貴方との婚約は破棄されたのだから、ちょっかいかけてくるのやめてもらっても良いでしょうか？

第五話

週明けの月曜日。エリヴィラが登校すると、婚約破棄の前と同じようにフィクトルは他の女子たちと楽しそうに話していた。
変わらないなと感心してしまう。彼はあの女子たちの中から新しい婚約者を選ぶのだろうか。なんてことを考えていたら、セナが声をかけてきた。

「エリヴィラ、週末に帰省したのでしょう？どうなったの？」

セナにはフィクトルが婚約破棄について直談判すること、週末実家に帰ることを伝えていた。

「それが……」

エリヴィラがセナに婚約破棄になったことを耳打ちすると、彼女はかなり驚いたようだった。

「え？！そうなの？良かった……わね。いえ、良かったのかしら？」
「良かったのよ。私、フィクトルのこと好きじゃないもの」
「では、あなたは誰と結婚するの？」

セナに言われ、エリヴィラは黙り込んだ。難しい質問をしないでほしいものだ。婚約破棄してすぐに、相手が見つかるほどエリヴィラはモテるタイプではない。

「誰と、なんてまだ考えてないわよ。好きな人ができたとしても、私を好きになってくれるとは限らないでしょ？」
「そうね」

さあ、話は終わりだとエリヴィラが一限目の授業の準備を始めようとしたら、今度はセナから耳打ちされた。

「あのね。今日、レジスさんと昼食をとる予定なのよ。ダヴィドさんも呼ぶそうだから、エリヴィラもどう？」
「うん。いいよ！ダヴィドもいるなら、セナたちの邪魔にならないだろうし」
「良かった。決まりね」

セナは嬉しそうに破顔し、自分の席に戻って行った。
一限目の授業は魔法史だ。魔法史の担当教師は若い女性で時折ユーモアを混ぜながら魔法の歴史を教えてくれる。教師の話を聞きながら板書していると、後ろから視線を感じた。振り返ってみると、フィクトルと目が合い、さっと目を逸らして前を見る。
なんで彼は私を見ていたのだろう？謎だ。
そう考え込んでいたら、先生に名前を呼ばれた。

「ぼーっとしてるけど、何かありましたか？」
「い、いえ。何でもありません」

エリヴィラは顔を赤く染め、板書に集中することにした。
全くこれもフィクトルのせいだ。
何とか一限目を終えたところで、フィクトルの方から話しかけられた。

「エリヴィラ、授業はちゃんと聞かなきゃダメだろう？」
「分かってるよ。あんたに言われなくたって」

エリヴィラは素っ気なく答えた。それで会話が終了するわけがなく、フィクトルがおかしそうに話を続ける。

「まさか、俺と目が合ってドキドキしたのか？俺とお前はただの幼馴染だろ？婚約破棄になったのだから」
「ドキドキするわけないでしょ！というか、先に見てたのはそっちじゃない？私に何か用でもあったわけ？」
「は？そんなわけないだろ？俺は幼馴染として、エリヴィラがちゃんと授業を受けているか見ていただけだよ」
「大きなお世話なんだけど！」
「世話をかけるエリヴィラが悪い」

いつフィクトルに世話をかけたというのか……。言い返そうとしたところで休憩が終わり、フィクトルは自分の席に戻って行った。

その後の授業でも視線を感じることがあったが、気にしないようにした。
午前中の授業が終わり、昼食の時間になったのでエリヴィラはセナとともに食堂に向かう。途中でレジスとダヴィドと合流し、その流れで同じテーブルについた。