ここから先は立入禁止!~年下ワンコに翻弄されてます~

うみくも

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3rdアクシデント 俺は今さら変わらない、はず……

溺れる―――……

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 あれから、あっという間に二週間以上。
 宮地とは、面白いくらい顔を合わせていない。


 まあ、当然と言えば当然か。


 俺とは真逆で、佐藤は終日外出なんてこともざらにある。
 おかげで、佐藤の下についた宮地も会社にいないことが増えた。


 それに、佐藤はああ見えて、これはと見込んだ奴には割とスパルタなんだよな。
 俺が太鼓判をしたというのもあって、今頃宮地に相当量の仕事を下ろしていそうだ。


 そんなこんなで激務に追われている宮地であるが、俺の見立てどおり、あいつは佐藤の仕事を手伝っている方が性に合っているように見える。


 ひどく忙しそうにしながらも、佐藤やクライアントと話している宮地はどこか楽しげだ。


 調査や資料整理の技術は、それなりに俺が仕込んである。
 とはいえ、俺の担当を引き渡したわけではないので、宮地自身は完全なフリー状態。


 佐藤にとって、こんなに使いやすい補佐もいまい。


 この前また昼食に引きずって連れていかれた時、神仏も真っ青なレベルで拝み倒された。


 そして、俺はというと……


(平和だ…!!)


 人がいない資料室で、ひしひしと感動を噛み締めていた。


 また一人で仕事を回すようになってしばらく。
 こんなにも仕事がやりやすいなんて。


 何事も、一度失ってみてその価値を思い知るもんだ。
 俺の仕事のやり方は間違っていなかったらしい。


 やっぱり、俺は一人でさっさと仕事を片付けてしまうのが好きなんだろう。
 この静けさがたまらない。


 これまでの生活を振り返ると、ここ最近は異常なほどに周囲が騒がしかったと思う。


 さてさて、今日も仕事をどんどん片付けてしまおう。
 宮地が傍を離れてからというもの、気持ちいいくらいに作業が進むんだ。


 とりあえず一時間後に一服するつもりで、それを目標に機嫌よく資料を読み進める。
 この時、俺の頭からは宮地のことなんて綺麗さっぱり抜け落ちていた。


 だから―――




「随分楽しそうですね、先輩?」




 真後ろからそう語りかけられた時、俺は何が起こったのか認識できなかった。


「………っ!?」


 数秒の空白を経て、全身が硬直する。


 え、ちょっと待った。
 この声って、もしかして……


 思考回路が軽くショートを起こし、混乱した俺がとっさに取った行動はその場からの逃走。


 しかし―――


「うおっ!?」


 ぐらりと視界が大きく揺れる。


 背中が勢いよく棚に叩きつけられ、脳の処理が現実に追いつくよりはるかに早く唇を塞がれた。


「……んっ!? んんっ!?」


 状況を把握して腕を振り上げたが、その腕さえも捕まって、後ろの棚に力強く押さえつけられてしまう。


「んーっ!!」


 なんとか抵抗しようともがいても、力じゃ相手に敵わなかった。
 逃げようにも、力強く腰を抱き寄せられていて体が全然動かない。


 むしろ、腰に回された手が時折やんわりとそこをなでていくと、どうしても体が熱く反応してしまって……


「ん……う……」


 だめだ……
 もう、立っていられない―――


「先輩って、案外不意打ちに弱いですよね。この前ここで迫ろうとした時とは大違い。」


 膝が砕けてしまった俺を軽々と支えた宮地は、ゆっくりと俺を床に座らせた。


「そんなに、オレから逃げられてほっとしてたんですか?」


 次の瞬間、互いの呼吸音すら聞こえそうな近距離からそう問いかけられる。


「………っ」


 とっさに黙秘を貫いたが、意味なんかなかったと思う。


 口を閉ざすことはできても、肩が震えるのは止めることができなかったから。
 そして宮地は、俺の言葉よりもそんな仕草や反応を見ていたはずだから。


「ねぇ、先輩。一つ聞かせてください。」


 俺を追い込んだ宮地は、いっそ静かだった。


「オレと最後に寝たあの日から、誰かと遊びました?」
「え…? ……あ…っ」


 問われた俺は、きっとものすごく間抜けな顔をしていただろう。


 答えられなかった。
 それは、答えがイエスだからじゃない。


 答えはノー。
 その事実を俺自身が今しがた認識したということに、心底驚いてしまったのだ。


 そうだ。
 そういえば、あの日から誰とも遊んでいなかった。
 遊ぼうとすら思っていなかった。


 最近は仕事の調子がよすぎて、帰り道でも家でもそのことしか考えていなかったのだ。


 あの日にしつこいほどつけられたキスマークも消えて、宮地とも距離が離れて……
 思えば、今こそがやりたい放題だったはずなのに。


「……そうですか。脈ありってことなら、本気で迫っても問題ないですね。」


 俺の瞳で渦巻く動揺から、答えを導き出したのだろう。
 宮地が、どこか嬉しそうに口の端を吊り上げた。


 いやいや!
 脈ありって何!?
 飲まれそうになってんじゃねぇぞ、俺!!


 宮地の発言からゆうに五秒。
 俺はかなり遅れて慌て始めた。


「お前、ふざけ―――」
「先輩。」


 その刹那、宮地の手が強引に俺のあごを捕らえた。
 舌を噛みそうになった俺は、まんまと口をつぐんでしまう。


「逃げないでくださいよ、。」
「―――っ」


 下の名前を呼ばれ、俺は完全に怯む。
 宮地はそんな俺に、真剣なまなしを注いでいた。


「逃げないで、ちゃんとオレを見てください。その上でフラれたんなら、その時は食い下がらずに諦めます。それまでは、力ずくでも攻め続けますからね。」


 俺は、息を飲むしかなかった。


 この言葉は冗談じゃない。
 そんなの、恋愛感情を切り捨てた俺にだって分かる。


 だめだ。
 抗えるわけがない。


 飲まれる。
 飲み込まれる。




 溺れる―――……



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