私の方が先に好きになったのに

ツキノトモリ

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私の方が先に好きになったのに

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私は十年という長い間ずっと大切に胸に抱いてきた初恋がある。
初恋相手は現在同じ学校に通っている伯爵令息のセザール。親同士が仲が良く、私と兄妹のように育ったセザールは昔から綺麗な顔立ちをしていて、十六歳になった今は立派な美男子に成長した。そのせいで学校ではモテモテだ。彼が廊下を通れば女子も男子もその姿に見惚れ、笑顔を見せれば黄色い歓声が飛び、目が合えば卒倒する者もいる。それくらい彼は綺麗なのだ。しかし、モテるのも大変なようで、

「勇気を出して告白してくれたのに、断ってしまって申し訳ない」

と困ったような顔をして呟くのを聞いたことがある。

「じゃあ、断らずに告白を受け入れたら良いじゃないの」

セザールの言葉を聞いて適当に返答したら、彼は今度は苦虫を噛み潰したような顔をした。

「気持ちがないのに、告白してくれた子と付き合えというのか?それはあまりにも不誠実だろう」
「真面目ね。セザールのそういうところも良いと思うけど」

誠実な人だ。彼は顔だけじゃなくて心も綺麗なんだ。私は彼のそういうところが好き。


そんな私の初恋が終わったのは、十六歳の冬。
セザールと私の親友・ブランディーヌから「話したいことがある」と喫茶店に呼び出された。
この喫茶店は私の家の近くにあるのでよく利用しており、店長とも雑談を交わすこともしばしば。

「大事な話って?」

店の窓際にあるテーブル席でセザールとブランディーヌが隣り合って座り、テーブル挟んで向かい側に私が座り、二人に用件を話すよう促す。

「俺たち、付き合うことになって……」

後頭部をぽりぽりとかきながら(彼が照れ隠しの時によくやる仕草だ)嬉しさを隠せていない声音で言った。

「えっ……」

衝撃のあまり頭がぼんやりして、上手く言葉を紡げない。

「セザールさんの幼馴染で私の親友のリリカには伝えておきたかったの」

こちらも嬉しさを隠せてない声音で言うブランディーヌ。

ブランディーヌは私がセザールを好きだったことは知らない。私は誰にもこの恋を伝えていないし、隠し通してきたから知ってるはずがない。
私の方が先に好きだったのにな。
正直、ブランディーヌが憎い。私の方が先に好きだったのに、たまたま同じ学校に通っててたまたま親友の幼馴染で接点があっただけで、セザールに好きになってもらえるなんて。
しかも、ブランディーヌはセザールのことが好きだなんて一言も言ってなかった。それなのに、付き合ってから私に報告するなんて酷くないだろうか。

……いや、自分も同じだ。私もブランディーヌにセザールを好きだと言ってなかった。
そうだというのに、ブランディーヌにヤキモチをやいた。愚かすぎる。
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