初夜すら私に触れようとしなかった夫には、知らなかった裏の顔がありました~これって…ヤンデレってヤツですか?

蜜柑マル

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サフィールドさんにソルマーレ国に連れてきてもらって、1ヶ月が過ぎた。急に現れた私にビックリしながらも、伯父家族は快く迎え入れてくれた。

着いてすぐ、ジルコニア夫妻と実家に向けて手紙を書いた。実家には故あって伯父の家にお邪魔している、いつ帰るかはまだ決まっていない、とだけ書いた。なんの理由だと聞かれたらどうしようかと悩んでいたが、返事にはそんなことは全く書いておらず、「ソルマーレ国にしかない薬草を発見したら根っこごと送れ」という欲望丸出しのことしか書いていなかった。密輸にあたるのではないのか。娘を犯罪者にするかもしれないということより、自分の欲求に忠実な家族に苦笑いを浮かべるとともに、私もそうしていたはずなのにとふいに思った。

いきなり「愛を求められても困る」と言われて面食らい、そこで諦めてしまって「私はこうしたいと思っている」と伝えることをしなかった。思い返せば、夫婦として…たとえ愛のない政略結婚であっても、せめて同居人ならば会話を交わしても良かったはず。フェルナンド様の言葉に萎縮して、ただ静かに嵐をやり過ごそうとしていた、…はじめに拒絶したフェルナンド様が悪いと思うけど。

サフィールドさんに言われたように、何か事情があるのなら。とにかく話を聞くだけは聞くべきなのかもしれない。このまま逃げていても、…結局離縁は成立していないのだし。

ジルコニア夫妻からは、「こちらを気にすることはない、ゆっくりしておいで」という返事がきた。あの件については、なんにも触れられていなかったことに拍子抜けした。フェルナンド様についても、アマンダについても、一言もなく、「ユリたんが帰ってきたら最近出来たカフェにケーキを二人で食べに行こう」と書いてあった。そのすぐ後に、「やはりシャルも誘うことにします」と書かれていた。…書かされたのだろうか。相変わらず、仲の良い夫婦である。羨ましい、と。溢れ出るようにそう思った。私がフェルナンド様の話を聞いたら、今までの関係を変えることができるのだろうか。フェルナンド様は、私を妻として、隣に置いてくれるのだろうか。ジルコニア夫妻のように、仲良くなろうとしてくれるのだろうか…。

そして今日、…フェルナンド様からの手紙が届いた。

宛名に『ユリアーナ・ジルコニア』と書かれていて、やはりまだ離縁の手続きをしていないのだと思う心に、ほんの少しホッと安堵する気持ちがあることに戸惑いを覚える。あんなに離縁する、と思っていたくせに、…あの時のフェルナンド様の必死な顔が、必死な声が、忘れられない。私は希望を持ってもいいのだろうか。フェルナンド様が私を隣に置いてくれるという希望を。

封筒の裏に書かれた『フェルナンド・ジルコニア』という名前をそっとなぞりながら、そう言えば彼が書く文字を見るのも初めてかもしれないと思い、本当に私たちは3年も何をしてきたのだろうとおかしくなる。学園では声をかけるなと言われたのをいいことに私は研究三昧だったし、フェルナンド様の好きなものや、未だに彼の仕事のことも何も知らない。

最初から間違っていたのだから仕方ないけれど。そう思いながら手紙を開いた。男らしい、武骨な、でも美しい文字がそこには並んでいた。

『愛しい俺のユリアーナへ』

その一行を見て思わずパチッと便箋を閉じる。…いま、なんて書いてあった…?

恐る恐るそっと開き直す。

『愛しい俺のユリアーナへ

こんなことを書くとまた「相手を間違えてる」とキミは怒るかもしれないな。でもこれが、俺の飾らない気持ちだ。あの女は、ユリアーナが言った言葉を借りればそれこそ「虫けら」以下でしかない。

3年前の婚約の日から、今まで本当に申し訳なかった。自分の本意ではないとは言え、キミになんの気持ちもないように振る舞うのはツラかった。

こんなことを言ったところで信じてもらえないのは充分承知している。だが、言い訳だと言われてもキミに伝えたい。俺は、キミを愛している。俺が不貞を働いていないことはあの指輪が証だ。キミと直接話したい。そしてどうか、キミに触れることを赦して欲しい。帰ってきてほしい。

キミは覚えていないだろうが、俺たちはずいぶん昔一度会っているんだ。あの時俺は、キミに恋をした。それからキミだけをずっと想ってきた。キミと結婚したのは政略なんかじゃない、俺の我儘でキミをおれの妻にしたんだ。

愛している、ユリアーナ。愛している。

どうか、帰ってきて欲しい。待っているから。

愛している。

キミが死ねと言うなら、そんなにも憎ませてしまったのなら、いつでもこの命を捧げるつもりだ。ただ、最期だと憐れんでくれるのならば、話を聞いて欲しい。

愛している。ユリアーナ

          フェルナンド』

…顔が熱い。こんなにストレートな言葉を並べられ、平静でいられるはずがなかった。文字なんて、言葉なんて、いくらでも偽ることができる。何か理由があって、私を利用するために手元に戻すため、騙すために心にもないことを書いただけかもしれない。でも、この美しい文字に、私の心は捕らえられてしまった。たとえ嘘だったとしても、騙されたなと嘲笑われても、もう一度だけ、フェルナンド様に会ってみようと思った。

便箋を取り出し、短く認める。

『 一度そちらに戻ります 』と。
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