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第三話
しおりを挟む「エリヴィラってフィクトルさんの婚約者なの?!」
放課後、エリヴィラは学校の近くにある喫茶店で友達のセナに婚約の話をした。セナは仲の良い友達だし、口が堅い人だから話しても良いかなと思ったのだ。
「そう。でも、フィクトルは私には話しかけるなって言うの。そのくせ、自分から私に話しかけてくるし、他の女子とのやり取りを見てる私にドヤ顔してくるの!」
「ドヤ顔って……。フィクトルさんがそんな表情しているところ見たことないわよ?」
「あの人は猫被ってるのよ」
「そうなの?信じられないわ」
「そうなんだよ。信じられないでしょ?」
エリヴィラがため息まじりに言うと、セナはクスクスとくすぐったそうに笑った。
「エリヴィラはフィクトルさんに呆れているみたいだけど、フィクトルさんはエリヴィラに特別な感情を抱いているんじゃないの?だって、相手から話しかけてくるんでしょう?それに小さな変化にも気付くんでしょう?それってそういうことなんじゃないかな~って思うのよね」
セナが何かを探るようにエリヴィラを見る。当のエリヴィラはというと、首を傾げるだけだ。
「フィクトルが私を好きってこと?ないよ~。あの人と私はただの幼馴染なんだから。好きな人に『婚約者だとバレたら恥ずかしいから話しかけるな』なんて言う?」
「そうだね……。私には照れ隠しみたいなものに見えるけれど、エリヴィラが否定するなら違うんだろうね」
「うん。それよりも、私はセナの婚約者のことが気になってるんだけど~」
エリヴィラがニヤニヤしながら言うと、セナは恥ずかしそうに頬を染めた。子爵令嬢である彼女にも婚約者がいる。しかも、セナは婚約者のことが本気で好きらしく、その話になると恥ずかしそうにする。
「あなたの婚約者もこの学校に通っているんでしょ?一度会ってみたいな」
「え~?」
「私、フィクトルとのこと話したよね?」
エリヴィラの圧にセナは白旗を上げた。
「分かったわよ。婚約者に話してみるわ」
「うん。よろしくね」
セナの婚約者を紹介してもらうという約束が成立し、エリヴィラは心の中でガッツポーズをした。セナは暖かい海の浅瀬のような澄んだエメラルドグリーンの目が印象的な美少女だ。初めて彼女を見た時、エリヴィラは「可愛い!」と興奮して話しかけた。そんな可愛いセナが好意を寄せている相手がどんな人物なのか気になっていたのだ。
一体、彼女の婚約者はどんな人なんだろう、きっと凄いイケメンなんだろうな……なんてことを考えていると、セナから声をかけられた。
「エリヴィラ、明日の授業の予習した?」
「ああ、魔法史の?」
「それもそうだけど、外国語の授業よ」
一年生は魔法史や魔法薬学、飛行術などの基礎的な魔法の授業だけではなく、外国語や数学などの一般教養の授業もある。予習をしなければついていけない授業もあるので、みんな四苦八苦しているのだ。
ちなみに、外国語は隣国の言葉を学ぶ。
「外国語やらなきゃいけないのは分かってるけど、隣国に行く予定もないし、勉強のモチベーションがないんだよね」
「何言ってるの。私たちまだ十六歳なのよ?将来どうなるか分からないでしょう?」
「そうだよね。未来なんて分からないよね」
「ええ。って偉そうに言っているけど、私も予習は全くやってないの。寮に帰って一緒にやりましょ」
茶目っ気のある笑顔で言うセナ。
そういうわけで、エリヴィラとセナは喫茶店を出て寮へ戻ることにした。
魔法学校の寮は男女別で、異性を寮に入れるのは禁止されている。
また、門限が夜の七時までと決まっており、帰省などで門限を過ぎたり外泊したりする場合は前日までに届け出なければならない。届けを出さなかった場合はペナルティーとして停学処分になり、進級試験や卒業試験に影響が出てしまう。そのため、生徒たちは門限を厳守しているのだ。
エリヴィラたちが寮に戻ったのは門限の約一時間前。食堂で夕食が提供されるのは夜の七時だから、それまで寮内のラーニングルームで予習をすることにした。
七時になったら食堂に行って食事を済ませた後、エリヴィラとセラはそれぞれの部屋に戻った。
寮は一人一部屋、ベッドと勉強机、洗面台、クローゼットしかない部屋で毎日寝起きする。お風呂は大浴場、トイレは共用である。
エリヴィラは入浴を済ませ、予習と復習を終わらせてからベッドに入った。次目を覚ますといつも通りの朝が待っている。
こうしてエリヴィラはいつも通り生活していたが、ある日何の変哲もない日常を変える出来事が起こった。
それはセナの婚約者を紹介してもらうことだ。なんと、セナの婚約者も自分の友人を紹介したいと思っていたらしく、エリヴィラは婚約者の友人とも会うことになった。
「こちらが私の婚約者のレジスさん。そして、こちらが私の友人のエリヴィラよ」
魔法学校の近くにある喫茶店にて、セナがエリヴィラに婚約者を、婚約者にエリヴィラを紹介する。紹介された二人は簡単に自己紹介をして握手を交わした。
エリヴィラが想像した通り、セナの婚約者であるレジスはイケメンだった。髪も瞳も薄い茶色で、目はクリクリとしていて笑うと子犬のような愛嬌がある。確かに、セナが夢中になるわけねとエリヴィラは心の中で頷いた。
その後、レジスはセナに自分の友人を紹介した。ダヴィドという名前の友人は赤色の髪の毛で性格も明るい男性だった。二人ともエリヴィラやセナと同じ一年生だそうだ。
レジスは伯爵令息、ダヴィドは侯爵令息らしい。侯爵家の生まれなのはフィクトルと同じだ。
「レジスの婚約者っていうから、どんな美人かと思ったら……本当に綺麗だね。お似合いだよ。雰囲気も似ているし、相性も良さそうだ。良い伴侶に出会ったな、レジス」
ダヴィドがレジスの肩を叩く。
「伴侶って……。まだ結婚していないが」
「婚約しているんだから、いずれ結婚するんだろ?」
「そうだが」
レジスが照れくさそうな顔をすると、セナもはにかんで俯いてしまった。反応も似ていて、お似合いの二人だとエリヴィラは思う。それに加えて、自分もレジスのような人と結婚したかったなとつい考えてしまった。
それから少し雑談をした後、セナとレジスの邪魔をするわけにもいかないと思い、
「私、用事があるからここで失礼するね」
と言って席を立とうとした。すると、ダヴィドも同じことを考えていたようでエリヴィラに同調した。
「俺も用事があるんだ。じゃあ、後はお若いお二人さんで楽しんでよ」
「お前も同い年だろ」
レジスがツッコミを入れ、四人で笑い合う。にこやかに手を振って、エリヴィラとレジスは席を離れ会計を済ませて喫茶店を出た。
「このまま寮に帰るの?」
「ええ。ダヴィドさんは?」
「俺も寮に帰るよ。それとさん付けしなくて良いよ。同い年なんだから呼び捨てで呼んで。俺もエリヴィラって呼んでいい?」
「良いよ。ダ、ダヴィド」
家族でも幼馴染でもないさっき初めて会ったばかりの男性を呼び捨てするのは初めてだ。緊張のあまり、噛んでしまった。
「なんでそんなに緊張してんの」
ダヴィドがおかしそうに笑い、私の頭を軽く撫でた。だが、そこで我に返ったように私の頭から手を離す。
「ご、ごめん」
「ううん。謝らなくても良いよ。ちょっと距離感近くてびっくりしたけど」
「そうだよなぁ。俺、距離感間違えちゃうんだよな」
心底反省したように言うダヴィド。そんなに反省しなくても良いのにとエリヴィラは笑った。
ダヴィドとはこれで打ち解けて楽しく雑談し、女子寮の前で別れた。
その翌日のことである。
教室に入ったら、誰かに腕を掴まれた。誰だと思って振り返るとニコリと笑ったフィクトルの姿が。
「ちょっと話があるんだ」
彼に腕を掴まれたまま、空き教室まで連行される。一体何なんだ?とフィクトルを非難する前に、彼が口を開いた。
「昨日、男と一緒にいたな。お前、自分の立場を分かっているのか?」
彼の言葉には怒気と焦りが込められていた。
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