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3.教室
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昨夜はあまり寝られなかった。
なんとなく分かっていたが、同室のやつは帰ってこないままだった。
寝た時間はわからない。
気がつけば、部屋の灯りは消え、窓からは出たばかりの朝日が部屋の中を照らしていた。
「……6時前……」
約束は7時半、それまでに用意をして食堂に行けばいい。もう一眠りだけしたい、そうは思いつつも頭はもう冴えてしまっていて、布団の中で寝返りを打つ。見慣れない部屋だ、いつかは見慣れるんだろうけど今はまだ他人の部屋みたいで落ち着かない。
諦めてノロノロと起き出し、まだ袖を通していないビニールの袋を被ったままでクローゼットにかけてある制服を見た。なんの変哲もないよくあるブレザーだ。
前はネクタイがあったが、この制服にはないようだ。その代わりあまり見かけないループタイという形のネクタイのようなものが配布されていた。これの使い方はよくわからないから、後で向かいのやつに聞くとして。
他に必要なものは、両親がすでに用意して送ったというので、段ボールに入ったままにしていた。シャツや体操着などはいくつか枚数がある。
指定された鞄を取り出し、他はと段ボールを漁ると、指に痛みが走る。
「った……」
何かと思って痛みのあった場所を見ると、そこには小さな校章が象られたピンバッチが針をむき出しに入っていた。その先端は先ほど貫いた俺の血でうっすら染まっている。腹が立ったが、ピンバッチを摘んで制服の襟に付ける。前の学校はピンバッチがないだけで内申点を下げる教師がいてウザかったからだ。
そんなことをしていると、時間はすでに7時を回っていた。
俺は慌ててシャツに腕を通し、鞄を引っ掛けて廊下へと出た。昨日と風景が変わり、廊下には幾人かの生徒がいて、雑談や何かをしている。
一気に緊張して来た。昨日は人に会わないからあまり気にしてなかったが、人といるのは酷く緊張する。軽く会釈しながら、他の生徒の間を縫い俺は廊下を駆け降りる。
食堂に駆け込むと、そこにも何人かの生徒が談笑しながら朝食を食べている。
時計は7時25分だ。
見渡してみるが、どうやらあいつはいないようだ。どうする?勝手に1人で好きなところに座っていいんだろうかと悩んでいると。
「お、早いな。おはよう」
あいつがだいぶ着崩した制服を着て声をかけてくる。ループタイはなく、シャツは全て出しているかと思いきや、一部はズボンの中にインしている。シャツの洗濯を間違えたのか少しヨレヨレしているし。
でもそいつの元々かっこいい顔が、そんな着こなしもありかも?という感じにさせてくれる。イケメンって強い。
「……あぁ、おはよう」
昨日と同じように、2人でトレイを持ち好きな席に座った。今日のメニューは食パンと、フルーツサラダにヨーグルト、後はバターやジャムは取り放題だった。
「バターとジャム混ぜると美味しいよな」
と、そいつは小袋に入ったそれらを食パンにぶちまけるをみつつ、俺はバターを食パンに塗った。
「あ、教室ってどこだろう、俺、一年なんだけど……」
教室に行くのは少し怖い。転校生ってあれだろ、自己紹介しなきゃならない。人前で喋るのは苦手なんだよなぁ。
「知ってる、その変なヒモみたいなネクタイの色でわかるんだよ、あとバッジでクラスがわかる。お前は…1-Cクラスだな。俺は……あ、ネクタイ忘れた」
そこになって自分がネクタイしてないことに気がついたらしい。ただ、取りに行くかと思えばそのままジャムとバターがたっぷり乗った食パンを齧りだす。
意外とここは校則は厳しくないのか?というか、こいつは何年生なんだろう。上の学年なら、タメ口聴いたらダメとかあるのかな?
「お前さ、ネクタイとか服装はちゃんとしてろよ。目立たずだ。ここで生き残るには……な!」
ダルダルな格好のお前に言われたくないと思いつつ、食パンを齧る。
「あと、名前は言うなよ。後で面倒なことになるからな」
「え?」
「とにかく、職員室にいけばわかるだろ、さ、ご飯さっさと食べちゃおうぜ」
それからは何か聞きたいけど、空気感がどうにも聞いちゃいけないみたいになって、急いで食パンを口に突っ込んで牛乳で流していく。
トレイを戻し、向かいのやつについて、寮から出る。指定の靴がまだ足になじまず固くて、校舎までの道のりで嫌になった。
校舎も寮と同じくどこか外国の建物みたいに浮世離れしていた。ただ、玄関を潜ればよく知るような靴箱がたくさん並んでいる。
「靴箱は、あとでおしえてもらえるだろ、そこら辺に置いといて、早く職員室行こうぜ」
さっさと靴を履いて行ってしまうあいつの背中を追って俺も急いで靴を履き替えた。
職員室もよくある感じで、所狭しと机が並んでいて、何人かの先生が、忙しそうに何かをしている。あいつが、話をつけてくれたのかわからないが、先生としては少し若い30代くらいの男が俺の目の前にやってくる。
「お、お前が転入生か、クラス担任だ」
担任が色々と話し出したのを察したのか、あいつは俺の方を叩いて無言で去っていき、急に心細さががやってくる。
担任に連れられて、知らない廊下を歩く。あれほど誰もいなかったのに、廊下をすれ違う生徒の数は多く、中には部活帰りなのか制服ではなく体操着のやつもいた。
「君はなんか、やってた?私は、水泳部の顧問だから気になったら見学に来てくれよ」
なんてどうでもいい会話をしていると、教室に着いたようだ。教室の中からはザワザワと会話と人の気配がする。担任に呼ばれるまでここでと、合図され頷く。
「おはよう、席座れー、ホームルーム始めるぞー」
担任が教室のドアを開けたことで、ザワザワとした会話が消え、しんっと静まる。
そのタイミングで担任に手招きされ、教室に一歩踏み入れた。
ザワッ。
どう表現していいのかわからない。静かなはずの教室。座っている生徒たちからの視線。それらが全て自分に突き刺さる。誰も口を開いていないのに、小声で噂をされているようかそんな気分にさせられる。
「転校生だ、仲良くなー、転校生の席は、あ、そうそう一番後ろの空いてるところだ。周りのやつも助けてやれよ」
覚悟をしていた自己紹介タイムはなく、そのまま机に案内される。
机につくまでのほんの短い時間。教室中の視線が自分の身体にまとわりつき気持ち悪い。
なんの変哲もないその机に座り、教科書入りの鞄を足下に置いた。
視線は変わらずある程度あったが、席についたと同時だいぶ落ち着いた。
なんなんだ、興味本位とも違う何かゾワゾワする視線。意味がわからない。生まれて初めて、危機感を感じた。
「……あいつが、今度の……」
誰かのつぶやきが聞こえる。無視して、教科書を机に入れようとすると、机の中に何かが入ってる。
机の上に取り出してみた。それは見覚えのある封筒で、違うとすれば昨日は封をしているシールがリンゴだったのが、これは蛇のシールになっている。
宛先はなかった。
その封筒を見て、なにより動揺したのは生徒ではなく、担任で。
「……お前、それ!……今日の4限のホームルームは、緊急ミサに変更になります。教室でなく、ホールでやるぞ。転校生もそのつもりで」
なにがなんだかわからないまま、俺は頷く。そして、なんとなくこの封筒を隠すように机にしまい直す。
先ほど少し落ち着いたはずの視線が、またたくさん俺の体に突き刺さる。舐めるようなそんな。知らない視線……。
ハッと気がつく。ああ、これ、性的に見られてるんだ。男しかいない空間では、そう言うことも多いと聴いたことがあった。いや、いやいや、だって俺の容姿は10人並みだ。あの向かいの奴が言い寄られる様子は想像がつくが、俺が?
「……いや、気持ち悪……」
なんとなく分かっていたが、同室のやつは帰ってこないままだった。
寝た時間はわからない。
気がつけば、部屋の灯りは消え、窓からは出たばかりの朝日が部屋の中を照らしていた。
「……6時前……」
約束は7時半、それまでに用意をして食堂に行けばいい。もう一眠りだけしたい、そうは思いつつも頭はもう冴えてしまっていて、布団の中で寝返りを打つ。見慣れない部屋だ、いつかは見慣れるんだろうけど今はまだ他人の部屋みたいで落ち着かない。
諦めてノロノロと起き出し、まだ袖を通していないビニールの袋を被ったままでクローゼットにかけてある制服を見た。なんの変哲もないよくあるブレザーだ。
前はネクタイがあったが、この制服にはないようだ。その代わりあまり見かけないループタイという形のネクタイのようなものが配布されていた。これの使い方はよくわからないから、後で向かいのやつに聞くとして。
他に必要なものは、両親がすでに用意して送ったというので、段ボールに入ったままにしていた。シャツや体操着などはいくつか枚数がある。
指定された鞄を取り出し、他はと段ボールを漁ると、指に痛みが走る。
「った……」
何かと思って痛みのあった場所を見ると、そこには小さな校章が象られたピンバッチが針をむき出しに入っていた。その先端は先ほど貫いた俺の血でうっすら染まっている。腹が立ったが、ピンバッチを摘んで制服の襟に付ける。前の学校はピンバッチがないだけで内申点を下げる教師がいてウザかったからだ。
そんなことをしていると、時間はすでに7時を回っていた。
俺は慌ててシャツに腕を通し、鞄を引っ掛けて廊下へと出た。昨日と風景が変わり、廊下には幾人かの生徒がいて、雑談や何かをしている。
一気に緊張して来た。昨日は人に会わないからあまり気にしてなかったが、人といるのは酷く緊張する。軽く会釈しながら、他の生徒の間を縫い俺は廊下を駆け降りる。
食堂に駆け込むと、そこにも何人かの生徒が談笑しながら朝食を食べている。
時計は7時25分だ。
見渡してみるが、どうやらあいつはいないようだ。どうする?勝手に1人で好きなところに座っていいんだろうかと悩んでいると。
「お、早いな。おはよう」
あいつがだいぶ着崩した制服を着て声をかけてくる。ループタイはなく、シャツは全て出しているかと思いきや、一部はズボンの中にインしている。シャツの洗濯を間違えたのか少しヨレヨレしているし。
でもそいつの元々かっこいい顔が、そんな着こなしもありかも?という感じにさせてくれる。イケメンって強い。
「……あぁ、おはよう」
昨日と同じように、2人でトレイを持ち好きな席に座った。今日のメニューは食パンと、フルーツサラダにヨーグルト、後はバターやジャムは取り放題だった。
「バターとジャム混ぜると美味しいよな」
と、そいつは小袋に入ったそれらを食パンにぶちまけるをみつつ、俺はバターを食パンに塗った。
「あ、教室ってどこだろう、俺、一年なんだけど……」
教室に行くのは少し怖い。転校生ってあれだろ、自己紹介しなきゃならない。人前で喋るのは苦手なんだよなぁ。
「知ってる、その変なヒモみたいなネクタイの色でわかるんだよ、あとバッジでクラスがわかる。お前は…1-Cクラスだな。俺は……あ、ネクタイ忘れた」
そこになって自分がネクタイしてないことに気がついたらしい。ただ、取りに行くかと思えばそのままジャムとバターがたっぷり乗った食パンを齧りだす。
意外とここは校則は厳しくないのか?というか、こいつは何年生なんだろう。上の学年なら、タメ口聴いたらダメとかあるのかな?
「お前さ、ネクタイとか服装はちゃんとしてろよ。目立たずだ。ここで生き残るには……な!」
ダルダルな格好のお前に言われたくないと思いつつ、食パンを齧る。
「あと、名前は言うなよ。後で面倒なことになるからな」
「え?」
「とにかく、職員室にいけばわかるだろ、さ、ご飯さっさと食べちゃおうぜ」
それからは何か聞きたいけど、空気感がどうにも聞いちゃいけないみたいになって、急いで食パンを口に突っ込んで牛乳で流していく。
トレイを戻し、向かいのやつについて、寮から出る。指定の靴がまだ足になじまず固くて、校舎までの道のりで嫌になった。
校舎も寮と同じくどこか外国の建物みたいに浮世離れしていた。ただ、玄関を潜ればよく知るような靴箱がたくさん並んでいる。
「靴箱は、あとでおしえてもらえるだろ、そこら辺に置いといて、早く職員室行こうぜ」
さっさと靴を履いて行ってしまうあいつの背中を追って俺も急いで靴を履き替えた。
職員室もよくある感じで、所狭しと机が並んでいて、何人かの先生が、忙しそうに何かをしている。あいつが、話をつけてくれたのかわからないが、先生としては少し若い30代くらいの男が俺の目の前にやってくる。
「お、お前が転入生か、クラス担任だ」
担任が色々と話し出したのを察したのか、あいつは俺の方を叩いて無言で去っていき、急に心細さががやってくる。
担任に連れられて、知らない廊下を歩く。あれほど誰もいなかったのに、廊下をすれ違う生徒の数は多く、中には部活帰りなのか制服ではなく体操着のやつもいた。
「君はなんか、やってた?私は、水泳部の顧問だから気になったら見学に来てくれよ」
なんてどうでもいい会話をしていると、教室に着いたようだ。教室の中からはザワザワと会話と人の気配がする。担任に呼ばれるまでここでと、合図され頷く。
「おはよう、席座れー、ホームルーム始めるぞー」
担任が教室のドアを開けたことで、ザワザワとした会話が消え、しんっと静まる。
そのタイミングで担任に手招きされ、教室に一歩踏み入れた。
ザワッ。
どう表現していいのかわからない。静かなはずの教室。座っている生徒たちからの視線。それらが全て自分に突き刺さる。誰も口を開いていないのに、小声で噂をされているようかそんな気分にさせられる。
「転校生だ、仲良くなー、転校生の席は、あ、そうそう一番後ろの空いてるところだ。周りのやつも助けてやれよ」
覚悟をしていた自己紹介タイムはなく、そのまま机に案内される。
机につくまでのほんの短い時間。教室中の視線が自分の身体にまとわりつき気持ち悪い。
なんの変哲もないその机に座り、教科書入りの鞄を足下に置いた。
視線は変わらずある程度あったが、席についたと同時だいぶ落ち着いた。
なんなんだ、興味本位とも違う何かゾワゾワする視線。意味がわからない。生まれて初めて、危機感を感じた。
「……あいつが、今度の……」
誰かのつぶやきが聞こえる。無視して、教科書を机に入れようとすると、机の中に何かが入ってる。
机の上に取り出してみた。それは見覚えのある封筒で、違うとすれば昨日は封をしているシールがリンゴだったのが、これは蛇のシールになっている。
宛先はなかった。
その封筒を見て、なにより動揺したのは生徒ではなく、担任で。
「……お前、それ!……今日の4限のホームルームは、緊急ミサに変更になります。教室でなく、ホールでやるぞ。転校生もそのつもりで」
なにがなんだかわからないまま、俺は頷く。そして、なんとなくこの封筒を隠すように机にしまい直す。
先ほど少し落ち着いたはずの視線が、またたくさん俺の体に突き刺さる。舐めるようなそんな。知らない視線……。
ハッと気がつく。ああ、これ、性的に見られてるんだ。男しかいない空間では、そう言うことも多いと聴いたことがあった。いや、いやいや、だって俺の容姿は10人並みだ。あの向かいの奴が言い寄られる様子は想像がつくが、俺が?
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