闇に堕ちた公爵令嬢:ゴブリンの呪印

文字の大きさ
4 / 12

第3話 偽りの微笑み

しおりを挟む
クロエは朝の光が差し込む中、学園の校門をくぐった。いつも通りの穏やかな朝。彼女の表情には微笑が浮かんでいるが、その心はまるで薄氷の上を歩いているかのように不安定だった。昨夜もゴブリンの命令に従わざるを得ず、屈辱にまみれた夜を過ごしたことを、誰にも知られることなく、今こうして平然と振る舞わなければならない。

学園の生徒たちは、彼女の笑顔に応じて自然に集まり、彼女を中心に会話の輪ができる。クロエはその一員として、楽しげに友人たちと談笑していた。しかし、その笑顔はすべて偽りであり、胸の奥底には重く暗い秘密が沈んでいる。

「クロエ、今日も一段と綺麗ね。新しいドレス?それとも魔術の影響かしら?」

友人のエレナがそう言って微笑む。クロエは微笑みを返しながら、心の中で自分を押し殺す。

「ありがとう、エレナ。でも、特別なことは何もないわ。ただ、少しだけ工夫しただけ。」

言葉を交わすたび、クロエは自分の中に広がる虚しさを感じていた。彼女はみんなに笑顔を見せ、普通の生活を演じているが、心の中ではゴブリンの存在が重くのしかかっている。彼が屋敷にいることを考えるだけで、身体が強ばり、心臓が早鐘のように打ち始める。

午前の授業が終わり、クロエは次の教室へと向かう途中、ふと自分の背後に誰かの視線を感じた。振り返ると、そこには第一王子のレインハルトが立っていた。彼はいつも通りの優雅な笑みを浮かべていたが、その眼差しにはクロエを見つめる鋭い光が宿っていた。

「クロエ、少し時間をもらえるかな?」

王子の声は穏やかだったが、その声に込められた微かな違和感を、クロエは感じ取った。彼はいつもと変わらぬ態度で話しかけてくるが、その奥に何かを探ろうとしているような気配があった。

「もちろん、殿下。何かご用ですか?」

クロエは微笑みを浮かべながら答えたが、内心は緊張で張り詰めていた。もし王子が彼女の秘密に気づいていたらどうしようか。もし、ゴブリンの存在が露見してしまったら…。その考えが頭をよぎり、クロエは息を詰めた。

「最近、君が少し疲れているように見えるんだ。何か心配事でもあるのか?」

王子は優しく問いかけた。彼の眼差しは真剣で、クロエの内心を見透かそうとしているように感じられた。クロエはその視線から逃れることができず、心の中で冷や汗が流れるのを感じた。

「いいえ、殿下。少し学業に集中しすぎたのかもしれません。心配には及びませんわ。」

クロエは何とか言葉を絞り出し、王子に笑顔を見せた。その笑顔は完璧なものだったが、内心では心臓が激しく鼓動していた。もし、この場で王子に何かを察されてしまえば、すべてが終わってしまうかもしれない。そう思うと、恐怖で身体が震えそうになるのを必死に堪えた。

「そうか…。無理はしないでくれ。君が困っていることがあれば、何でも言ってほしい。僕は君を助けたいんだ。」

王子は優しい声でそう言い、クロエの手を軽く握った。その瞬間、クロエの心に一筋の痛みが走った。彼の優しさが、彼女にとってどれほど重荷であるかを痛感したからだ。クロエは、王子に対して真実を打ち明けることができない自分を激しく責めた。

「ありがとう、殿下。とても心強いお言葉です。」

クロエはそう答えたが、その声はどこか震えていた。王子がその微妙な変化に気づいたかどうかはわからない。だが、クロエはすぐにその場を立ち去りたくなった。彼の前でこれ以上、偽りの笑顔を保ち続けることができそうになかったからだ。

その日の午後、クロエは授業に集中するふりをしながら、頭の中では別のことを考えていた。夜になれば、再びゴブリンの命令に従わなければならない。その屈辱的な行動が、彼女の精神を蝕んでいくのがわかる。そして、昼間は何事もなかったかのように、こうして学園で普通の生活を送らなければならない。クロエは自分が二つの異なる世界の間で引き裂かれていくような感覚に陥っていた。

授業が終わり、屋敷へと帰る道すがら、クロエは心の中で重荷を感じていた。ゴブリンが今も屋敷にいる。その事実が彼女を苦しめていた。夜が訪れれば、再び屈辱的な命令を受け、それに従わなければならない。クロエはそれを考えるだけで、胸が押しつぶされそうになるのを感じた。

「偽りの微笑み…。」

クロエは自分の中でその言葉を呟いた。今、自分が見せている笑顔は、すべて偽りのものだ。誰にも本当のことを話せないまま、彼女はこの重荷を背負い続けるしかない。クロエは屋敷へと向かう足を重くしながら、自分の運命を受け入れるしかないことを痛感していた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

肉食御曹司の独占愛で極甘懐妊しそうです

沖田弥子
恋愛
過去のトラウマから恋愛と結婚を避けて生きている、二十六歳のさやか。そんなある日、飲み会の帰り際、イケメン上司で会社の御曹司でもある久我凌河に二人きりの二次会に誘われる。ホテルの最上階にある豪華なバーで呑むことになったさやか。お酒の勢いもあって、さやかが強く抱いている『とある願望』を彼に話したところ、なんと彼と一夜を過ごすことになり、しかも恋人になってしまった!? 彼は自分を女除けとして使っているだけだ、と考えるさやかだったが、少しずつ彼に恋心を覚えるようになっていき……。肉食でイケメンな彼にとろとろに蕩かされる、極甘濃密ラブ・ロマンス!

金髪女騎士の♥♥♥な舞台裏

AIに♥♥♥な質問
ファンタジー
高貴な金髪女騎士、身体強化魔法、ふたなり化。何も起きないはずがなく…。

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

処理中です...