冷血王と死神の騎士

うしお

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「どうした、ロサリオール。俺に何か言いたいことでもあるのか?」

いますぐ、どこか誰も見ていない場所へ行きたいと、願えるものならそうしていた。
腹の中から出てこようとする宝玉は、もう誰にも止められないとわかっているからだ。
だが、それを口にして許されると思うほど、ロサリオールは楽観的な心を持ち合わせてはいない。
いまのロサリオールに、王に対して言える言葉など存在していなかった。
ただただ、時間の経過と共にさらけ出すことになるだろう無様な姿をありのまま、王に見せるしかないのだ。

「何も言わなくていいのか?」

愉しそうに嗤う王の瞳を見たロサリオールは、全身の毛が逆立つような怖気に襲われた。
まるで、凶悪な獣の口の中に自分から飛び込んでしまった獲物のような気持ちだ。
王は、すべてを知っている。
ロサリオールの心が、絶望の淵にあることを。
すべてを受け入れ、堕ちていこうとしていることを。
それらのすべてを愉しんでいる。
いつ喰われるともわからない恐怖が、ロサリオールの体を震わせた。
宝玉は、すぐそこまで出てきている。

「それとも、何か芸でもして見せてくれるのか?」

「……はい、陛下」

差し出された王の手を、ロサリオールは恭しく受け取り、その指先に口付ける。
ここがもし、どこかのパーティー会場で、貴婦人を相手に差し出された手に対してロサリオールが口付けをしたのならば、舞踏会での挨拶として受け入れられていたかもしれない。
だが、ここは舞踏会の会場ではなく浴室であり、ここにいるのは主人である王と犬でしかないロサリオールだけだ。
その主人である王から、芸をして見せろと言われたのであれば、犬であるロサリオールには従う以外に道はない。
そして、ロサリオールが犬として見せることのできる芸など、はじめからひとつしかなかった。
それも、すでに一度見せてしまった芸である。
二度目となる今回も、王は気に入ってくださるだろうか。
不安に思いながらもロサリオールは、そのまま王の指先をやわらかく咥え、ゆっくりと舐めはじめた。

「主人の指を、黙って舐めはじめるとはな。まさか、俺の躾が足りていなかったのか?」

指を咥えたロサリオールの髪を、王は嗤いながらくしゃりと掴む。
ロサリオールは、王を見上げたまま舌を出し、見せつけるように指へと這わす。

「私に、できる、芸は、これだけ、です、から……ん、ぁむ……っ、は、ぁ……っ、ん、ぅ……っ」

髪を掴んだままロサリオールを見下ろす王の指を、しっかりと根本まで咥え込んだ。
少しでも押し込まれれば、喉奥に触れるだろう指先を、ロサリオールは嘔吐いてしまわないように注意しながらゆっくりと受け入れる。
王の指をやわらかく吸いあげ、たっぷりと舐めしゃぶってから引き抜いた。

「お気に、めしませんか……ンあッ」

ロサリオールは、最後の仕上げとばかりに濡れた指先をぺろりと舐め、反応のない王の顔を上目遣いで見上げる。
王は、口の中に戻ろうとしていたロサリオールの舌を指先でつまんで引き止めると、ようやく愉しそうに嗤ってみせた。
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