私の方が先に好きになったのに

ツキノトモリ

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俺も好きだったのに②

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リリカが学校を休んだ日、俺はセザールからブランディーヌと付き合い始めたと報告を受けた。
ああ、だからリリカは休んだのか。
彼女も可哀想だと思って、お見舞いに行くことにした。

ブランディーヌとセザールも誘ったが、

「演劇を見に行くの。それが終わってからお見舞いに行くわ」
「俺は用事があって……」

と申し訳なさそうに言うセザール。

二人でデートか。羨ましい限りだと思いながらも、俺は一人でリリカのお見舞いに行くことにした。

リリカは少し顔がやつれていて不憫だったが、思ったよりも元気そうだ。絶望して自暴自棄になっているのでは?などと心配していた自分が馬鹿らしい。
失恋でショックを受けていたようだが、彼女はセザールにもブランディーヌにもこの恋を知られたくないと話し、二人の邪魔をしたくないと語った。それにどこか興醒めし……。

「邪魔をしたくない、ね。殊勝なことだ」

嫌味っぽいことを言ってしまった。
リリカに対して「立派だ」と思ってしまったことが何だか悔しい。

しかし、彼女を凄いと思った。尊敬の気持ちも抱いた。
俺も見習おう。セザールに嫉妬したり、リリカに嫌味を言ったりするのではなく。
俺にも彼女と同じようにできるのか分からないが。


翌日、リリカは学校に来た。同級生たちに体調は大丈夫かときかれ、「ちょっと風邪ひいちゃったの。ご心配ありがとう」と笑っていた。
ブランディーヌとも普通に話していたものの、たまに笑顔がぎこちなかったり手をギュッと握りしめたりしている。
そういう時はだいたいブランディーヌの横にセザールがいた。
応援したいとは言っていたが、そう簡単に割り切ることができないのだろう。


セザールとブランディーヌが付き合い始めてから一週間経った。
しかし、俺はまだブランディーヌを好きなままだ。




とある休日、俺の家にブランディーヌがやって来た。驚いたが、応接間に案内し、紅茶を飲みながら彼女の話を聞くことにしよう。

「ごめんなさい。急に」

彼女が頭を下げる。
本当に急だな。
確か、今日はデートだと言っていなかったか。昨日、セザールが嬉しそうに言っていたが……。

「ちょっと話したいことがあって」
「今日はセザールとデートじゃなかったの?」
「セザールは風邪ひいちゃったものだから、今日のデートは無しになったの」
「それは残念だったね」
「うん。私、楽しみにしていたのに」

ブランディーヌがぷぅと頬を膨らませた。子供っぽい仕草だが、彼女は童顔なのであまり違和感がなくて可愛らしく見える。

「ところで、話というのは?」
「えっと~、それがね……。何と言えば良いのかしら……。シストくんはリリカのことどう思ってる?」
「どうって……。女子の中ではよく話す方かなとは思ってるけど……」
「そう……」

少し残念そうな顔で頷くブランディーヌ。

「どうしてそんなこと聞くの?」
「リリカに恋人がいないのって可哀想でしょ?私にはセザールがいるし……」

リリカがセザールのことを好きだと知らないとは言え、残酷なことを言う。
しかも、恋人がいないから可哀想だって?
大きなお世話だ。

「恋人がいないのは可哀想なの?」
「うん。だって、リリカはたまに私とセザールを見て羨ましそうにしている時があるの。もしかして、リリカも恋人がほしいのかな?って……」
「それは……!」

リリカがセザールに恋をしているから、ブランディーヌが羨ましいだけだ。と言いそうになったのを堪える。リリカはこの気持ちを知られたくないのだから、俺が言うのは良くない。

「俺はリリカちゃんに恋愛感情を抱いたことはないよ。リリカちゃんが可哀想だからって、俺と彼女をくっつけようとするのはやめてくれないか?」
「でも、リリカと仲が良い男の子と言ったらシストくんしかいないもの。どうかな~って思っただけよ。私の優しさでもあるの」

ニコニコと笑っているブランディーヌから悪意を感じないが、言っていることはお節介でしかない。
そんな彼女を俺は冷めた目で見た。
優しい子だと思っていたのに、この優しさは残酷だ。これを自分の優しさだと言ってはばからないブランディーヌの態度に引く。

サーッと恋心が引いていくのを感じた。

「君はセザールと付き合えて頭の中がお花畑になっているんだね。リリカちゃんの恋人は彼女が見つけるものだ。君が出る幕ではないよ。そんなのはいらないお節介だよ」
「そう。シストくんとリリカはお似合いだと思ったのだけど、残念ね。では、私の話は終わったので帰ります。また学校で会いましょう」

そう言ってブランディーヌは帰った。

前ならブランディーヌを引き止めて他愛のない話をしたがっただろう。
でも、今の俺は彼女とはもう話したくないし、さっさと帰ってくれてほっとしている。
恋に落ちるのもあっという間、恋に冷めるのもあっという間なんだと知った。
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