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Chapter2
6:導体
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ばーちゃんが指を立てました。
「考えてみなって。この町よりも寺や神社が少ない町はたくさんあるだろ? でもそこは大体平和なはずさ。違うかい? つまりは、この町に原因がある。
いや、正確に言うと、この町は『そういう町』なんだろうさ」
そういう町、と皆が小さく囁き合いました。
つまりは――そういう事が、起きてしまう町。
そういう事が起きやすいから、結界を張る。
「ここからは『そういう町』で長年生きてきた私、いや、私らが立てた仮定の話をするとしようか。
あの世、向こうの世界、まあ、呼び方は何でもいいんだけど、私らの世界の隣には、まったく別の世界があるっぽい。それは、こんな風に――」
ばーちゃんは壁にかけてあったホワイトボードに一本の線を描き、その上に重ねてS字の曲線を描きました。
「所々、うちらの世界と交差しているんじゃないかな?
で、交わってる所が『そういう場所』とか『そういう町』なんて呼ばれる、と。
勿論交わってると言っても、立体交差みたくすれ違ってるだけだと思うんだけどね。
でも、そうだな……使い古された自転車のチューブみたいに、どっちの世界も所々で『何かが漏れる』事があるんだと思う。だから穴を塞ぐんだけど、ちゃんと塞がないと――」
ヒョウモンさんがごくりと息を飲みました。
「同じところからまた漏れる……あ、穴の周りもダメになってる事が多いから、もっと大きな穴が開くかもしれない!」
ヤンさんが僕を指差しました。
「そこで、オッサンはどう絡むんだ?」
「この子は――別の世界に接触する時に、近くにいる、もしくはこの子が関係した物を通して他人に別の世界を認識させることができる。『導体』とでも言おうかな?」
オジョーさんがポンと手を打ちました。
「なるほど! 監督さんは例えるなら、自転車屋さんのオッサンなんですね!
チューブを水に沈めて、ぶくぶく~と漏れてる空気を他人に見せられる存在なんですね!」
ばーちゃんが、目をぱちぱちさせて僕を見たので、僕はそれでいいですと答えました。
「ま、まあ、そんな感じ、かね? ともかく、あたしはそれに気づき、この子に見張りをやらせようと考えた。去年からこっち、妙な噂が耳に入るようになってきたからね。ああ、また始まったか、と」
オジョーさんが、また? と呟きました。ヤンさんが肩をぼりぼり掻きました。
「俺ぁ、ガキの頃、小耳に挟んだことがあるぜ。そういう連中がいて、町を守るために戦ってるってな」
ヒョウモンさんは頬をひくひくさせて小さく笑いました。
「そ、そんな漫画みたいな人たちがいるわけないじゃん。いたら会ってみた――」
ばーちゃんは肩を竦めました。
「そうねえ――例えばあんたらの担任とか?」
ヒョウモンさんは、はい? と間抜けな声を出しました。
委員長は、マジか、と小さく呟きました。
まあ、闘うってのは少しオーバーだな、とばーちゃんは笑いました。
「あたし達がやってたのは、あくまでも見張りだからね。
最期はあたしたち大人、警察、坊主、神主の出番さ。ただ、いつもサキブレに気づくのは――」
「子供、なんだね?」
僕がそう言うと、ばーちゃんは深く溜息をつきました。
「委員長ちゃんがね、結界の話をしてきた時は、やっぱりねえと思ったものよ」
委員長は片眉を上げただけでした。
「あたしが子供の頃はゲームとか無かったから、そういう事に素早く思いが至る人が殆どいなくてね、でも、ゲームとか漫画とかネットとか大量にある今の時代だと、そういう事に気づく子がとても多いんだよね。
でも、そういう事に気づく子ってのは……何かしら理由を抱えてる子が多い」
部屋がしん、としました。
ヤンさんとオジョーさんが互いに目配せをしました。まだ本人達から聞いてはおりませんが、きっと二人で僕達の事を色々と話し合っていたのでしょう。
ヒョウモンさんが僕に視線を飛ばしてきました。僕は頷くと縦膝になりました。
まだ、それは早い。きっと、いつか委員長の方から打ち明けてくれるはず。そう口を開こうとしたのを、委員長がさっと手で制してきました。
いいよ、と小声で言うと、僕にちょっと微笑みました。
うーん、そういう顔をされてしまうと、もう何も言えませんでしたね、僕は。
委員長は立ち上がると、前に出て軽く頭を下げました。
あれ? と思いました。急に、というか、妙に委員長が大人っぽく見えたんです。それでいて、目がキラキラしている。
「私は、母を助ける手段を探す為にこの撮影に参加していました」
ああ、やっぱり、という僕の呟きに委員長は軽く頷きました。
「今、私の母は昏睡状態です。近くのお医者さんからの紹介で大きな病院に入院していますが原因は不明です。実はこの町では――」
委員長はあの紙を出しました。
あの橋の上で見せてもらったローカル新聞の記事のコピー、『相次ぐ、不審死』というあれです。紙を回し読みした皆がざわつく中、オジョーさんが手を挙げ、あの、凄く単純な質問なんですが、と言いかけたのを委員長が手で制しました。
「わかってます。これは病気なのでは? という質問にはノーと答えます。何故ならば」
委員長はそこで一端言葉を切り、ばーちゃんの差し出した水をお辞儀をして受け取り、こくりと飲みました。
「私は見たからです。あれが母を病気にした瞬間を」
「考えてみなって。この町よりも寺や神社が少ない町はたくさんあるだろ? でもそこは大体平和なはずさ。違うかい? つまりは、この町に原因がある。
いや、正確に言うと、この町は『そういう町』なんだろうさ」
そういう町、と皆が小さく囁き合いました。
つまりは――そういう事が、起きてしまう町。
そういう事が起きやすいから、結界を張る。
「ここからは『そういう町』で長年生きてきた私、いや、私らが立てた仮定の話をするとしようか。
あの世、向こうの世界、まあ、呼び方は何でもいいんだけど、私らの世界の隣には、まったく別の世界があるっぽい。それは、こんな風に――」
ばーちゃんは壁にかけてあったホワイトボードに一本の線を描き、その上に重ねてS字の曲線を描きました。
「所々、うちらの世界と交差しているんじゃないかな?
で、交わってる所が『そういう場所』とか『そういう町』なんて呼ばれる、と。
勿論交わってると言っても、立体交差みたくすれ違ってるだけだと思うんだけどね。
でも、そうだな……使い古された自転車のチューブみたいに、どっちの世界も所々で『何かが漏れる』事があるんだと思う。だから穴を塞ぐんだけど、ちゃんと塞がないと――」
ヒョウモンさんがごくりと息を飲みました。
「同じところからまた漏れる……あ、穴の周りもダメになってる事が多いから、もっと大きな穴が開くかもしれない!」
ヤンさんが僕を指差しました。
「そこで、オッサンはどう絡むんだ?」
「この子は――別の世界に接触する時に、近くにいる、もしくはこの子が関係した物を通して他人に別の世界を認識させることができる。『導体』とでも言おうかな?」
オジョーさんがポンと手を打ちました。
「なるほど! 監督さんは例えるなら、自転車屋さんのオッサンなんですね!
チューブを水に沈めて、ぶくぶく~と漏れてる空気を他人に見せられる存在なんですね!」
ばーちゃんが、目をぱちぱちさせて僕を見たので、僕はそれでいいですと答えました。
「ま、まあ、そんな感じ、かね? ともかく、あたしはそれに気づき、この子に見張りをやらせようと考えた。去年からこっち、妙な噂が耳に入るようになってきたからね。ああ、また始まったか、と」
オジョーさんが、また? と呟きました。ヤンさんが肩をぼりぼり掻きました。
「俺ぁ、ガキの頃、小耳に挟んだことがあるぜ。そういう連中がいて、町を守るために戦ってるってな」
ヒョウモンさんは頬をひくひくさせて小さく笑いました。
「そ、そんな漫画みたいな人たちがいるわけないじゃん。いたら会ってみた――」
ばーちゃんは肩を竦めました。
「そうねえ――例えばあんたらの担任とか?」
ヒョウモンさんは、はい? と間抜けな声を出しました。
委員長は、マジか、と小さく呟きました。
まあ、闘うってのは少しオーバーだな、とばーちゃんは笑いました。
「あたし達がやってたのは、あくまでも見張りだからね。
最期はあたしたち大人、警察、坊主、神主の出番さ。ただ、いつもサキブレに気づくのは――」
「子供、なんだね?」
僕がそう言うと、ばーちゃんは深く溜息をつきました。
「委員長ちゃんがね、結界の話をしてきた時は、やっぱりねえと思ったものよ」
委員長は片眉を上げただけでした。
「あたしが子供の頃はゲームとか無かったから、そういう事に素早く思いが至る人が殆どいなくてね、でも、ゲームとか漫画とかネットとか大量にある今の時代だと、そういう事に気づく子がとても多いんだよね。
でも、そういう事に気づく子ってのは……何かしら理由を抱えてる子が多い」
部屋がしん、としました。
ヤンさんとオジョーさんが互いに目配せをしました。まだ本人達から聞いてはおりませんが、きっと二人で僕達の事を色々と話し合っていたのでしょう。
ヒョウモンさんが僕に視線を飛ばしてきました。僕は頷くと縦膝になりました。
まだ、それは早い。きっと、いつか委員長の方から打ち明けてくれるはず。そう口を開こうとしたのを、委員長がさっと手で制してきました。
いいよ、と小声で言うと、僕にちょっと微笑みました。
うーん、そういう顔をされてしまうと、もう何も言えませんでしたね、僕は。
委員長は立ち上がると、前に出て軽く頭を下げました。
あれ? と思いました。急に、というか、妙に委員長が大人っぽく見えたんです。それでいて、目がキラキラしている。
「私は、母を助ける手段を探す為にこの撮影に参加していました」
ああ、やっぱり、という僕の呟きに委員長は軽く頷きました。
「今、私の母は昏睡状態です。近くのお医者さんからの紹介で大きな病院に入院していますが原因は不明です。実はこの町では――」
委員長はあの紙を出しました。
あの橋の上で見せてもらったローカル新聞の記事のコピー、『相次ぐ、不審死』というあれです。紙を回し読みした皆がざわつく中、オジョーさんが手を挙げ、あの、凄く単純な質問なんですが、と言いかけたのを委員長が手で制しました。
「わかってます。これは病気なのでは? という質問にはノーと答えます。何故ならば」
委員長はそこで一端言葉を切り、ばーちゃんの差し出した水をお辞儀をして受け取り、こくりと飲みました。
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