これからロサリオールの身に何が起きようとも、すべてを洗い流してくれるだろう。
そう思いながら、ロサリオールはこの浴室まで降りてきたのだ。
階段を降りきったところでロサリオールは、床に這いつくばることになったが、服を脱ぐことには成功した。
床に転がりながら、無様に服を脱ぎ捨てていた姿は、思い出したくもないほど滑稽なものだったはずだ。
誰にも見られることなく、達成できたことに安堵する。
だが、思い出せた記憶はそこまでだ。
そこからの記憶はなく、ロサリオールは、王から与えられた貞操帯だけを身に着けた姿で浴室の床に倒れていた。
王から、声をかけられるまでは。


「陛、下……」

堪え難い苦痛に支配され続けていた体は、全身が鉛のように重く、ロサリオールは、起き上がることさえできなかった。
浅く、浅く息をしながら、地に伏したままのロサリオールは視界の隅に入り込んだ王の爪先を見つめる。
そして、完璧な美しさを持つ人は、足の爪の形まで美しいものらしい、と場違いなことを考えた。
意識を取り戻せば、すぐに忘れていた地獄が帰ってくる。
きつく張りつめた腹が、ぐるぐると唸るように鳴る腹が、再びロサリオールを苦しめはじめていた。

「茶会は楽しかったか? 先程、翠玉宮に寄ってきたが、ロサリオールがおかわりをしてくれたのだと、姫が喜んでいたぞ。姫が手ずから用意してくれたそうじゃないか。お前は、本当によくできた騎士だな。主人を喜ばせるためなら、その身をすすんで差し出すのだからな」

低く嗤う王の声は、ロサリオールの中でぐるぐると渦巻く不快感を、さらに重く苦しいものに変えていく。
その身の内に渦巻く不快感を抱えながら、自分は何かよくないことをしてしまったのだろうか、と思うものの、その答えには至れない。
ロサリオールは、ろくに返事もできないまま地に伏し、腹を抱えている。

「ひどい汗だな」

憐れむような声の後、王の指先がロサリオールの額にはりつく前髪を掬いあげた。

「くくっ、いまにも唸り出しそうな顔だ」

苦痛を堪えるため、歯を食いしばっていたロサリオールの首筋に、王の指先がやわらかく触れる。
硬質な男の指が、強ばった首筋の中ほどにある喉仏の上でくるくると踊りはじめた。

「俺の首輪は、気に入らないか?」

「……いい、え……陛、下、そのような、ことは……」

「そうなのか? 俺には、お前が喜んでいるようには見えぬがどうなのだろうな?」

喉の中央、薄らと浮かぶその場所に、踊っていた指先がひたりと押し当てられる。
ただ触れているだけの指先に、鳥肌がぞわりと立った。

「お前は、答えを知っているか?」

ロサリオールの体から滲み出た汗は、不快なほどにまとわりついて離れなかった。
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