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第四話
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フィクトルがどうしてこんなにも怒っているのか、エリヴィラには理解できない。だが、彼が大きな誤解をしていることは確かなので釈明しなければならない。
「その男性っていうのは、赤髪の方?」
「ああ。あいつは誰だ?」
フィクトルは見ず知らずの人を「あいつ」呼ばわりするような人間ではないのだが、今は怒りのあまり口調が荒くなっているのに気付いていないようだ。
「あの人とは昨日知り合ったの。友達のセナとその婚約者とその友人の方と喫茶店に行って、紹介してもらっただけで何もないよ」
「だが、婚約者がいるのに男と二人きりになるのはどうなんだ?」
「それはフィクトルだって同じじゃない!」
「は?」
エリヴィラの言葉に、フィクトルは眉根を寄せた。
「あなただって、私以外の女の子とイチャイチャしてるくせに!それをドヤッて私に見せつけているじゃない!」
「はぁ?!お前は何を言ってるんだ?お前が自意識過剰なだけだろ」
フィクトルが馬鹿にしたように言ったが、エリヴィラは負けなかった。
「だって、フィクトルは他の女の子に触られてもまんざらでもなさそうな顔をしているでしょ?」
「女の子からのボディタッチを拒否できるわけないだろ!彼女に恥をかかせることになる!」
「でも、私に見せつけていたよね?」
「そんなつもりはない!男と二人きりで歩いてたお前とは違うんだよ、俺は!」
「だから、私とあの人は何もないって言ってるでしょ?!そもそも、どうして私が男子と一緒に歩いていたのを知ってるの?私のことストーカーしてたとか?」
「そんなわけあるか!お前は自意識過剰なんだよ!たまたま見かけただけだ!」
「では、その時言ってくれたら良かったのに!」
「はぁ?!言えるわけないだろ!」
二人の喧嘩はますますヒートアップしていく。エリヴィラは耐えられなくなり、フィクトルに対して声を荒げた。
「だいたいね、フィクトルは私が婚約者だとバレたら恥ずかしいのでしょ?それなら、男と二人きりで歩いていた恥ずかしい婚約者との婚約を破棄して、別の女の子と婚約したら良いんじゃないの?」
「ああ。そうだな。お前みたいに自意識過剰な女と結婚したところで、幸せになれるとは思えない。両親に直談判して婚約は破棄させてもらおう」
「ええ。そうしてちょうだい」
エリヴィラにもフィクトルにも、子供っぽい喧嘩をしているという自覚はあった。だが、フィクトルに対して不満が溜まっていたからはっきりと言えて良かったと思っている。
さらに、彼との婚約を破棄できるかもしれないと来た。
エリヴィラは心の中で喜んだのだが、数日後両親から実家に帰ってくるようにという内容の手紙が届いた。
学校が休みの週末、寮に届け出た上でエリヴィラは実家へと戻った。両親はにこやかに出迎えてくれるはずもなく、すぐに本題に入る。
「フィクトルくんが婚約破棄を申し出たそうだ。エリヴィラが何か失礼なことをしたんじゃないのか?」
「失礼なことというか……喧嘩中に私が婚約破棄して他の女の子と結婚したら良いと言ったら、フィクトルが自分から両親に直談判して婚約破棄するって言い出したんです」
「フィクトルくんと喧嘩したの?!」
「はい」
エリヴィラが頷くと、両親はわざとらしくため息をついた。
「分かったわ。これからフィクトルくんのお家に言って話し合いするわよ。エリヴィラも身支度なさい」
母に言われてエリヴィラはよそ行きの私服に着替え、両親とともにフィクトルの家へと向かった。
出迎えてくれたフィクトルとその両親に挨拶し、応接室へと案内され、そこで話し合いを行うことになった。
「フィクトルはエリヴィラちゃんとの婚約を破棄したいと言うんだが、君はどう思う?」
フィクトルの父がエリヴィラにたずねる。
「私は構いません。何せ、フィクトルさんは私を良く思っていないようですし」
「そうかな?」
フィクトル父が首を傾げる。
「はい。フィクトルさんは婚約者が私だとバレるのが恥ずかしいそうで、私に学校では話しかけるなと言ってきました」
エリヴィラはフィクトルが他の女の子にボディタッチをされても拒否しないどころか自分に見せつけるようにドヤ顔してくることを話した。
それを聞いてフィクトルは恥ずかしそうに俯く。
「フィクトル、エリヴィラちゃんが言ったことは本当なのか?」
「距離が近い子はいますが、エリヴィラに見せつけるようなことはしておりません。それにエリヴィラも俺以外の男と二人きりになったりしています」
「だから、それは誤解だって……!」
「エリヴィラ」
エリヴィラがフィクトルの言葉に反論しようとしたら、父に制された。
「お互いに誤解があるようだが、それでもフィクトルとエリヴィラちゃんは婚約を破棄するつもりなのか?」
エリヴィラとフィクトルの様子を見て、フィクトル父が二人に質問した。
「はい。婚約は破棄させていただきます」
「私もフィクトルと同じ考えです」
彼らの返答に両親たちが顔を見合わせた。そこで、フィクトルの母が初めて口を開き、自分の息子に問う。
「フィクトル、本当に良いの?エリヴィラちゃんとの婚約をなかったことにして良いの?」
母の質問は息子を心配するような声色だった。その心配を振り払うように、フィクトルは「はい」と頷く。
「そう。あなたがそう言うなら母さまは何も言いません」
と言ってフィクトル母は黙った。代わりに、フィクトル父がエリヴィラの両親に問いかける。
「子供たちがこう言っているわけだし、婚約は一旦白紙に戻そうか」
「そうですね……」
「子供たちがどちらとも婚約を破棄したいと言っているのだから、彼らの意思を尊重した方が良いと思うが、あなた方はどう思う?」
エリヴィラは心の中で、子供の意思を尊重してくれるフィクトル父に感謝した。さて、自分の両親はどう答えるだろう?
「あなたがそうおっしゃるなら、こちらも賛同します」
両親は伯爵家。侯爵家に面と向かって反論はできないようだ。
こうして、エリヴィラとフィクトルの婚約は破棄されたのだった。
これで平穏な学校生活が送れるとエリヴィラは思っていたのだが……。
「その男性っていうのは、赤髪の方?」
「ああ。あいつは誰だ?」
フィクトルは見ず知らずの人を「あいつ」呼ばわりするような人間ではないのだが、今は怒りのあまり口調が荒くなっているのに気付いていないようだ。
「あの人とは昨日知り合ったの。友達のセナとその婚約者とその友人の方と喫茶店に行って、紹介してもらっただけで何もないよ」
「だが、婚約者がいるのに男と二人きりになるのはどうなんだ?」
「それはフィクトルだって同じじゃない!」
「は?」
エリヴィラの言葉に、フィクトルは眉根を寄せた。
「あなただって、私以外の女の子とイチャイチャしてるくせに!それをドヤッて私に見せつけているじゃない!」
「はぁ?!お前は何を言ってるんだ?お前が自意識過剰なだけだろ」
フィクトルが馬鹿にしたように言ったが、エリヴィラは負けなかった。
「だって、フィクトルは他の女の子に触られてもまんざらでもなさそうな顔をしているでしょ?」
「女の子からのボディタッチを拒否できるわけないだろ!彼女に恥をかかせることになる!」
「でも、私に見せつけていたよね?」
「そんなつもりはない!男と二人きりで歩いてたお前とは違うんだよ、俺は!」
「だから、私とあの人は何もないって言ってるでしょ?!そもそも、どうして私が男子と一緒に歩いていたのを知ってるの?私のことストーカーしてたとか?」
「そんなわけあるか!お前は自意識過剰なんだよ!たまたま見かけただけだ!」
「では、その時言ってくれたら良かったのに!」
「はぁ?!言えるわけないだろ!」
二人の喧嘩はますますヒートアップしていく。エリヴィラは耐えられなくなり、フィクトルに対して声を荒げた。
「だいたいね、フィクトルは私が婚約者だとバレたら恥ずかしいのでしょ?それなら、男と二人きりで歩いていた恥ずかしい婚約者との婚約を破棄して、別の女の子と婚約したら良いんじゃないの?」
「ああ。そうだな。お前みたいに自意識過剰な女と結婚したところで、幸せになれるとは思えない。両親に直談判して婚約は破棄させてもらおう」
「ええ。そうしてちょうだい」
エリヴィラにもフィクトルにも、子供っぽい喧嘩をしているという自覚はあった。だが、フィクトルに対して不満が溜まっていたからはっきりと言えて良かったと思っている。
さらに、彼との婚約を破棄できるかもしれないと来た。
エリヴィラは心の中で喜んだのだが、数日後両親から実家に帰ってくるようにという内容の手紙が届いた。
学校が休みの週末、寮に届け出た上でエリヴィラは実家へと戻った。両親はにこやかに出迎えてくれるはずもなく、すぐに本題に入る。
「フィクトルくんが婚約破棄を申し出たそうだ。エリヴィラが何か失礼なことをしたんじゃないのか?」
「失礼なことというか……喧嘩中に私が婚約破棄して他の女の子と結婚したら良いと言ったら、フィクトルが自分から両親に直談判して婚約破棄するって言い出したんです」
「フィクトルくんと喧嘩したの?!」
「はい」
エリヴィラが頷くと、両親はわざとらしくため息をついた。
「分かったわ。これからフィクトルくんのお家に言って話し合いするわよ。エリヴィラも身支度なさい」
母に言われてエリヴィラはよそ行きの私服に着替え、両親とともにフィクトルの家へと向かった。
出迎えてくれたフィクトルとその両親に挨拶し、応接室へと案内され、そこで話し合いを行うことになった。
「フィクトルはエリヴィラちゃんとの婚約を破棄したいと言うんだが、君はどう思う?」
フィクトルの父がエリヴィラにたずねる。
「私は構いません。何せ、フィクトルさんは私を良く思っていないようですし」
「そうかな?」
フィクトル父が首を傾げる。
「はい。フィクトルさんは婚約者が私だとバレるのが恥ずかしいそうで、私に学校では話しかけるなと言ってきました」
エリヴィラはフィクトルが他の女の子にボディタッチをされても拒否しないどころか自分に見せつけるようにドヤ顔してくることを話した。
それを聞いてフィクトルは恥ずかしそうに俯く。
「フィクトル、エリヴィラちゃんが言ったことは本当なのか?」
「距離が近い子はいますが、エリヴィラに見せつけるようなことはしておりません。それにエリヴィラも俺以外の男と二人きりになったりしています」
「だから、それは誤解だって……!」
「エリヴィラ」
エリヴィラがフィクトルの言葉に反論しようとしたら、父に制された。
「お互いに誤解があるようだが、それでもフィクトルとエリヴィラちゃんは婚約を破棄するつもりなのか?」
エリヴィラとフィクトルの様子を見て、フィクトル父が二人に質問した。
「はい。婚約は破棄させていただきます」
「私もフィクトルと同じ考えです」
彼らの返答に両親たちが顔を見合わせた。そこで、フィクトルの母が初めて口を開き、自分の息子に問う。
「フィクトル、本当に良いの?エリヴィラちゃんとの婚約をなかったことにして良いの?」
母の質問は息子を心配するような声色だった。その心配を振り払うように、フィクトルは「はい」と頷く。
「そう。あなたがそう言うなら母さまは何も言いません」
と言ってフィクトル母は黙った。代わりに、フィクトル父がエリヴィラの両親に問いかける。
「子供たちがこう言っているわけだし、婚約は一旦白紙に戻そうか」
「そうですね……」
「子供たちがどちらとも婚約を破棄したいと言っているのだから、彼らの意思を尊重した方が良いと思うが、あなた方はどう思う?」
エリヴィラは心の中で、子供の意思を尊重してくれるフィクトル父に感謝した。さて、自分の両親はどう答えるだろう?
「あなたがそうおっしゃるなら、こちらも賛同します」
両親は伯爵家。侯爵家に面と向かって反論はできないようだ。
こうして、エリヴィラとフィクトルの婚約は破棄されたのだった。
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