ここから先は立入禁止!~年下ワンコに翻弄されてます~

うみくも

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8thアクシデント 仕掛け合い!?嫉妬とスリルの初デート!!

特大の不意打ち

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(やばい……オレ、すっごくガキ!!)


 どうせならと陣取った、観覧席の最前列。
 そこでイルカショーの開演を待つオレは、全力で頭を抱えていた。


 隣の悟さんは再びのどあめを舐めながら、ぼーっとした目で空を眺めている。
 ちょっと疲れをにじませた表情もまた、大変魅力的なことで。


 ―――だからオレが、嫉妬しっとで狂いそうになってんだけどね!?


 会社でも根強い人気を誇っている悟さんだけど、外でもこんなに人目を集めてしまうなんて。


 会社の場合は悟さん自身が恋愛や結婚に興味なしと公言しているのもあり、鑑賞用の王子様で落ち着いているからまだいい。


 だけど、それを知らない有象無象の場合はどうだ?
 今日だけで、何人が偶然の接触を試みたり、声をかけようとしたと思う?


 悪いけど、この人はオレのだから!!


 ナンパの気配を察知する度に、悟さんを引き寄せたり手を繋いだりで相手を牽制。
 思い切り鼻の下を伸ばしてたクソ親父には、きっつい一瞥いちべつをくれてやったさ。


 本当にもう、あなたは虫という虫を引き寄せる花なんですか?
 今まで家に引きこもっていてくれて、ありがとうございます。


 いやね?
 ナンパの中には、オレ目当ての人がいたことも分かってるんです。
 悟さんなら、絡まれたとしてもドライにあしらって終わりというのも理解してます。


 だけどね、悟さんにそういう目を向けられること自体が不愉快なの。
 この気持ち、お分かり?


 他のみんなは、こんなもやついた気持ちと戦いながらデートをしてるわけ?
 それとも、オレが嫉妬しっと深いだけ?


(ああもう、自分でも引くくらいにベタ惚れじゃん。悟さん、引いてないかな…?)


 基本的にはドライで周りに無関心な悟さんだけど、同僚や取引先といった関係を保たなきゃいけない相手の機微には人一倍敏感だ。


 時々オレを不思議そうに見上げてくる辺り、オレの様子がおかしいことには十中八九気付いているだろう。


 渦巻きを描き出さないからイライラはしてないはずなんだけど、だからといって引かれていないことにはならない。


 というか、オレはなんで今のうちから言い訳の準備を始めてるのさ。
 それこそ、悟さんにいい格好を見せたい自分のガキっぽさが際立ってるじゃん。


 悶々もんもんと悩むオレの耳に、ショーの開演を告げるアナウンスが響き渡る。


 うん、続きはショーが終わった後にしよう。
 ここは冷たい海水の一発でも浴びて、心頭を滅却した方がいい。


「悟さん。ここ結構派手に水が飛んでくるんで、ちゃんとガードしてくださいね。」
「んー。」


 レインコートとは別に配られたビニールシートを掲げて言うも、悟さんはあめを舐めながら生返事。


 一応、オレが悟さんをかばう心づもりでいようっと。


 そうして始まったイルカショー。
 この時ばかりは、周囲の皆が巨大水槽で繰り広げられる技の数々に夢中。
 オレもそれまでのもやもやを忘れて、普通にショーを楽しんでいた。


 そんなんだから―――完全に油断していたんです。


「いった……」


 耳朶じだを打ったのは、小さなうめき声。
 隣を見れば、悟さんが目を押さえてうつむいている。


「悟さん!? もしかして、海水が目に入っちゃいました!?」
「かもしれん……」
「えっと、どうしよう…っ」


 本当ならすぐに真水で目を洗うべきなんだけど、タイミングと場所がよろしくない。
 ショーの真っ最中かつ最前列のど真ん中では、動きたくても動けない。


「さあ、スイ君から皆さんへ海水のプレゼントです! 前から三列目くらいまでの方は、心の準備をしてくださいねー♪」


「うえぇっ!?」


 これまたバッドなタイミングで!
 悟さんの様子は気になるけど、ずぶ濡れへのカウントダウンに待ったなし!!


「悟さん! とりあえず、目を閉じててくださいね!? オレが全力で守るんで!!」


 うずくまったままの悟さんにそう言って、ひとまずは襲いくる予定の海水に備えてシートをスタンバイ。


 尾びれで水面を叩きながら迫ってくるイルカがオレたちの前に来た瞬間―――細い手がオレの首筋に触れて、思い切り頭を引き寄せられた。


「―――っ!?」


 オレの中で、世界が停止する。


 大きく広げたシートを、大量の水が叩きつける。
 それでも完全防御とはいかず、シートをかいくぐっていくつもの水滴が飛んでくる。


 周囲の人々はその水滴を避けるために顔をらしながら、甲高い悲鳴をあげて笑う。




 誰もが視界を閉ざして、一瞬の高揚感に意識を奪われる中―――シートの裏では、二つの唇が重なり合っていた。




 間髪入れず、遊ぶように舌が絡んでくる。
 そして、何かがコロンと口腔内に落とされた。


「―――スリルっていうなら、このくらいは必要なんじゃないか?」


 オレから顔と手を離した悟さんは、妖艶な微笑みを浮かべて自身の唇をペロリと舐めた。


「~~~~~っ!?」


 一瞬で全身が沸騰する。
 思わず、口移しで渡されたあめを飲み込みかけてしまった。


「ふぇ…? スリルって…?」


「ん? 俺たちの関係がばれるかばれないかの駆け引きをしたいから、やたらとベタベタしてきたんじゃないの?」


「そ、それは……」


「なんかどんどんエスカレートしていくから、合わせるなら次はこのレベルだろうと思って仕掛けたんだけど、お気に召さなかったか?」


「そう来たか…っ!!」


 すごい!
 見事に斜め四十五度上!!


 オレの不自然な態度をそうとらえたことも予想外なら、そこに引くんじゃなくて乗っかってくることも予想外だっての!!


(だめだ! この人には敵わない!!)


 不意打ちを食らったオレは、嬉しさ半分恥ずかしさ半分で撃沈。
 その隣で、元の無表情に戻った悟さんは平然とショーを眺めている。


 ちょっと待って!
 一人で満足して通常モードに戻らないで!!
 なんか、オレばっかり翻弄ほんろうされてません!?


 もう、もう、もおおおぉぉぉーっ!!

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